プロローグ
親父は英雄だったらしい。
“らしい”というのは、俺が物心ついた頃にはもう、世界を救った英雄なんかじゃなく、ただの父親だったからだ。
昼まで寝て。
母さんに怒られて。
庭で剣を振って。
近所のおっちゃんと酒を飲んで笑ってる。
良くも悪くも、ただの親父。
⸻
ある日の朝。
「カイン、ご飯冷めるわよ。」
「はいはい。」
席に着く。
母さんはいつも通り。
親父も……
いや。
全然いつも通りじゃない。
パンを持ったまま止まっている。
ミルクを飲もうとしてカップだけ持ち上げ……
また置く。
「……。」
「……。」
「親父。」
「ん?」
「なんか変……。」
母さんが小さく笑った。
「朝から落ち着かないのね。」
「いや……別に?」
「そう?」
「そう。」
「じゃあ何でさっきからパンにバター塗っては削ってを三回も繰り返してるの?」
イサナの手が止まる。
「…………。」
「カイン。」
「今日はスキル鑑定でしょう?」
そう。
今日はスキル鑑定の日。
その年に十五歳になる子供たちは教会へ集まり、これから一生付き合っていく自分だけのスキルを授かる。
「お父さんね。」
「昨日からずーっとこんな感じなの。」
「リア!」
「だって本当じゃない。」
「寝言でも――」
『どんなスキルでもいい。』
『元気ならいい。』
『でも剣だったらちょっと嬉しい。』
「って。」
「リアァ!」
思わず吹き出す。
「親父…そんなに気になるの?」
「……。」
イサナは少しだけ頭を掻いた。
「まぁ、息子だからな。」
「どんなスキルでも、俺の子には変わりない。」
「でもまぁ、ちょっとだけ気になる。」
リアがくすりと笑う。
「はい、素直に言えました。」
「……。」
照れ隠しにパンをかじるイサナ。
「まぁ、なんだ…どんなスキルでも腐るな。」
「俺なんて最初、天断を撃ったら全身ボロボロだった。」
「またその話?」
「大事な話だ。」
その時だった。
外から元気な声が響く。
「カイーン!」
「そろそろ行こうぜー!」
同い年の幼馴染。
セトだ。
「あ、そうだった。」
一緒に教会へ行く約束をしていたんだっけ。
「じゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
「……。」
「カイン。」
玄関を出ようとした時。
親父が呼び止めた。
振り返る。
「――楽しんでこい。」
「…ん。」
そう返事をして、俺は家を飛び出した。
初めまして。
週に1、2回更新できたらなと思います。
暖かい目で見守ってくださいませ。




