診断室での面接
「お客様、本当に基本セットだけでよろしいんですか? ただいまキャンペーン期間でございますから〈戦闘能力アップ〉の特約に『福引券』が付きますが」
「福引って?」
「よくある、ガラガラと回すと色のついた球の出て来るあれです」
「いや、そう言う事じゃなく。景品は……」
「これは失礼致しました。景品は転生後の職業です。
上から『魔法少女(少女)』『勇者(男)』『ハンター(女)』『賢者(老年男性)』『村人(男)』『中ボスキャラ(年齢性別不明)』末等は『現状維持』となっております」
ちょっと待て。そのラインナップ、万人向けなのか?
どこに転生するか分からないのに?
博打過ぎる。
こんなリスク性の高い福引は、今まで経験がない。
福なのかも不明だ。
「大丈夫です」
「かしこまりました。では契約書を取り交わさせていただきますが、基本セット、オプション無しでよろしかったでしょうか?」
小野妹子はどこからか契約書を取り出した。
「では、ご契約に関する取り決めの書かれた文章をお読みになり、この印と書いてある所に親指を押し付けて下さい」
読む気にもなれない、ってか読んでも理解出来そうにない細かくて膨大な文章を読んだフリをし、説明を受けた旨を確認する欄に拇印。続けて契約者欄にも親指を押し当てる。
インクもないのになぜか指紋が残る。
転生しても指紋って変わらないのかなぁ……とか思っていたらいきなり契約書は消えた。
「以上でご契約は完了致しました。ありがとうございました。
ご愁傷さまでございました」
そう言うと、小野妹子はさっさと次にやって来た新入りの所へ行ってしまった。
に、してもだ。
ご愁傷さまって……俺が死んだことに対してだよな。
なんて後味の悪い言葉なんだ。
こんな契約してご愁傷さまって事じゃないのかとさえ受け取れる。
―――面倒くさい。
なんか、既に面倒になって来た。
説明受けて保険に入っただけなのに、もうだるい。
やっぱり刺激がないからなのかな……
そうこうしているうちに俺の順番が回って来た。
中待合室からフッと診断室に転送。
担当は細身の中年男性。医者と言うより役所の人っぽい。
いや、むしろ俺と机を挟んで座っている様は二者面談。教師か?
教師(仮名)は、何やら書類に目を落としながらそれを真剣に読んでいる……風だが、手に持っている紙は白紙。
まさか馬鹿には見えないインクだとでも言うのか?
いや待て、これは『裸の王様テスト』かもしれない。俺がどれ程正直な人間かを計るテストなのでは?
そして教師は顔を上げると俺をジッと見つめた。真剣な表情だ。
今しかない! 今を逃したら俺は今までと変わらず、周囲の意見に流される覇気のない人間のままだ! 『王様は裸だ!』と叫んで群集心理に打ち勝ってこそ伝説の勇者かなんかの血筋と言う転生先があるのかも知れない! この二者面談は進路指導なんて生易しい物じゃないんだ。この教師に決定権がある!
―――王様は裸だ!
「あのぉ……どうして何も書いていない紙を読んでいるんですか?」
どうだ! 恐れ入ったか! 俺の正直さに深く感動したろう!
「ああ、これはね調査書だからね。本人には読めないんですよ。内申書みたいな物かな」
そうですか……ですよね……まさに教師。
深読みし過ぎてどっと疲れた。
「あなた、だいぶ燃えカスが残ってますね。頑張るの、嫌い?」
どう答えるのが正解なんだ。取り繕っても無駄なのか? 全てお見通し?
それとも過去を悔やんでるアピールをしつつ、今後の抱負を述べるべきなんだろうか。
分からない‼
「随分険しい顔ですね。そんなに難しく考えなくてもいいんですよ」
何、気休め言ってやがる。
ここで失敗したくないんだ!