第十八話 籠城
「具体的にはどうするの?」
「戦う必要なんてない。さっき言った通りの作戦でいく。」
「分かった。じゃあまずは避難場所だね!」
私とフレアは後ろを走っている男エルフ達にスピードを合わせながら目的地である避難場所へと向かっていた。
数分前。
「フレア様までこの子達を見捨てる気ですか!?」
「そうだ!王族なのであるのなら民である私達の子供を助けてくれ!」
武器を構えて睨む実親達は狂った子供達を守るように前に出て威嚇する。
しかし、フレアは怖じ気づかず、負けじと前に出た。
「勿論、見捨てる気はない!その子達が狂っているのは黒龍の瘴気なのではないからだ!」
「何だと!?」
昔から村を襲う存在の原因がそれであると聞かされていた実親達と味方の皆も衝撃に戸惑って、構えていた武器を下ろしお互いを見合った。
「実のところ私はその子達を森で見かけていた。後を付けていると子供達は黒龍がいる森まで向かっていたんや。」
「「「「!?」」」」
「でしたらフレア様がこの子達を止めてくださればよかったではありませんか!?」
「確かにそれも一つの手ではあったけど、良いとは思わなかった。なぜなら、その時には既に精神魔法をかけられていたからや。」
流石の私もあれだけの数に勝てる自信は無い。それにもし、止めると言う選択をするのであればそれ即ち子供達の『死』を表す。
ならば手を出すのは悪手と判断した。
どけど、実のところフレアは後悔していた。黒龍が何をしたのかは想像も付かなかったが、帰ってきた彼らは別の生き物に変わってしまっていた。
村への道通りで見つけた獣達を貪り食い、就寝は勿論土の上。
それ以外は歩く兵器の如く一直線に村へ歩を進める。
そこにいたのはエルフでも無邪気な子供でもない狂いに狂った狂人達だった。
だからそれを見た私は気が滅入ってしまいあの時諦めてしまった。
だけど今は。
助ける事に尽力する!
「まだ方法は分からへん。やけど、絶対にその子達を救う手立てを見つけてみせる!そのためにはその子達を拘束しておかなあかん。」
「拘束!?しかしフレア様!子供と言えどあれは狂人!簡単に捕まえることは出来ませんよ!?」
味方側のエルフはフレアに叫ぶがそれを予知していたかのようにフレア頷いて答えた。
「大丈夫。今、私の矢には神楽草の液が塗られている。知っての通りの麻酔薬や。これで大人しくさせてる。分かったやろ!私らに子供達を殺める気はない。だからお願いや!協力して!」
「私達の子供は助かるのですか?」
「!」
反応してくれた一人のエルフにフレアは顔を明るく輝かせその者の手を取ろうと近づこうとしたその時、エルフは『しかし』と変わらない形相を露にした。
「どうやって?」
「だ、だからそれを皆で探そうって!」
「その間、この子達は神楽草で眠らせておくのですか?」
「それしかない!」
「知っていますか?神楽草の麻酔能力は高く、子供の体には猛毒だと言うことを!」
「そ、そんな事実は!!」
「ええ。ありませんよ。だけど、麻酔とは神経を無理矢理麻痺やせると言う事。それを長い時間投与し続けるとどうなるでしょうか?ハッキリ言ってそんなの想像も出来ない事だけど、体に良くないことは確かだ!」
「そ、そうだ!それにお前達がこの子達を助ける証拠が何処にある!?眠らせてから殺す事だって可能だ!」
「しょ、証拠って...。そんなのって!」
「フレア様。貴方が私達を救おうとしているのは痛いほどに伝わってきます。ですが、それすらも私達は疑わなければならない。でないと、この子達を助ける事が出来ない。」
「それが原因で死んでしまったとしても!?」
「この行動が善あるものでない事は、最初から自覚しております。だからその時はそれが私達の罪だと思い貴方達を恨みはしません。」
下ろしていた武器を構えて、裂こうとせん凶器の先を私に向けたエルフ達の目は静かだが、奥に揺れる青色の炎が私を焼く。
「私達は貴方達を倒し、私達の国を作り、幸せに暮らす方法を見つけ出す!」
「信じてもらえないなら強行手段に移させてもらうで。」
静まり返る静寂に男エルフは腕をあげて。
「かかれぇ!!」
振り下ろし戦いの蓋が切って落とされる。
その合図に合わせる様に他のエルフと狂人達は私達側に襲いかかってきた。
「皆!あくまでも私達の狙いは『収束』。傷つける事は極力抑えたい。だから、私に任せて欲しい。」
そして今。
私達が走っている後ろから追いかけてくるエルフと狂人達。
狂人達の身体能力が上がっているとは言え、特別足が早いわけではなかったのは幸運と言える。
走る事に集中している私達に敵に目を向ける暇なんて無い。
攻撃にはフレア。
前線は私が引き連れて走る。
遅れている者がいないかと辺りを見渡すが流石はエルフ。飛行と走りを上手く両立して遅れを取らないようにしている。
仮に遅れている者がいたとしても仲間同士でカバーしている。どうやらこっちは問題はなさそうだ。
だけど。
「フレア!敵の数は!?」
「順調に減ってはいるけど肝心の狂人達に一発も当たっていない。」
「矢の補充は!?」
「まだ大丈夫やけど、神楽草がないただの矢だときついやろな。」
依然として敵が優勢なのは一目瞭然。だけど、私達のやるべき事は変わらない。
このまま避難場所を目指す。
数分前。
「避難場所!?どうして避難場所に逃げるの!?あそこには戦えない人達が集まっているのに。」
「だからや。今回襲って来てるのは狂人だけやない。避難場所を知っている者達がいる以上何処から攻められるか分からへん。だったら最初から避難場所の近くで戦って万が一の事態にも対応出来た方がいい。」
数分後
(とは言ってたけど戦える皆も本当に子供相手に武器を振れるなんて思えない。なら、この戦い、避難場所に着くまでにけりをつけないとこっちが不利になる。)
こんな状況でフレアだけに戦いを任せるのは気が引けるけど、そんなこと言ったって何も出来ないのは事実。
それに、私が言った可能性が本当の希望になりうるのなら犠牲を出さずに済むかもしれない。
私達はフレアを信じて走るだけ!
「フレア!数は!?」
「大人の方は大分片付いた!後は子供達だけど、身体強化のせいか、操られているせいか、薬の効き目が芳しくない!」
だとしても、大人達を無力化出来たのは大きい。何度か見たけど、狂人にされた者達はあまり考えずに行動しているように見える。
平気で殺しにかかってくる所は厄介だけど、裏手に取れば上手く納められる。
「フレア!もうすぐ着くよ!」
「分かってる!」
手に取っている矢を鋭く放つとフレアも私達の先頭に立って走る。
「避難場所の入り口以外に門は!?」
私は脳内で過去の映像を映して思い出す。
「確か、非常時の裏門があったはず!」
「着いたらはず始めに裏門に栓をする。完全に籠城して時間を稼ぐで!」
「分かった!」
「フレア様!」
私達の簡易な作戦会議に横から叫ぶのは、同じく走っているエルフの男。
その男が指す指の先には。
「やっぱりか...。」
断然小規模ながらも森の周りを沿って来た別の部隊。
「どうする!?」
「私が相手をしてくる!その間に正門と裏門を閉じて!」
「フレアはどうするの!?」
「私なら大丈夫や。飛んで上から入れる。」
「だとしたらあの人達も飛んでくるんじゃ?」
「確か砦の側には適当に槍を持たされた者達が適当に配置されているはず。私よりも避難場所に詳しいあの人達なら飛んで入る事はしない。」
「とりあえず分かった!じゃあ私達は先に行くね!絶対に後でね!」
「うん!」
フレアはハイスピードで向こうに飛んでいき、私達は避難場所の正門に突っ込む。
「皆!さっき聞こえただろうけど籠城作戦に移る!避難場所に着いたら半分は裏門と正門を閉じてフレアの帰還を待つよ!」
後ろを見ると敵との距離はかなりある。正門を閉じるには十分だ。
「よし!行動開始!」
避難場所の正門を通り、最後の一人がギリギリ通過出来る計算で正門を閉じる。
が。
『ドン!!』
『ドン!!』
男数人で抑える正門が外からの力で揺れる。
「早く栓を!」
押される度に地面に新たな足跡がつく。
中に入った数人が大きな栓を持って、よろめきながら走ってくる。
「「「「せーのっ!!」」」」
『ガチャン!!』
全体が揺れるような大きな振動と共に正門は閉ざされる。
よし!とガッツポーズを取る暇もなく私達は裏に走って回る。
途中で栓を見つけて片手で担ぐ。
「ヒュームちゃん!!」
正門みたいに叩かれている様子は無いけど私は急いで裏門の栓を占めた。
(これで...!)
作戦通りに私達は籠城作戦を成功させ、その場に座り込んだ。
だが、息を落ち着かせたのもつかの間。一人のエルフが走って私の元に来た。
「ヒュームちゃん...フレア様が。」




