第五章
家族の全員が景都と話したがる。誰かが景都と話しているのを聞きながら次は自分と、待ち構えている。
晶は、うちの家族は景都にめっぽう弱いなと思いながらその様子を眺めていた。そして、部屋に上がるまでは家族に会話を譲る事にした。
思春期の女や中年の男女とする、イギリス文学、庭の植物、和菓子、キリスト教系の学校生活についての話。よくそんなに自分の感想を持てるなと景都の受け答えを聞いていて晶は思った。どれもこれも晶にはよく分からなくて、今は特に何も思わないようなものばかりだ。
出し抜けに母が聞いた、
「なんで晶と仲良くなったの?景ちゃん側からのきっかけが知りたいわ」
という質問には、耳が目覚めたようだったが、自分の興味は自分だけなのかと晶は恥ずかしいような気がした。
「初めて会った時、教会にいて、晶は今にも泣きそうだったんです。それで、あぁ、この子は天使のようだと思いました。人の話を聞いて、痛くなる心があるんだって、見ててホッとしたんです。そういう人がこの世界にいてくれて良かったと思いました。――それと、お互いの捉え方が理解できなくて、一度かなりの言い合いになってしまったことがあるんですけど。途中で私が咳き込んで話せなくなってしまったら、晶がどこかに行っちゃったんです。それで、逃げたのかなと思ってたら、水と飴を持って戻って来たんです。すごく怒ってたのに。――結局、その場で理解し合う事はできなかったんですけど、二人でそれが分かったんです。私にとって晶は、人に対する信用を繋ぎ留めてくれるような存在です。デリケートな感情や理性は、失いそうなものを私に気づかせるんだと思います」
こんなに堂々と自分との関係を評価する人を見たことがなかったから、晶があたふたして、「えぇ、あぁ、」と口籠っている間に、理太郎が目を丸くして、
「景ちゃん、すごいな」と、感激する。
「あと、恥ずかしいんですけど。私は両親の政治の下で育っているので、率直なやり取りとか自分を出すような感覚って晶と遊ぶようになってから培われたように思うんです。私の意思とは関係なく、自分たちの得たい世界の架け橋にすると決めている親なので、一緒にいても歯車の一部のように感じられて、たまに、自分が生まれてきた意味って何だろうと思うことがあります」
自分の家の話を普段はあまりしない景都が、この時は思い切ったように心の奥を晒した。ずっと誰かに話したかったのか、言葉にして出せた事で清々したような顔をしている。
景都の話していることは分かったのだけど、晶には感覚としてはよくわからなかった。しかし、天春家の皆はよく分かっているようで、景都の話を包むような態度で、うなずいている。
自分には何をしていいか分からない時、分かる人がいるのは頼もしいと晶は心底思った。
しかし、安心したのも束の間、景都の付け加えた一言で、晶も家族もハッとした。