新たな門出の日(エピローグ)
虎之助が、美濃の地を離れたのは御前試合から1週間後であった。
帰路に着く日の朝、ヒゲ殿、胤栄、才蔵の3人が見送りに来てくれた。
ヒゲ殿は、当時の前田家の領地であった越前府中城へ、胤栄は、宝蔵院のある奈良に、そして森長可から誘いを受けた才蔵は、渋々ながら、一度待遇等、詳しい内容を確認してくるとの事で、独り美濃に残る事になった。
短い間であったが、濃密な時間を共有した仲間達と、虎之助は別れなければならなかったのである。
チームの仲が良ければ良いほど、結束が強いほど、解散する時は辛いものである。
当たり前のように、共に生活していた者同士が、ある日を境に突然会えなくなる。
長い人生では、何度かその経験をしなければならない。
虎之助にとって、この日がその一回目となったのである。
お互いの前途と、健康を祈って、そしていつの日か又会おうと約束して6人は解散したのであった。
長浜城下の自分の長屋に戻った時は、シノが傷だらけの虎之助を見て、目を丸くし驚き、血相を変えて、虎之助と一向に状況の確認をする一幕があった。
久次郎と、虎之助がシノへ詳細を説明すると、虎之助が危険な御役目だと知っていながら、自分には何も教えてくれなかったと、スゴイ剣幕で虎之助を怒ったのである。
普段大人しいシノが、スゴイ剣幕で虎之助を叱っている様子をみて、いや、シノに怒られている大男の虎之助が、猫の様に大人しく怒られている様子を見て、その場にいる一行は、可笑しく、腹を抱えて笑ってしまったのである。
織田家中の猛者を唸らせた虎之助の武勇が、シノには全く通じなかったからである。
虎之助は、秀吉より、自宅に戻った後、傷が癒える迄は自宅療養するよう下知を受けた。
その為、2週間ほど、シノとゆっくり過ごす事が出来たのである。
当然、加藤家のお餅の在庫は、直ぐになくなってしまったのであった。
束の間の休日は、直ぐに過ぎ去り、キズが癒えた虎之助が小姓の仕事に復帰する日がやってきた。
『トラ殿、準備は出来ておりますか?おケガは痛くありませんか?』
夫婦の主導権を握ったシノが、学校へ行く子供に状況を確認する母親のように、虎之助へ確認する。
『はい、準備万端です。今日は、初日なので多分早く帰れると思います。シノ殿、留守番宜しくお願い致します。』とシノへ返答する。
愛妻の笑顔を確認すると、虎之助は長浜城へ向かった。
虎之助が長浜城へ出仕すると、そこには、秀長、久次郎、力士が待っていた。
理由も分からず、秀長に言われるまま着いていく、長浜城で一番でかい部屋に3人は通された。
部屋の襖を開けると、そこには長浜城で働く総ての者が一同、3人を待っていたのである。
一番高い上座には、秀吉が笑顔で座っている。その近くには、羽柴家重臣達が座っていた。
3人の為に用意された席に3人が座ると、3人への祝賀会が始まったのである。
3人の周りには、その他の小姓も座っていた。席に着こうと虎之助が席に向かっていると、皆、英雄を見る様な眼差しで虎之助を見ていたのである。虎之助は、恥ずかしく、照れてしまい、なんとも不思議な気分であった。
3人が、席に座り、秀吉へ向け頭を畳に擦り付け礼をすると、秀吉が話始めた。
『加藤虎之助、飯田久次郎、森本力士、3人とも、面を上げよ!』
『加藤虎之助、お主は先日美濃で行われた信長様の目の前で行われた御前試合で、見事な戦いぶりをみせ、羽柴家の名を織田家中に轟かせた!。』
『功績大である。信長様からもお褒めのお言葉と、武勇の証として、長槍を頂いておる、謹んでこれを受けよ。』
そう言うと、秀長がその長槍を持って虎之助の前に持ってきた。
槍を受け取り、虎之助は畏まり、再び頭を下げて、口上を述べる。
『有難き幸せ、私加藤虎之助、謹んで、御受け致します。この槍に恥じぬ様、今後益々武勇の道に励みまする。』
『よく言った、虎之助、今後益々武芸を極め、教養をつけるのだ、将来の羽柴軍の中核になれる様励め!』
『お前への期待を込め、本日ワシからはお前に新しい名前をやろう、今日からお前は虎之助改め、清正と名乗れ。』
『加藤清正じゃ、清く、正しく武士の道を歩めという意味じゃ、加藤清正、誰からも後ろ指を指されない、立派な武士になれよ。!!』と秀吉は、大きな声で虎之助に新しい名をつけたのである。
『はははぁ!』
『この加藤清正、身命にかけて、清く正しく武士の道を歩んでいきまする事、此処に誓いまする!!。』
と改めて頭を下げた。
虎之助が頭を下げていると、秀吉は後ろの久次郎、力士にも言葉をかける。
『飯田久次郎、森本力士、其方らふたりも、御前試合の半年前より、よく虎之助、いや清正に献身的に尽くしてくれた、ここで心より礼を言うぞ!』
『其方ら、二人にも、新しい名前を与える。力士は、一久という名前を与える。森本一久と今日から改めよ。久次郎には、直景じゃ。飯田直景。虎之助に危機が迫ったら、二人で一直線に駆け付けよと、いう意味じゃ、洒落ておろう。』と秀吉は言いながらニヤッと笑う。
『虎之助を頼む、又、今日から二人を加藤清正の正式な家来として認めよう、今後も励んでくれぃ。!!』と秀吉の号令の様な下知だった。
『有難き幸せ、身命を持って加藤清正様を守りまする。』と二人の家来は、初めて虎之助の名前に様をつけて声を揃え大きな声で誓ったのであった。
その日は、3人、いや、シノを入れて4人の新たな門出の日になったのである。
4人は、主従の関係を越えたチームになり、戦国の世を縦横無尽に駆け巡るのであるが、この時は未だ誰も知らない、いや、そうなれば良いなと期待されている時期だった。
長浜城の外は、4人の門出を祝う様に桜が満開であった。
完
読んでくれた読者の方々、長い作品にお付き合い頂き有難うございました。
本作が、作者の記念すべき歴史小説第一作となります。
小説家になろうで2023年 秋の歴史企画が縁となりまして、書き始めた作品です。
この作品で初めて、読んでいただいた方からレビューや、感想を頂き、天にも昇るほど嬉しい気持ちになりました。未熟な書き手でですが、それを励みに今でも、歴史小説を書き続けております。
1.トラとシノの戦国ものかたり外伝(わらび餅好きの女幽霊と優しき男達)
2、王になりたかった男(徐福伝説と明智光秀)
ご興味頂けましたら、お読み頂ければ嬉しいです。
歴史には、勝者と敗者がつきものですが、両側にもスポットを当てて空想を広げていきたいと思っております。宜しければ、引き続き、作者の空想にお付き合い頂ければ幸いです。
2024年 4月末 野松 彦秋
『面白かった!』
と思いましたら、下に有る☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します。
面白かったら星5つ、詰まらなかったら星一つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。
ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。
何卒宜しくお願い致します。




