第三章
猫に名前が付いて、早速行われた事といえば去勢だった。
姉は、何度か動物病院に行く父に着いて行き、ドクターから去勢の話をされるのを横で聞いていた。そして、手術に適した時期や費用などもしっかり覚えていた。
「でも、ジルの体を傷つけるみたいでなぁ」
と、父はずっと決断を伸ばしていたが、姉はジルの為にもその方が良いとドクターの説明を父に何度もし直し、テキパキと予約や当日の準備を進めた。
この事で姉の株が下がったかに思われたが、ジルは全く気にしなかった。むしろ一緒に過ごす時間が増えた事で、一時は父を凌ぐかと思われるほど懐いた。
家では毎夜、華子による教育がなされ、キャリーケースに入る練習を遊びながらしたり、甘噛みしても許される加減をジルは教わっていた。ジルにとって華子は楽しい友達であり頼りになる姉猫のようだった。
しかし父は黙ってその状況を見過ごす事はせず、どの猫も虜にすると言われているおやつを大量に買い込んで、毎日ジルに少しづつ与えた。
「やる事が狡いんだよね」と、華子は一言言うと後は自然に任せていた。
己の愛情に翻弄される父と実正な姉。二人に強い影響を受けて育ったジルは、いつの間にか美しい猫になっていた。
小鬼はこだわりなく付き合うから、自分に懐く犬猫を、
「むぞらしか〜」と、覚えたての熊本弁で唸っていつも喜んでいる。
猫は城に住む王子のような態度で、この土地は我の物といわんばかりに、家のどこで会っても堂々としている。
ソファの真ん中や人の体の上、好きな所にいる事を自身に許し、父に甘える事に飽きると、姉に楽しい刺激を貰いに行き、眠たくなると祖母の横で体を伸ばした。
猫をかわいいと思う一方で、恵まれた愛情と完璧な家庭を手に入れているように晶には見えた。
何もかも持ってるなんて……。