第九話 フレアの秘密と呪いの弓(中編
「挑まなくちゃいけないって。どうしてそんな使命かのように!」
「『かのように』ではない。使命なんじゃよ。」
私はおばあちゃんが放った鋭く光る眼力に息を詰まらせた。
「人器▪白縫は誰にでも扱える代物ではない。人を選び、その者の力になる代償にその責務を押し付けられる。フレアが誰とも干渉したがらないのは。」
「いざと言う時にためらわない様にするため...。」
正にと頷くおばあちゃんに私は力が抜けて思わず「はは...。」っと頬までも緩んでしまった。
「白縫に選ばれる理由。それは白縫の血を受け継いでいる何よりの証拠。ここに記されておる者達全員が黒龍に挑み敗れた過去の勇気有る者『勇者』達なんじゃよ。」
本が放つ良い匂いに慣れてくるとこう言った気まずい沈黙の時間がより一層息苦しく感じてきた私は有りがたくも脳裏に湧いて出た疑問を『待ってよ。』と口を開いた。
「どうして、そんな責務を背負わなくちゃいけないの?」
その一言におばあちゃんは最後のページを捲り、本を私の方向に合わせてくれた。
その最後には白縫と思われる弓の絵が見開きに大きく描かれており、その上に重なる形で読むことのできないグチャグチャな文字らしき物が書かれていた。
文字らしき物だと分かったのはそれでも綺麗に行区切りされていたからだ。
「これはその男が持ってきた古代の書物じゃ。」
『世界の災厄が世界を脅かすその時、同時に世界は何もない煉獄へと変わる。』
「おばあちゃん読めるの?」
「いや、昔に解読され伝わってきた物を頭に入れとるだけじゃよ。」
『神により選ばれし者の手により作られし武器。人器を持ち災厄をうたんとする者現れり。全てはその一矢に光は照らされる。』
「簡単に言えば黒龍を討伐しようとする者が人器▪白縫を持って現れてその一矢で黒龍は撃たれると書かれている。」
「じゃあ白縫に選ばれた者が黒龍に挑むのって。」
「そう。確かに黒龍は白縫によって伐たれるはずなんじゃ。
しかし、初代がやられてから分かったのはそれが誰の手によってなどは書かれていなかったという絶望。
それ即ち、誰がどの時代で成し遂げるか分からないから、血縁者は本人の有無など関係なくその使命を受けに行かなければいけないんじゃ。」
「で、でも!おかしくない!?どうして皆帰ってこなかったのに白縫だけはちゃんとフレアの手に渡ってるの!?」
「それだけは本当に謎ではあるのじゃが、なぜかあれは決まってエルフの森付近の川に流れて帰ってくる。お主が流れていた川じゃよ。」
自分が衰弱した状態でフレアに見つけてもらった場所こそが流れつく場所らしい。
実はこの前、私はその川を見てきたが決して緩やかとは言えない流れの早さであった。
奇跡的にフレアに見つけてもらったからいいものの、果たしてフレアが軽々しく背負っている弓があの流れの中で何度も誰かに見つけてもらえる場所に流れ着くだろうか。
もしそれが偶然による偶然なのであるならそれこそ奇跡だ。
「流れて帰ってきた白縫は当然と言わんばかりにフレアを選んだ。事情を知っているのはワシと前の後継者であるあの子の母親とその夫だけ。
そして、白縫が流れてきたと言うことは同時にあの子達も勝てなかったことを示す。
だから村長であるワシがあの子を育て、あの子自身に使命を言いわたす責任を全うしなくてはいけなかった。」
「じゃあ、フレアは最後自分が何に立ち向かうのかを?」
「当然知っておる。しかし、最後にはフレアもまた黒龍に勝てずこの弓だけが戻ってくるのじゃろうな。」
「ど、どうしてそんなことを!?」
「伝承によれば人器▪白縫が本来の力を解放した時。人器は神器へと変わり数多の星屑で悪を伐つとされているが、前の後継者もその前も、前の前の前の前の前の。初代以外、誰もその力をまともに発揮した者はいないと言う。
伝承通りであるならば力を解放していない時点でフレアの勝機は無いと言うことじゃ。」
「人器を解放する方法は...?」
おばあちゃんは目を閉じ、弱々しく頭を左右に振った。
勝手に手を伸ばして貪る様に乱覧したものの、それらしき事は一切書かれていなかった。
「ワシは責任に従い、幼いフレアにありのままを伝えた。するとフレアはワシに笑ってこう言ったんじゃ。『分かった』。」
『ドン!!』
私はテーブルを壊そうとせん程の力で殴ったおばあちゃんに肩を上下させた。
「どうしてあの子なんじゃ!!どうしてこのような運命の元に産まれなければいけないんじゃ!!」
おばあちゃんはテーブルに顔を埋めて背中を痙攣させる。
「こうやってあの子には叫んでほしかった...。嫌だと言ってほしかった...。なんでもいい。『助けて』でも。『怖い』でも。ワシの前だけでは甘えてほしかった。
あの子は強い。
強いあの子は、人と関わることも、自分を見つめる事もやめて、ただひたすら背負った呪いに縛られ、運命を辿る事をワシらの為に選んだ。」
その話を聞いた後に白縫の見開きを見るとなんだかおぞましい何かに見えて鳥肌が立った。
もし、自分がフレアの立場だったとしたら彼女のように笑って弓に手を伸ばしていただろうか。
震えた手を押さえつけて作った笑顔を顔に貼り付けれるだろうか。
いや恐らくは無理だと思う。
なぜならそれが普通の人として生きると言うことだろうから。
「だからヒュームちゃん。お願いじゃ。どうかフレアを最後まで見守ってはくれんか?悲しく散り行くその時まで。」
何も返事をせず、強く包容する事を私なりの答えとした。
どう伝わったのかは定かではないが私は強くこう思った。
『必ず助けてみせる!』
と。




