電車に揺られて
良い言葉が浮かばない…、
自宅に帰り着きドアを締める、緊張の糸が切れたのだろうかしゃがみ込み啜り泣き始める。
何と声を掛けるべきなのか?、
言葉が見付からず取り敢えず抱き上げ部屋に座らせた。
「泣きたいだけ泣いたら良い…」
そんな陳腐な言葉しか出てこない、
未々まだ未熟な俺、
今なら多分違う言葉を掛けられるだろうが、
その時は其が精一杯。
唯でさえ小さな躰が更に小さく見え、
何をして上げられるのかそんなことを考えて居た。
「お腹にぽっかり大きな穴が開いたみたい・・怖いの・・」
囁く様にそう言った。
僅か数ヶ月で在っても確かに母親に為った事を身体は自覚して居たのかもしれない。
同じ様な事を昔聴いた、上京する直前に聞いた事、勿論状況は全く違って居るが。
上京を両親が反対するであろうと思って居たが、あっさり了承されて仕舞拍子抜けした。
今迄伝えて無い事が有ると、お袋が子供を授かったのはこの子と同じ歳。
「貴方には姉が居る筈だったのよ、お腹が膨らんできた頃に天国に行ってしまったけど…」
その事を語り寂しそうな顔をしていたのを覚えている、勿論望まれて出来た子で或る。
祖母がお袋の顔つきが変わって来て<中に居るのは女の子だね>と言ったそうだ。
昔は顔つきで男女を判断して生れる準備をして居たそうだ。
親父と名前を考えて居た頃に流れてしまった、
体の一部が無く為った様に感じたと。
次の子供を授かれば元気に生まれて来る事だけ願い、
やりたい事好きな事をさせて上げようと決めたと。
状況が違い望まれない子であっても母親に成ると言う事は本人の自覚とは別に、
体はその準備始めて居るのであろう、
体の一部が無く為るとは精神にも影響する様だ。
暫く背を撫でて上げて居たが、
声を上げて泣き始め縋り付いて来る、
此の娘が真面な家庭環境で望まれた子で在ったなら、
此の役目は母親が一緒に背負って上げる物だと思う。
今回の案件では俺は解って上げられる訳も無く、
想像の域を出ない男は無力だと痛感した。
小一時間ほどそうして居ただろうか、泣いて居ただけだったのが震え始めて居る、
最初は小刻みに震えている位だったがはっきり判るほどガタガタと震えている。
顔を見ようとしたら、既に此方を見ていた、歯を食いしばり俺の眼を見据え震えている。
そして続けて出て来た言葉に自分の耳を疑った、聞き違いでは無いかと・・。
「今直ぐ此処で抱いて、あたしを!」
コイツ正気なのか?考えすぎて狂ったのか?それとも正気で其れに考え着いたのか?。
そんな考えをして居るのを見抜いたのか、コイツは時々本質を見抜く事が有るから・・。
「狂ったんじゃないの、本気だよあたし」
既に泣き止んでいた、また縋り付く。
「助けて、心と躰に開いた穴をお兄ちゃんに埋めて欲しいの、今しか出来ないからお願い・・」
捨てられた子猫の眼、助けて欲しい、迷いが無いのは眼に現れていた。
「お前な、今日手術したばかりで何を考えて居るんだ?明日もまた行くんだぞ!」
明日また処置後の確認で通院するのは理解して居るのか?、疑ってしまう。
「判ってるよ、視られても、其れで何か言われても構わない!、今すぐ抱いて!」
躊躇する俺を見て待てなくなったのだろう、纏う物全て脱ぎ捨てた。
「助けてよ!暗くて大きな穴に吸い込まれてしまいそうなの!助けてお兄ちゃん!」
涙ながらに必死な形相で訴えて来る、
懇願されて断る事が出来ず要求に応えた。
先程迄の悲痛な泣き顔だったはずが、
うって変わって安心しきった寝顔を見て其れ以上追及するのは止めにした。
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翌朝早目に起きてシャワーに呼ぶが、愚図って中々言う事を聞いてくれない。
「このまま行くの!、何でこの匂い流さないといけないの?」
そのまま診て貰う心算か?もういい恥を搔くのは此奴だ、次に行く事は無いからな。
「解ったがシャワーだけは浴びて行くぞ、其の匂いだと電車にも乗れないからな!」
「何でこんな良い匂いなのに、どうして落さないといけないの?」
とブツブツ言って居る。
結局せがまれて抱いてしまっている俺も悪い。
電車に揺られていた帰途の途中…。
「もう閉じているので、是で終わり』
と簡単に告げられた。
<ちゃんと結婚してから、子供は計画立てて作りなさい>と説教された、
本当の事を伝えて無いので至極真っ当なご意見、
当然の事である。
今も腕に掴まり嬉しそうにしている、今後此奴と如何して行けば良いか考えて居た。
そう言えば余りに衝撃的な事だったので気が回って無かったが、コイツ仕事と今の住処は如何したんだ?、こんなに休んで大丈夫な訳が無い、辞めて来たんだろうな?。
そうで無けりゃ俺の処に居られる訳無いだろうし、
仕事の事も言わない。
今後の事は其れを聞いてから考える事にしよう、
もう此奴の泣き顔は見たくないし、どうせ見るなら嬉しくて泣いてる顔の方が良い。
ただコイツ俺と一緒で馬鹿だからな・・・。
こっちを見上げ嬉しそうにしてはいるが電車内には男性の乗客も乗っている。
腕に掴まり俺の陰に隠れる様にしてる、やはりトラウマを持ってしまったんだな。
「お兄ちゃん帰ったら直ぐにしようね、誰も来ない様に!」
考えは違って無かった様だ、如何すれば良いのか此の先俺は…。
電車に揺られる帰り道程の中で思って居た。
この次は何をすれば…。




