チート保険如何ですか?
〝頑張るの嫌い?〟って。
大体、頑張るのが好きなんて奴がいるんだろうか。
頑張らせるのが好きな奴なら知っているが、そいつだって自分が頑張っているかと言うとはなはだ疑問だ。
こんな時正解が答えられるようなら、現国の成績はもうちょっとましなはず。
どうせ、その内申書らしきもので個人情報はダダ漏れなんだろう。俺は正直に答える事にした。
「頑張ったからと言って、頑張った分に見合った良い事がある訳じゃないんで……」
「なるほど」
と言って手元の資料に目を落とす。不安だ。
良い事が有るほど頑張った事あるの? ……そんな目で俺を見るな。
「ところで君、少子化って知ってるかな?」
「ええ、まぁ」
「ここは天界の日本支部、基本的には転生先も日本人です。性別のみランダムで変更されます。優先順位からいうと天国で数百年過ごして生まれ変わる方が一位になり、君のように燃え残っている魂は二番手です。
そこに少子化の影響がある訳です。
生まれる人間の数に対して、転生待ち魂の数が圧倒的に多い。そう言った余剰魂は、まだ出生率の高い他国へ、天界ODAの返礼みたいな形で受け入れてもらったりしていたんですが、そうそう全て押し付ける訳にも行かない。
そこで、我々日本支部は画期的な転生先として〝異世界〟を独自に開拓したと言うわけです。
幸い現在の日本において異世界は日々生まれ、その数は膨大です。平穏で常識的な現世日本と比べてはるかに刺激的ですから、嫌でも早い段階での完全燃焼が可能です。
ときに君、異世界に興味は?」
「ありますっ‼」
「……かなり興味有るみたいですね」
「勿論ですっ! 俺、いえ僕はトラックに轢かれそうな猫を助けると言う体で死んだ訳で、それはもう異世界転生のテンプレ的王道かと!」
「なるほど。最近そう言った不完全燃焼魂の方、増えているんですよね。でもまぁ、死因はあまり関係ないと言いますか、全然関係ないと言いますか、転生先は一期一会ですのでね。タイミングが大事です。
君の場合は残念ながらと言うか幸いと言うか、現代日本の本日分は終了してしまっているので〝その他〟という事になりますが、どういった第二の人生をお望みですか?」
「そりゃあもう、刺激ですね。
だいたい、現実は平和すぎて退屈です。こんな毎日を送っていて完全燃焼出来る人が理解できません……」
そこから先は開き直った。どうせ全てお見通しなら、取り繕っても仕方ない。
ダラダラと続く俺の言い分を黙って聞いていた担当の男は最後に言った。
「解りました。では、最後に質問です。現世に思い残す事はありませんか?」
ありません! と、直ぐに答えられなかった。
『思い残す事』と聞かれた瞬間、家族の嘆き悲しんでいた様子を思い出したのだ。
もう顔も思い出せないのに……
「あるんですね?」
「いえ……」
「以上で問診は終了です」
次の瞬間、またもや俺は移動していた。
三つの扉が並ぶ部屋。どこからか声がする。
『お好きな扉をお進みください』
なんだ、結局最後は自分で選べという事か。
自己責任と言う奴だな。じゃあ今までの事は何だったんだ。それとも、今の問診があっての三択なのか? 何でもいいけど当たりはあるのか?
俺が選んだのは真ん中の扉。理由は何となく気が楽だから……
次に気が付くと、俺は若い女の腕に抱かれていた。
多分母親なのだろう。
そして彼女は俺を抱えて必死で走っていた。
栗色の髪、彫りの深い顔立ち、大きな瞳。この女の子供なら俺の容姿にも期待大だ。
爆弾の音がする。銃声も聞こえる。ガンゲーム? 剣と魔法の世界ではなさそうだ。
走っているのは逃げる為? どうも穏やかな感じじゃない。
よく見ると女には家族らしき連れが女ばかり数人。男はいない。
保険の契約内容〈記憶保全〉〈言語理解〉も問題なく生きているようで、話の内容も理解できる。
どうやら俺は生後約一ヶ月。
生まれたばかりってのは随分もうろうとした物なんだな。全く記憶が無い。
父親はこの内戦で命を落としたらしく、連れは女の姉妹と母親。
何だかかなり悲惨な感じだ。
俺はこの世界の救世主になるのか?
にしても何年後だ。〈年齢固定〉特約も付けておけば良かった! これではその前に死んでしまう。
考えたい事は山積みなのに体は赤ん坊、厄介な事に気が遠くなる……
重い。目が覚めると俺の上に先程の女が覆いかぶさっている。
息が無い。
お母さん(多分)さようなら、短い間だったけど。
一緒にいた女たちも皆、折り重なるように倒れている。
ちょっと形容したくない悲惨な状況。泣きたくなる。
と思ったら泣いていた。しかも盛大に。
「うるせー!」
どこからか怒鳴り声。それと共に銃声。
ジ・エンド。
「お客様? 随分お早いお戻りですね」
俺は赤ん坊のまま小野妹子の腕に抱かれていた。
「まだまだ魂の燃えカスが残っていらっしゃいますね。保険料のお支払いも残ってますが……
いかがでしょう、次は特約もお付けになっては。最強チートは勿論の事、年齢性別なんでも揃っております。あら、お話しになれないんですね。困りましたね」
たいして困っているようには見えない小野妹子はそう言ってニッコリ笑った。
こうなったら次は最強無敵チートをつけてやる! 金はいくらかかっても構わない!
アレ?
これって?
罠かもしれないと分かった時には、既に抜けられない。
ここってホントに天界なの?
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。なんか、書いているうちにブラックな話になってしまいました。すいません。
とか、言いつつ続編書きました。「春の勇者召喚まつり実施中!―チート保険の新商品―」下部の題名がリンクしています。よろしかった覗いて下さい!




