第三章
休日の朝、陽を浴びながら、凛とした姿勢で猫は外を眺めていた。晶は猫の形の美しさに、足を止めた。しばらく見ていると、日向ぼっこをしに来た犬に猫パンチをする猫の顔の真剣さが目に入ってきて、不快感が募った。
そうしてある日、猫への気持ちが複雑になってしまった晶は、
「みんながみんなお前に甘いと思うなよ」と、ソファで寛ぐ猫と目線を合わせて言った。
猫は腹の据わった様子で顔を起こしたまま横たわり、優美なクラシック音楽でも聴いているかのような、夢の中といった目をしている。
人間には無い全身を覆う美しく細かい毛並み、雑言を意にも介さない悠々たる態度、その素晴らしさはそのまま移ってくるみたいに、そのうち晶の目も感情も染めて行ってしまった。
晶は気づくと、口を開けて猫を凝視していた。丸みを帯びた体の毛艶。毛布に包まったような柔らかさが、押し寄せてくる。
そして、感動は光の速さで身体中を駆け巡り、強い想いに駆られていた。
――ふかふかの胸に飛び込んでしまいたい!
「ジール」と、家族が話しかけると、
「ニャーン」と、優しい音色で返事をし、猫はまるで人間の言葉を理解しているみたいだった。
また聞きたいと思わせるような、甘く純粋な声をしている。
天春家では一番早くに起きるのは祖母でその次が父、姉、晶なのだが、いつからか猫は家族が全員必ず朝になるとダイニングに来ることを覚え、食卓の上で祖母がこしらえてくれた小座布団に鎮座していた。
父は、
「毎朝、みんなを迎えてるんだよな」と云うが、定かではないと晶はまだそのように思っていた。
しかし、小鬼と犬と三人で、日の出を見に行こうと早起きをした日。ジルは寝床から起きてきて、玄関で三人に向かって一鳴きした。
それが、「きっと帰っておいで」と、言っていると、なぜだか分かった。
晶は、しばらく猫の見送りを見詰め、
「行って来る」と、ささやくと、ドアを静かに閉めた。
以来、晶は毎朝、食卓で寛ぐジルに「おはよう」と言うようになった。そうすると、あの優しい声で「ニャーオ」と、必ず返事をしてくれる。
小鬼も「おはようー」と、毎朝ジルに言った。
そして、「今日も一緒に過ごせるね」って言っていると、小鬼はジルの言葉を翻訳した。




