最悪な会議
「自分で歩けるよー、服伸びちゃうよー」
「うるさい」
家に着くなり、ユミルさんはあっちに行ったりそっちに行ったり、とにかくいろんな部屋を見て回りだした。
ユミルさんのペースに合わせると一向に進まないので、雪斗くんが首根っこをつかんで廊下を引きずっている。
角を曲がると、地下に続く階段が見えた。
目的地である会議室に行くためには、この階段を降りないといけない。
まさか、と不安になり雪斗くんの方を見ると、ユミルさんの服を掴んでいた手を離した。
よかった。さすがに階段まで引きずりはしなかった。
解放されたユミルさんは、文句をいいながら立ち上がる。
「ひどいなー、俺をこんな扱いしたのはユキトで64人目だよ」
結構いるんだ。
「さっさと降りろ」
ユミルさんにそう吐き捨てた後、雪斗くんは階段を一段降り、私の斜め下側へと移動した。
「転ばないように気をつけてね」
手を差しだされたので、右手を重ねる。
隣で勢いよく階段を駆け下りていくユミルさんが気になってしょうがないが、雪斗くんはそうでもないらしい。ユミルさんを一瞥もせず、ゆっくりと階段を下りていく。
地下に降り、厚い木製の扉を開けると、ユミルさんが奥の本棚をじっと見ている。
部屋の中央には大きな楕円形のテーブルが置かれている。私はその机を囲む椅子の一つに腰を下ろした。
雪斗くんは私の隣の椅子に座り、「さっさと座れ」と着席を促す。
ユミルさんは私たちの真正面の椅子に腰かけ、口を開く。
「じゃあ、とりあえずどこまで進んでるか教えてくれる? まずはそこが把握できないと」
「ほとんど進んでない。できそうな案はあってもいろいろ問題があって」
ユミルさんの質問に、雪斗くんはそうはぐらかす。さすがに魔王の核については隠しておくつもりみたいだ。私も口を滑らさないように気をつけないと――
「アレでしょ? あの洋館にあったヤバいやつ。秘密にするからさ、教えてよ」
バレてた。
「バレてるよ!? どうする!? 」
そう耳打ちすると、雪斗くんは慌てずに「大丈夫だよ」と答えた。
「後で魔法契約で口止めしておくから。ここまでバレてるなら言わない方が大変なことになりそうだから共有しておこう」
確かに。ユミルさんの目は好奇心でキラキラどころかギラギラしている。隠し通すのは無理そうだ。
頷くと、雪斗くんはユミルさんに説明を始めた。
「魔石と女神の加護を受けた勇者がそろえば、女神に願いを叶えてもらえる。だから魔王をもう一度復活して倒し、魔石をまた手に入れるっていう案だ」
うん。何回聞いてもやばい計画だ。
ユミルさんは少し吹き出して、「あー、なるほどね。あの禍々しいやつは魔王か」と呟いた。
「でもさぁ、女神が願いを叶えるのは勇者がこの世界を救った報酬でしょ? 勝手に魔王を復活させて倒したところで願いを叶えてもらえるとは思わないけど」
確かに……
「だから魔石を5個程度集める必要があると考えている。女神は魔王との戦いで弱った力を、魔石をとりこむことで取り戻そうとしている。これくらい持っていけば取引として悪くないはずだ」
魔石5個って、魔王5回倒すってこと!?
「なるほど。ユキトとミユちゃん2人分の願いで2個、女神へのご機嫌取りで3個ほど必要ってことね。あー、この世界の人間から勇者が選ばれた時は願いを叶えてもらえない理由はこれか。てっきり召喚の有無による加護の差かと思った」
「それも考えたけど、本殿での儀式のときに女神の話と歴代勇者の記録と比べると――」
どうしよう、何言ってるのかわかんなくなっちゃった。二人とも話の進み具合が早すぎる。
雪斗くんが書いてくれた資料持ってくるんだった。あれ読んだときは理解できてると思ったのにな。私用に相当優しく書かれてたのかな。
雪斗くんは私とは比べ物にならないほど頭がいいって分かってたけど、私だって帰る方法探すために頑張って勉強してたんだけどな。こうも違いを目の当たりにするとちょっと悔しい。
少し落ち込んでいると、パチパチと手をたたく音が聞こえた。
「いいじゃんいいじゃん、魔王復活させてみる? 」
「ダメです!! 」
何がいいじゃんだ。
ユミルさんは魔王復活計画にまで賛同する気なのか。勇者の倫理観どうなってるんだ?
「みゆちゃんがダメって言ってるからこの案は実行しない。だからそれ以外だと、勇者召喚の魔方陣を使って元の世界に戻るのが現実的だと思う」
「うんうん、いいと思う。となると、課題は複数ある世界からユキトたちの世界を特定する方法と、遠隔で別の世界に魔方陣を設置する方法かな? で、解決案の見込みはあるの? 」
「……正直、どっちも今の段階では無理かな」
雪斗くんがそう言うと、ユミルさんは不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、そのうちの一つ、解決してあげるよ」




