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チートなんてない!(連載)  作者: ayane_project
第二章

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99/99

099 アンチマジック魔法

クロエです!

アリシア先生の昔話を教えてもらいました……

全然、ロマンスって感じじゃなかったよ。

どっしゃーーーーん!

私は旧市壁の残骸の側で固まっていた。


「……あ? あれ!?」

冷たい汗が頬を流れる。


「こっ、ここっ!

ずっ、ずいぶんもろくなっていたんだね!」


おかあさん 「……」

クララ 「………」

わたしは、どうしようもなく愛想笑いを浮かべた。「あははは……」


アリシア先生は、すばやくしゃがんで、崩壊した煉瓦の残骸を調べている……

「……完全に結合力が失われているわ…………」

煉瓦の残骸はアリシア先生の手の中で細かな土塊へと崩れていった。


先生は、ばっとクララに向き直り、

「クララちゃん、授業で建設課に行ったことがあったでしょう?

ジュリエットの煉瓦形成の魔法を再現できる?」

「はい!

ミックス・クレイ【MIX CLAY】で、原土を作成し、ソイル・クワドランギュラープリズム・モールド【SOIL QUADRANGULAR PRISM MOLD】で、煉瓦を成型します!」

「さっすが!

それと、ここは日乾し煉瓦なので、焼成過程はいらないわ!」


アリシア先生はフロートで煉瓦の残骸を一カ所に集めると、おかあさんが少しずつウォーターでその残骸に水分を補給した。


クララ

『土よ、主神デーメーテールに信仰を捧げる、この土を混ぜ給え、ミックス・クレイ【MIX CLAY】』

さらに、

『土よ、主神デーメーテールに信仰を捧げる、この土を型にはめ給え、

ソイル・クワドランギュラープリズム・モールド【SOIL QUADRANGULAR PRISM MOLD】』

みるみるうちに煉瓦ができあがる。


アリシア先生がウィンド・ドライと発語し、煉瓦の乾燥を促した。

「よし!なんとかそれらしい煉瓦が準備できたわね」

その煉瓦をフロートで移動させ、もとあった位置に積み上げていく。


「クララちゃん、仕上げよ!

この煉瓦に硬化をかけて!」

「はい!」

属性魔法を使えない私は、この作業を見守るばかりだ…………


「さあ!逃げるわよ!」

アリシア先生の号令で、私たちはその場から逃げ出した!


________________________________________


私たちは、「風のみち」に立ち寄って事情を簡単に説明した。

ジャコモさん 「屋台は、俺が事情を知らないふりして返してもらいに行こう。魔法省から大学に照会とか入りそうなのか?」




大学の食堂でそそくさと夕食を終えて、私たちは自室に引き上げた。

アリシア先生 「ふぅ~ なんとか………なったのかしら?」

おかあさん 「クロエちゃん、どうやって壁を壊しちゃったの?」

私は首をひねるばかりだ。


アリシア先生には何か考えがあるようだった。

「クロエちゃん、スリープの練習を始めたきっかけのこと、覚えている?」

「はい。

私がトランスファーをかけると、みんな気持ちよくなるみたいだから、そこを意識すればスリープの魔法にならないかって……」

「そうね。

実際その試みは成功し、クロエちゃんは水魔法ではないけれど、オリジナル・スリープの魔法を完成したわ」

こくん。


…………

「クロエちゃん、去年の春に村巡りしたときの馬車でのお話のこと、覚えている?」

「はい……」


________________________________________


あのとき……

私は先生の二日酔いを直してあげようと思った……


「先生大丈夫?

トランスファーかければ少し楽になると思いますけど?」

「お願い……」

『アリシア先生の二日酔いを治して、トランスファー』


馬を操っている先生の首に手を伸ばして、肝臓や胃腸を癒やす思いを込めて発語したんだ。

たしか、心の中でさらに詠唱したはずだ。


(ウコンっぽい力で、アセトアルデヒドを分解。体の免疫力を向上せよ、トランスファー)



そしたら、先生の体がぽわっと光ったんだ。

「はぁ~ 気持ちいい~」


先生はそのとき…………

ミレーヌ先生のキュアよりも私のトランスファーのほうが良く効いたと言って、

…………

…………

…………

「クロエちゃんのトランスファーは、マナを受け取る人の状態を変化させるんだね~」

「そんな感じです」

「だからまわりの人の魔法力も伸びたんだね~」

「たぶん」

「それはバフ魔法ってことだよね~」


そう分析していた。


「クロエちゃんを利用したくなる人がますます増えちゃうね…………

私の責任も重大だね!」


________________________________________


アリシア先生 「クロエちゃんは、属性魔法が使えないけれど、トランスファーを使えばみんなの役に立てるという気持ちから、マナの譲渡をやってきたと思うの」

「はあ、まあ、みんなのためというほど高尚な気持ちじゃなくって、自分が役立たずだったり、魔法院にいられなくなったら、やだっていうだけの気持ちですけど」

「でも、相手のためにという気持ちでトランスファーを発語してたでしょう?」

「まあ、はい」


「それと、基本的にトランスファーを発語しなくてもマナが周囲に漏れているよね?」

「そうかな~」 それはちょっと疑問だよ。

クララ 「その点は私が証明します。キラキラ会のみんなのマナ基礎値と魔法力が伸びたのは、クロエちゃんのマナの影響だと思います!」

む~

おかあさん 「確かにクロエちゃんに肩たたきしてもらうようになったら、とっても体調が良くなったし、クロエちゃんの科学?のお話を聞いてたら、水魔法以外も使えるようになっちゃったのよね」

アリシア先生

「しかも、相手への好感度によって、その効果の大きさが変わっちゃうでしょう?」

「そ、それは!

嫌いな人や男子の手に触ってマナ譲渡するのは、生理的にちょっと!

でも、それって当たり前ですよね?」

アリシア先生 「ベルナールや、火魔法コースの三バカの魔法力はあまり伸びなかったじゃない?」

「うう~」

クララ 「キラキラ会でも、男子より女子のほうが効果が高いよね?

孤児院時代から一緒のアンヌちゃんと私の魔法力が一番伸びてるのを見ても明らかです!」

クララは頬を赤くし、誇らしそうに胸を張って言う。

やめて~ はずかしい~




「ということはね……

負の感情を乗せてマナをまき散らすと、対象に負の影響を与えることになるよね」

そう結論づけた。

「「「あ」」」

「デバフ魔法ということになるね」




クララ 「デバフ魔法と言えば、水魔法のスリープ、風魔法のスロー、土魔法のサンドとか、色々ありますよね?」


先生 「あるね~

でも、クロエちゃんが、あそこで無意識に唱えたデバフはちょっと深刻でね」

……

「デバフの対象が属性魔法全般、つまり魔法自体の無効化だったんじゃないかと思うの」


「つまり、アンチマジック魔法ね」


________________________________________


深夜の旧市街にバルディーニの姿があった。


バルディーニは周囲の市壁と明らかに色の異なる急造の市壁を眺めた。

「ふむ……」




バルディーニが最高神から受けている命令(教皇命令という仮の形を取っているが)には相反する内容が含まれている。


つまり、クロエの生命・健康・安全を完全に確保せよという命令と、クロエの思想、信条、判断等に影響を与えてはならないし、クロエに完全な行動の自由を与えよという命令である。

さらに、あらゆる支援を行えと言っておきながら、その支援をクロエになるべく悟らせるなとも言われているのだ。


バルディーニはそのため、教師・研究者という立場で一定の距離を保ちながら、魔力探知魔法や自動防御結界などでクロエ達に気づかれないように安全確保の監視を行っているのである。


もっとも、クロエ本人がゼロ距離で自分の魔臓に魔法を放つ ―― そんな事態ではどうしようもない。クロエ自身の魔法では、そもそも魔力探知にも異常として認識できないのだ。

それでも、バルディーニはクロエを危篤に陥らせてしまったことについて、極めて強い叱責を受けてしまっていた。


バルディーニは一切の反論をせず、甘んじてその叱責を受け入れていた。

最高神の全体計画はバルディーニに明かされるはずもないことだが、それでも、これが極めて重大な使命であること自体は認識していたからだ。




「風魔法で煉瓦の表面に傷を入れ、風化を装ったつもりであろうが、これでは新品の煉瓦の表面が傷ついているようにしか見えぬな」

「そもそも、煉瓦の積み方が時代考証や周囲と異なっている。

即断が必要であったため一般的な長手積みを採用してしまったが、焼成煉瓦に変わる前の時代では、強度確保のため長手積みと小口積みを併用していなければならない。

周囲の市壁を観察するべきであったな」


バルディーニはそう論評すると、クララのかけた硬化を解除し、煉瓦をひとつひとつばらしたあと、フロートで積み方を変えて再度積み直した。

『土よ……この煉瓦内部の塩分を浮き出し給え、塩類風化』

煉瓦から塩分がしみ出し表面が古びてくる。

『火よ……この煉瓦に温度変化を加え給え、テンパラチャー・ハイ&ロウ』

煉瓦が微妙に膨張・収縮し自然な不揃いさと脆さを生み出してくる。

『水よ……この煉瓦内部の水分を膨張させ給え、ホットウォーター・ロウ』

煉瓦内部の水分分布のゆがみを反映し、さらに劣化した風合いを増してくる。


やがて、その市壁は周囲の壁と風合いが同化していくのだった……


バルディーニは最後に一般的な土魔法師と同等の強度で硬化をかけた。


「アンチマジックか…………

しばらくクロエを王都から遠ざけた方が安全かもしれぬ…………」

そうつぶやいて、バルディーニは闇に消えていった。


________________________________________


私たちは、そもそもの原因となった魔法省の摘発について話していた。


私 「魔法省から魔法大学をやめろって言われたらどうしよう?」

おかあさん 「聖女様の支援で在籍が認められたんでしょ?魔法省が口出しできるものなのかしら?」

先生 「魔法省は予算の大枠は決められるけれど、人事や在籍資格に口出しするなんて聞いたこともないわ」

クララ 「ピエトロ先生にご迷惑かけなければいいけど」

私 「大体なんですか、あの嫌み男!

先生も見る目がなさ過ぎですよ!」

おかあさん 「クロエちゃん!アリシア先生が可哀想でしょ、口を慎みなさい」

う~ 「ごめんなさい」


アリシア先生 「いえ、いいんです、ソフィさん。私も最低男だと思ってますから。

私が魔法バカだったのがいけなかったんです。あんな男にだまされるなんて」


________________________________________


「私が魔法バカだったのがいけなかったんです」

アリシアは、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。


「私は魔法が好きだった」 アリシアはそう言った。


私は魔法が好きだった。

神話のエピソードも面白かったし、いろんな魔法を知りたかった。

それで、いろんな神話や聖堂での説話にまんべんなく興味を持った結果だったのね。

魔法選別の儀に授かったのは風魔法だった。


みんな、残念だったねって慰めてくれた。

ミレーヌなんか水魔法の時だけ祈っとけば良かったのに!って言ってたわ。(あの子は昔から現金だったからね)

でも、私は悪くないって思ってた。

風魔法は外れ魔法だと言うけれど、その分研究分野が未開発だと思ったから。


そうね。風魔法といえば、空気を動かすフローやプッシュ。それから物を浮かせるフロート。


だから空気自体を動かすか、空気を動かす力で物を動かすかという使い方が主だったのね。

だけど、もっと別のものも動かせるんじゃないのかって思ったの。

具体的に私が注目したのは音ね。


つまり、声を風魔法で遠くに飛ばしたりとか、あるいは遠くの声を風魔法で引き寄せたりしたら便利なんじゃないかと思って。そういう、音を運ぶ風魔法っていうのを大学で研究してたの。


で、同僚にあいつ、ボニファーチョがいたんだけど。面白いねって言って協力してくれたのね。

風魔法の研究室は、私とあいつと指導教官しかいなかったから、自然といつも一緒にいることになったわ。


それで術式が完成して、研究発表をしようと思っていた時に、あいつが術式と論文を無断で魔法省に提出したの。自分の成果だと言って、そのまま魔法省に去っていっちゃったのね。


だから、もう後からは自分の研究だってことは認められなくて、あいつに成果を奪われちゃったのよ。すごく裏切られた気分だったわ。


________________________________________


クララ 「お付き合いしてたんですか?」

「そうね、友だち以上恋人未満のように思ってたわ。

私はそれまで男性と親しくする機会はなかったから、なんとなく、研究が完成したらこのまま結婚するのもありじゃないかと思っていたの」

「今から思うと、研究成果を独り占めする機会を狙って、私を油断させるために調子のいいことを言っていたんじゃないかって思うわ」

「うわ~」

おかあさん 「それなら、別れて正解だったんじゃないかしら?」

先生 「まあそれはそうなんですけど。

当時の浮かれた言動を思い出すと居たたまれなくって……

あと、研究論文や発語術式資料全部を盗まれたことで大学での研究成果をなかったことにされたのが悔しいんです」


私 「以前三バカの声を聞かせてくれた魔法って、先生が開発したオリジナルスペルだったんですね!」

「イーヴズドロップ【EAVESDROP】ね~ なかなか役に立つでしょ?

それで隊長が衛士隊で生かせばいいって言ってくれたんだよね~

一応、境界門での哨戒活動で役立ったよ~」


「それです!もっとすごい魔法に改良して、鼻を明かしましょうよ!」

「それもいいわね。何かアイディアがあるの?」

「はい!風で音を運ぶっていう考えはとてもいいと思っていて、前世知識で言えば、音は空気の細かな震えなんです。

その震えを、電気という見えない力の変化に写し替えて遠くへ飛ばせると、とってもすごいことができると思うんです!」

アリシア先生はその話にとても興味を持ったようだ。

「それは詳しく聞きたいわ」

そうだよね!もともと研究分野だし!


クララ 「クロエちゃん、それはそれで大事だと思うけど、今は魔法省とアンチマジック魔法の対策のほうが緊急だよ!」


挿絵(By みてみん)


「クララにはいい人いないのかな~」

「そういうクロエちゃんだって!」

「わたしはまだそういうのはいいの!おかあさんとのスキンシップがあればね~」

「わ、わたしも!クロエちゃんと一緒がいいの!」

「あ、ありがとう~クララ~」

なんか二人とも照れちゃうね~

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