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#10【ギャップ】

「最近〈イケオジ〉の魅力に気付いて来たかも」

『……』


私がそう伝えると無言で芸術品のような顔が向けられる。見目麗しいその顔は


何言ってんだ?こいつ?


とでも言いたそうに眉間に皺を寄せている。


「いや、前は〈イケオジ〉って〈ギラついてるおっさん〉って感じがして嫌悪感すらあったんだけど、私の認識が間違ってたわ。〈イケオジ〉は自然体で〈イケオジ〉なんだねぇ〜」

『……』


しみじみと浸るように語る私に………更なる無言を貫くか?!何を考えているか分からない美人に無言で見られていると……居心地が悪い…それにしてもこの顔面は良く出来た芸術品だなーなどと、思考があらぬ方向へ向かう。


『まぁ、経験値があることで増す魅力はあるだろうからな』

「だよね!大人の余裕とか、品とかね!それよそれ!」


良かった!喋った!本物の彫刻にでもなったのかと思ったわ。私は同意を得られた喜びで続けて話す。


「そんなイケオジが照れたり、哀愁漂わせたりするとキュンってなる!」

『ギャップ萌えだな。』

「そうそう!元々ツンデレ系好きだし、ギャップに弱いんだよね〜」


と、ワイワイ語らっていると——


ピンポーン


インターホンが鳴る。インターホンのモニターにはヒラヒラと手を振っている優男……元旦那だ。私は瞳を閉じて思考を巡らせる。


何故だろう…この前無視したのに…私の脳内は「?」で埋め尽くされる。

自分で言うのも非常に悲しいことだが、元旦那は根無草な性分で人にも物にもあまり執着心がない。10年間結婚はしていたが、私に固執している感じは正直しなかった。


無視=拒否の姿勢を見せれば私への関心などすぐに無くして他に行くと思っていたのに…

というか、離婚したよね?普通、元妻の所にそんなに来るものかな?!


『出ないのか?』

「うーん、何で来たんだと思う?」


私の問いかけにUMAはインターホンのモニターに写る人畜無害そうに柔らかな笑顔を向けてくる男を(いぶか)しげに見る。


『あー、やはりな』

「え?何か分かるの?」

『——とは少し面倒だな——まぁ、——のことは置いておいて——』


と、1人でぶつぶつと呟き出した。


『お前はいつもこうやって奴を受け入れて来たんだろ?』


はい、その通りです。

言葉には出さなかったが目で答えた。確かに、結婚している間は数日、数週間、数ヶ月と間を空けても当然のように帰って来て、何の違和感もなく私の生活に溶け込む旦那を「やれやれ」と、呆れながらも普通に受け入れていた。


ん?つまり?


「帰る場所的な?…やっぱり都合の良い宿扱い?!何て、迷惑っ!!」


その言葉にUMAは鼻で短く息を()き、意味ありげに答える。


『ふっ、まぁ、違うが。今はそう思うので良いんじゃないか?』

「意味深っ!何か分かるなら教えてよ!迷惑なんだよ〜分かるでしょ〜?」


何か分かるなら教えて欲しいとUMAに拝むように手を合わせていると、UMAがふと恐ろしいことを言ってきた。


『あいつも〈イケオジ〉に入るのか?』


!?私は限界まで瞳を開き息を大きく吸い、それを吐き出しながら一気に答える。


「いやいやいやいや、確かに外見はイケてるけども!おっさんだけども!ギラついてはいないけども!その全てを凌駕する中身の残念さっ!」

『ふっ、ギャップ』


UMAは私を揶揄(からか)うように鼻で笑いながらそう言って来た。


「いやいやいやいや、確かに当初は外見完璧なのに中身が残念なところが[可愛い]なんて思ってたけど!残念の比重が大き過ぎて全く可愛くないわっ!!ただの悪だわっ!」

『まぁな、()()は変わらないな』


またもワイワイ語らっていると——


ピンポーン


再びインターホンが鳴った。必死に拝む私を見て、UMAは心底面倒臭そうに溜息を()いてから[応答]ボタンを押す。


「どちら様ですか?」


あ、声出した。


「ん?あれ?君だーれ?ここ僕の()()()のお家だと思うけど?」


と言って来た。は?[奥さん]?おいおいおいおい、離婚した元妻だろう。赤の他人ですよーー。

まさか、離婚してないとかじゃないよね?!婚姻届の時と同様に離婚届の提出も暇なあいつに任せていたけど………まさか、提出されてないなんてこと…ないよね?!あいつ、単に住む場所変わった程度の認識じゃないよねーっ?!


私はムン○の[叫び]のように両頬を押さえて恐れ慄くポーズをとる。そんな私を尻目にUMAは淡々と答える。


「親戚の者です。おばさん、今居なくて。」


出たなっ、おばさん!…助けてもらってるから何にも言えませんけどっ!


「はははっ、君、女性に対して[おばさん]はイケないよ。留守なら、これ渡して貰えるかな?」


と言い、手に持っている物をモニターから確認出来るように掲げた。どうやらケーキの箱の様だ。


「今月、僕の奥さんの誕生日なんだよねぇ。…この前来た時は出てもらえなくて…」


と最後は哀愁を漂わせ少し寂しそうに呟いた。しかし、すぐにふわりと柔和な笑みを浮かべモニターに向かってウィンクして来た。


!!なっ!!な、なななな、、!!

驚愕して声も出ない。


『はっ、ギャップ』


UMAはうんざりとした様子で吐き捨てるように呟いた。


そう!あの人、そう言う所あるんだよね〜抑えるところは抑える的な?そういう所が憎めないんだよねぇ〜まー、だから10年間もズルズルと離婚出来なかった訳だけど。


『こうやって毎回(ほだ)されて来たわけか』


まんまと喜んでしまっている私にUMAは絶対零度の視線を向けて来る。


!ヤバい!!また絆されるところだった!


「お前がギャップ出して来るなよっ!」と、心の中で叫ぶ。


その後、UMAに玄関のドア前にケーキを置いてもらうよう指示して、ケーキは有り難く美味しく頂いた。


UMAはそんな私にやはり絶対零度の視線を向けて口を開く。


『前回来たのは金を借りるのが目的だっただろう。忘れたのか?』


その言葉にハッとする。


……はい、忘れてました……



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