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聖女の影響力のこと

拙作を、まだ見捨てずにいてくださる方に感謝申し上げます。

 魔法陣に組み込まれた術式の解析は、かなり進んできた。優秀な人材が、集中してやっているというのもある。そして、花乃子の勘が、あながち間違ってはいないのではないかと思われる部分が現れた。

 ……と聞いて、逆に花乃子が焦ったりもしたが、リーダーのウィーロをはじめ、解析チームは非常に盛り上がっている。


「この部分ですが……異世界と繋がる通路のようなものを発生させるための術式と思われます。が、繰り返しの回数が13回もあって」

「それって、多いの?」

「そうですね、同じ術式を繰り返すことはあるにはあるんですが、ここまで回数を重ねるのは……13か月ってことで1年を意味しているのかも」

「え、1年が13カ月!?」

「え?」

「ちなみに何日間?」

「396日ですが……それが何か?」

「あー……いや、ごめんなさい。たいしたことじゃないです」


 ぶんぶんと首と両手を振る花乃子の様子に首をかしげながらも、ウィーロは説明を再開した。

「今の時代は、せいぜい2回か3回です。それに、繰り返すにしても、我々でしたら間に別の術式を挟んで、それぞれを独立させるようにします」

「別の術式?」

「はい、術式といっても緩衝材のようなものですね。一つの術式を連続して繰り返すというのは、大きな効果が得られるというより、暴走を引き起こす可能性の方が高いと考えられています」

「でも、この召喚魔術では暴走は起きていないわけでしょ」

「その点は、大魔術師クーリヨ様のすごさですねぇ」

 つまり、術式を魔法陣に組み込むことで、暴走を抑えつつ効果を上げたらしい。


「ただ、ここまで重ねる必要があったのかという疑問も出てまして」

「というと?」

「検証しないと断言はできませんが、聖女……人を一人招くにしては強力過ぎるという者がいるんです」

「でも、私以外には、ヒトにせよモノにせよ召喚された感じはしなかったけど……私も身一つで、何も持ってこられなかったし。あ、服はちゃんと着てたっけ」

 元の世界の映画で、時空を超えたアンドロイドというかロボットというか登場人物が素っ裸だったことが頭をよぎった花乃子だったが、ウィーロには当然、意味がわからなかったようだ。

 が、異世界とのパイプを繋げるための術式が強力過ぎるというのは、気になる。

「もう少し、お待ちくださいね。カノコ様を元の世界に戻して差し上げることはできなくても、何かしら、お役に立てるようなことが見つかるかもしれません」

 昔の術式の解析が、こんなに面白いとは思いませんでしたーと、ニコニコ笑うウィーロに、魔術師という人種はどんだけ仕事好きだよ……と、自分のことは棚に上げて呆れる花乃子だった。


  ◇◇◇


 花乃子は召喚されてからこっち、王宮で暮らし、自身の衣食住の費用+侍女さんたち側仕えの人たちの人件費は全て、国家予算から出ている。花乃子としては仕事をして給料をもらい、市井に部屋を借りるなどして自活したいのは山々だが、未だ果たせていない。

 が、興味の赴くまま、過去の聖女について調べてまとめた書類がきっかけで文書の書式が一新された。おかげで書類の処理の時間が削減され、文官たちの残業が減ったという。顔見知りになった文官によると、残業代はスズメの涙程度しか出ていなかったそうで、大いに感謝された。つい宰相に「どういうことだよ!」とツッコミを入れてしまったのは、的外れだったかもしれないが、財務大臣とは面識が無かったせいである。

 これに対し、宰相からは「そういうものなのか」というのん気な返事が返ってきたため、舌打ちとともに「これだから、お貴族様ってヤツは……」と毒づいた顔が宰相の肝胆を寒からしめたらしい。今後は善処するという言葉を引き出して、実際に給与体系も見直された。


 このほかにも、侍女さんたちにせがまれて伝授したボディシェイプのための体幹トレーニングなどが、いつの間にやら貴族の女性たちに広まりつつある。花乃子自身の体型が、真面目にやれば効果はあると証明しているので、信奉者は増えるばかり。

 加えて、花乃子の(元の世界の)下着、要するにブラジャーに着目したドレスメーカーが、コルセットに替わる下着の開発に乗り出したらしい。コルセットが苦手で免除してもらっている花乃子としては、ありがたいことである。


 ついでに、和食が恋しい花乃子が予備の厨房で作らせてもらった塩胡椒ベース(醤油は発見できず)の豚の生姜焼きが、興味津々だった料理長の嗅覚と味覚を刺激したようで、「他の料理も!」と頼まれてしまった。王宮で食べられる貴族向け料理はフランス料理っぽいものが多いので、シンプルな見た目や味付けが珍しかったようだ。

 幸い、野菜や肉類は元の世界とは名前が異なるだけで、ほぼ同じだったし、寧ろ素材自体の旨味が濃い。調味料も西洋料理に使われているものと共通している。本当はうるち米を見つけて、ご飯が食べたいところだが、料理長も知らないということなので、流通していないのだろう。醤油と味噌も然り。

 ちなみに作ってみてウケたのは、ジャガイモの超シンプルコロッケ、魚の塩焼き、それに呉汁。特に呉汁はポタージュのようだと絶賛された。ならばと、スープで少し薄めて具を煮込む豆乳鍋の説明をすると面白がっていた。王侯貴族には出せないだろうと思うが、案外、アレンジして出したりして。

宰相に毒づく庶民……。しかも、強い。

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