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夕陽から飛び出して来い   作者: 木畑行雲
第四章『あ』と言ったら『うん』と応えて!?
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第八章

「バームクーヘンもう食べた?」

と、小鬼が早速聞くと、華子と晶は笑い出した。

「まだ食べてないよ、一緒に食べようと思って」

晶がそう答えると、小鬼は嬉しそうに食卓に座った。

 ついでにと、華子はバイト先で貰ってきたマドレーヌやフィナンシェ、パウンドケーキ等の焼き菓子を部屋から持ってきて一緒にした。色んな焼き菓子で食卓が華やかになると、晶と小鬼は拍手して喜んだ。

 小鬼は華子のカフェオレを一口飲んで、

「まずいね」と言うと、バームクーヘンを勧められ、一口食べると「うまあ」と笑顔になった。

 楽しそうに話していると、小鬼はふいに訊ねた。

「そういえば昨日、稲妻が走ってたね、華ちゃんの頭上。何かあったの?」

 その一言で急にしんとなって、晶は何事かと目を見張ったが、当の華子はとぼけた顔をして思い出そうとしている。

「あぁ、バイト先でちょっと喧嘩はした」

「え、誰と?」

「店長」

店長と聞いて晶は青ざめた。外で大人とぶつかるような経験をしたことがないので、とんでもなく大それた事のように聞こえた。しかも店長という店舗の頂点にいる人物と喧嘩をするなんて、子供が気軽にする事ではないと思った。

 晶が唯一、意見をぶつけられる大人は親しい教師だけだし、それも相手の話を聞いて自分の意見を述べるだけなのだ。たとえ感情的になっても相手が許してくれそうな範疇を超えたことはない。恐れ多い気持ちが強くて、いつも後々の心配が優ってしまう。烈しくぶつかり合った後はどうしてるのかなと、巷を見て晶はたまに思った。

 華子の感情的な言動はいつも晶に感銘か恐怖をもたらした。自分にはない気の強さ。予測できない先の未来へ感情一つで踏み込むその一心さ、そういう所は晶を感動させ、憧れさえ抱かせた。しかし、相手次第では窮地に陥る事態を招いている事、自分の手に負えなそうな状況をどう解決するのかがいつも不明な点、そういう所は晶を緊張させ不安にさせた。

 世間では感情的であることはあまり良いことではないように言われている。確かに、晶にも苦手な感情的なやり方がある。しかし、感情がなければ大事にしたいことが分からないんじゃないかとも思う。焦点のように、視野にある頭にある様々な情報の中から要点を絞っている。見分けている。だから、感情的な心には、大事にしたいことが沢山あるのかもしれないし、抱えきれなくなるほど大事にしたい思いばかりが膨らむのかもしれない。だけど、ただ単にわがままなんじゃないかと思うこともある。考えてみるたび、晶は分からないと思う。こういう事は、どっちつかずで判然としなくて、部分的で、状況次第で未知的なのだ。

 ただ、華子のやり方を見ていると、感情的な心はとてもわがままで大事なものを知っている。

 それに一緒にいると、時として華子の怒りや頭にのぼる鮮やかな血潮は、さながら鷲の翼のように晶には見える。堂々としていて、空中でも揺るがない力がある。風に乗ること、一杯の風を切ること、翼を使って生きていくこと。それは本能で、授かった身体で、先を切り開く原動力なのだ。そう感じる。

 いつか自分も両羽を広げて空の中を飛んでみる日が来るのだろうかと思うことがある。感情を表現して、恐れず自分の心を人に知らせること、そうやって真に生きてみるのだ。

 晶は感情を尊敬しているし怖れている。でも平常心が好きであまり左右されたくないとも思ってる。だけど、華子は産まれた時からぴったり纏って翼にしている。そんな風にも見える。

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