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養護施設のこと

お読みいただき、ありがとうございます。

 騎士団長がなぜ、子どもの養護施設を開設したのか。


 その当時、聖カリント王国の北にある国の情勢が平穏とは言い難く、国境を挟んで戦闘が何度かあった。となると、騎士団の人的被害は避けられない。そして、経済的にも心情的にも支えを失った遺族の生活は苦しくなっていく。特に平民出身の団員の場合は顕著で、女性の働く場所がほとんど無かったこともあり、そのしわ寄せが子どもに向かった。

 当時の騎士団長アズーキ侯は、そのことを非常に憂いた。生命保険や労災、遺族年金といったものはシステムどころか、意識すら無い時代だったため、早急に救済策を講じなければならないと、私財を投じて施設を設けた。


 団員にしても、いつ我が身に振りかかるかわからないということもあって協力を惜しまず、給料の中から寄付をして積み立てたり(これが後に、生命保険や遺族年金を含む共済制度の基礎になった)、引退した団員や家族が新たに施設を開いたりと、騎士団による慈善事業として広く認知されてきた。

 また、預けられた子どもが騎士を目指したり、実際に騎士となって活躍したりといったケースもそこそこあり、人材育成もできる施設としても信頼を得ていた。


 その後、孤児に違いはないと、一般庶民の子どもも預かるようになったことで運営の主体は国になったが、騎士団が何かと協力するのは変わらず、最初にできた王都の施設を騎士団長が視察するのは、数カ月ごとの恒例行事となっていた。


   ◇◇◇


 騎士団長が子どもの養護施設を視察と聞いて首をかしげた花乃子だが、ズンダーにかいつまんで養護施設の成り立ちについて教えられて納得である。

 しかも、ズンダーが視察を業務としてではなく、敢えて非番の日に部下も連れずに行くところが「良いな」と思った。堅苦しくなく、それこそ親戚のおじさん(お兄さんに非ず)が遊びに来たという風情で行くのだろう。それならば、同行するのはやぶさかではない。

 が、花乃子が「何かお土産は持って行かないのか」と尋ねると、ズンダーは特に考えていなかったようで、きょとんとしている。その辺は、視察という感覚が残っているらしい。笑いながら、自分は初顔合わせだからお土産を持っていきたい、人数と年齢構成を教えてと頼むと「なるほど」と教えてくれた。


「やっぱり、食べ物で釣るようだけど、お菓子かしらねー♪」

「楽しそうだな」

「ふっふっふー。お給料をもらえるようになったから、“自分のお金”で買い物ができるんですー」


 聖女としては何もしていないが(する必要も無かったりするが)、事務用書類や給与体系の変革の報奨という形で、一般的な文官の半分程度の金額ではあるものの、給与という形で個人収入が得られるようになったのだ。半分程度なのは、王宮暮らしが継続中で生活費が掛かっていないためである(王宮から出て市井で暮らすことは、国王に却下された)。

 加えて、新しい女性用下着の開発に当たり、顧問のようなこともしている。元の世界と同じ下着ができればありがたいので喜んで手伝っているが、その謝礼も是非にと言われ受け取るようになった。 


 ただ、食事は使用人用の食堂に行くようになった。侍女さんズに困った顔をされたが、部屋で一人で食べるより、みんなで一緒に食べたいから!と拝み倒したのである。侍女さんだけでなく、顔見知りになった人たちと顔を合わせながら、にぎやかに食事ができるのは楽しい。料理人さんにリクエストもできるし、料理人さんからアイデアを求められて食堂メニューも種類が増え、利用者からは感謝された。


 それはともかく。


 王都の施設に居るのは2歳から15歳までの35人。男女比は、6対4で女の子が多いとのこと。

 それならばと、何種類かの焼き菓子を中心に、見た目がキレイなキャンディやチョコレートなども織り交ぜて買い込んだ。少々かさ張ったが、そこは心優しい騎士団長様が抱えてくれる。正確に言えば、取り上げられてしまった。ホント、どこまでも紳士である。


 施設に到着すると、まずは責任者にご挨拶をと、正面からではなく勝手口のようなところに向かう。ズンダー曰く、正面からだと子どもたちに見つかって騒ぎになるのだそうで……って、団長様は人気者だったのか。何となく、納得。

 ちなみに責任者は先々代の騎士団長様だそうで、奥方様もご一緒に施設で暮らしているとのこと。

 ドアをノックすると、開けてくれたのは七十代ぐらいの銀髪の上品なご婦人だった。


「あら、ズンダーじゃないの。もう、そんな時期……って、まあまあ!」


 ズンダーの後ろに控えた花乃子に気づき、ぱっちりとした瞳を更に開いたかと思うと、嬉しそうな笑顔に変わる。そして、ドアから出てくると、花乃子の両手を握りしめた。


「貴女が聖女のカノコさんね」

「あ、あの……初めまして。お察しの通り、カノコと申します」


 思わぬ歓迎ぶりに驚き、思わずひるんでしまったし、両手を握られてはお辞儀もしにくい。


「お会いできて嬉しいわ。堅苦しい挨拶は無用よ。どうぞ入ってちょうだい」

「ありがとうございます……?」


 奥方様(恐らく)、真横の騎士団長の存在を最初の一言以来、無視していらっしゃいますが。

異世界の文化レベルは、18世紀前半ぐらいのヨーロッパといったところです。

蒸気機関ぐらいあってもいいんですが、それはどうも無いようです。

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