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養護施設でのこと

超スローペースの更新にも拘らず、お付き合いいただきありがとうございます。

「はっはっはっ、ズンダーのことは悪ガキ時代から知っておって、我ら夫婦にとって、もう一人の息子みたいなものだからな」

「あら、ズンダーは、うちのバカ息子に引っ張り回されてただけで悪ガキではありませんでしたわよ。ほほほ」


 場所は施設の食堂、目の前にはお茶。

 そして、テーブルに向かい合わせで座る元騎士団長で現施設長のキーントン卿と奥方様が、楽しそうに笑いながらズンダーに対する雑な扱いの言い訳(?)をしている。当のズンダーは、いつものことだと苦笑するのみ。でも、かわいがられていたのは、よくわかる(いろいろな意味で)。

 キーントン卿は黙っていれば謹厳な顔立ちで、笑った顔もちょっとだけ怖い。が、中身はかなりさばけた人柄のようだ。奥方様……めんどくさいので奥様も、肝っ玉母さん系だし。ちなみに、後でズンダーに聞くと、奥様にバカ息子と言われたご子息は、北部国境の警備をしている大層有能な師団長様だそうである。


「ああ、あなた、カノコさんのお土産は子どもたちのためで、あなたの分はありませんからね」

 その言葉を聞いて、シュンとする施設長様。かなりの甘党らしい。

「あー、いえ、数はそれなりにあると……」

 ズンダーから子どもたち+職員の人数を聞いて、更に多少の余裕を持たせた数を購入している。が、それを遮るように奥様の言葉が続いた。

「この人、食べ始めたら抑えが利かないのよ。子どもたちの分まで、あっという間に食べちゃうわ」

 容赦のない言葉に、ますます肩を落とす施設長様。が、それは、みんなに恨まれる+小さい子には泣かれるレベルである。


「それで、最近は何か問題は起こっていませんか?」

 それまで控えめに過ごしていたズンダーが、言葉を発した。ようやく視察っぽくなった。

「おう、大したことじゃないんだがな」

 瞬時に立ち直ったらしい施設長様が立ち上がり、ズンダーを連れて出ていく。施設長室へ移動するのだろう。


 と、奥様も立ち上がり、花乃子を手招きする。

「そろそろ学校に行っている子どもたちが帰ってくるわ。顔を見せてあげてちょうだいな」

「大したもんじゃありませんが、こんな顔でよろしければ」

 花乃子の言葉にころころと笑う奥様の後ろについて表玄関の方に向かうと、子どもの声が聞こえてきた。


   ◇◇◇


「初めまして、カノコといいます」


 と聞いても、「ふ~ん」といった反応なのは、来客がさほど珍しくないためだろう。慈善活動の貴族のお嬢様やご婦人たち、働き手を探しにやってくる商人、それに子どもの身内も時折、訪ねてくる。

「今日のおやつは、カノコさんのお土産よ」

 奥様のフォローで、子どもたちの顔が一気に親しみの溢れるものになる。わかりやすいぞ。

 先程まで居た食堂に子どもたちとともに戻ると、ミルクの入ったカップとともにお菓子がテーブルに並んでいる。歓声を上げて席につき、「いただきます」の挨拶をして嬉しそうにお菓子を頬張る様子はかわいい。花乃子は、自然に笑顔になっていた。


「カノコさんは、子どもはお好き?」

「そうですねぇ……自分の子どもを持つ機会は無かったですけど、笑顔を見ていると幸せな気持ちになりますし、未来を担っているという意味では、より長く生きている分、守らなくてはと思いますね」

 それに実年齢はともかく、精神年齢は近しいものを感じる……と続けると、奥様はおかしそうに笑う。その笑顔に助けられて、花乃子は疑問に感じたことを尋ねようと思った。


「年かさの子は、女の子ばかり……ですね」

「……どうしてもね、そうなるのよ」

 

 やはり男の子の方が、商家の使い走りなど、幼いうちから住み込みの仕事があるのだという。それはそれで、教育はちゃんと受けられるのだろうかと気になるが、いわゆる読み書き算盤といった最低限の教育は商家では必須ということで、仕事先で仕込まれるそうだ。

 もちろん、養護施設でも初等教育は男女を問わず学べる。その後の騎士になるための学校や、職業訓練のための学校にも全員ではないが進学は可能だ。成績優秀ならば、学費の免除や奨学金もある。ただ、女の子、しかも平民となると進学先は少なく、就職先も限られる上、薄給だったりする。

 結局、稼ぎ手を失うと自身に経済力が無いか、あっても乏しいため、養護施設の世話にならざるを得ない女性が多いのだ。女性は男性に庇護されるもの……という意識が貴族だけでなく平民にも浸透していて、自立を妨げる。マイノリティが社会的弱者という図式は、こちらの世界の方が顕著かも知れない。

 そして、そういう意識を変えていくのが大変なのは、どこの世界も同じだろう。


 花乃子がそんなことを考えているところへ、ズンダーが施設長とともに戻ってきた。必要な話し合いは終わったらしい。と、そのズンダーに、はしゃいだ声で「団長さん!」と抱きついていく8歳ぐらいの男の子がいた。ズンダーも「元気そうだな」と言いながら、笑顔で男の子の頭をなでている。他の子どもたちよりも懐いている様子は、なかなか微笑ましい。

 その姿を見つめながら、奥様がそっと口を開いた。


「あの子……キビーというのだけど、あの子の亡くなった父親は、ズンダーの部下だったのよ」

騎士団は、実力制で身分を問いません。

家を継がない次男以降の、腕に覚えアリな男性に人気の就職先ということで。

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