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追星狙い

『独身貴族は異世界を謳歌する』コミック1巻発売中!


「俺も釣れたぜ!」


「こっちは三匹目だ」


 一匹目を釣ってから十分後。海斗はようやく一匹目を、快調な俺は三匹目となる鮎を釣り上げていた。


「いい調子だな、ジン」


「他人の縄張りを荒らすのは得意だ」


「……それは誇るところなのか?」


 鮎釣りを開始して二十分も経過しない内に、この釣果は中々のものと言っていいだろう。


 しかし、そんな好調な出だしをした俺たちとは対照的な者がいる。


「うう、ジン殿もカイト殿も羨ましいぞ」


 三人の中で唯一ヒットしていないのはセラムだ。


 俺たちが鮎を釣り上げる度に、消沈した様子の彼女から羨ましげな視線が飛んでくる。


「うーん、俺はまだ一匹目を釣ったばかりだしアドバイスしにくいな。三匹釣ったジンなら何かアドバイスができるんじゃねえか?」


「そうだな」


 鮎釣りは初めてなので、鮎を誘う動きが甘いのは仕方がないと思うが、それ以外に大きな要因があるとすれば……。


「ちょっと肩に力が入り過ぎなんじゃないか?」


 釣りをする時のセラムの姿勢は明らかに身体がガチガチだ。


 鮎を釣ってやりたいという意識が先行してしまい、腕に力が入ってしまってルアーの動きも固くなっているのかもしれない。


「うっ、確かにそれは以前の職場の同僚にも言われた」


 どうやら元の世界でも同じことを言われたようだ。


 釣りの経験があるので何とかなると思っていたが、そっちの方はあまり上手ではなかったのかもしれない。


「セラムの気迫にビビって鮎が逃げている可能性もあるな」


「さすがにそれは失礼だぞ、ジン殿」


「じゃあ、あそこにある鮎を狙ってルアーを投げてみろよ」


「フン、気迫などで鮎が逃げるわけが――」


 俺の指さした鮎にセラムが視線を向けると、それだけでサッと鮎が逃げ出した。


「ほら、見ろ」


「偶然だ! 偶然!」


 戦場すら経験したことのあるセラムの気迫に鮎が恐れをなしてしまうのは当然だと思うが、本人は強く否定している。


「どうかな? こっちの世界の生き物は魔力とか持ってないしな」


 魔力とかいう得体の知れない力を持っているセラムを本能的に避けてしまう。という推測はあながち間違いではないのでかもしれないな。


「そう言われると少しだけ不安になってきた。魔力を意識して絞ろう」


 あり得なくもない可能性に説得力を感じたのか、セラムはその場で目を瞑った。


「よし、これで大丈夫だろう」


 魔力を感じられない俺にはどう変化したのかわからないが、魔力を絞ったらしい。


「後は比較的元気な個体を狙ってみるのも手だな」


 あまり曖昧なアドバイスをするのもどうかと思ったので、できるかどうかは不明だが実戦的なアドバイスをしてみる。


「元気な個体とはどんな特徴をしている?」


「大きくて黄色い模様が出ているやつは健康な証だ。元気がいい奴は縄張り意識が強く、ルアーに引っかかりやすい。ただたくさん泳いでいる中から見つけるのが難しいんだが……」


「見つけたぞ! あそこの石の表にいる鮎が大きく、黄色い模様がくっきりと見える!」


 欠点を伝えようとする中、セラムは声を上げて仕掛けを放り込んだ。


 セラムが狙っている石の付近にそんな鮎がいるかは、俺の位置からはわからない。


「うん? 本当に見えるのか?」


「見えるぞ! 逆にジン殿には見えないのか?」


 試しにセラムの傍まで移動してポイントを眺めてみる。


 しかし、他にも鮎が何匹か泳いでいるのでその中から見分けるのは難しい。


 石の付近は水流が激しくぶつかり合っているせいで水面は常に揺れており、太陽の光による反射なんかも視認しにくい要因だった。


「まったく見えん」


 恐らく、驚異的な身体能力を誇るセラムだからこそ視認できるのだろう。


 両目共に一・五を越えているので視力はいい方だ。それでも見えないということは、セラムの視力が異常なほどいいのだろう。


 俺が見守る中、セラムは不器用ながらもドリフトさせたり、止めて誘ったりしながらゆっくり川底をトレースしていく。


「きた!」


「すぐに合わせるな! 竿先が絞り込まれてからだ!」


 セラムがすぐに引き上げようとしたので声を上げて静止。


「わ、わかった!」


 落ち着いた彼女は、竿先が絞り込まれるのを確認してからゆっくりとやり取りして引き寄せていく。


 水面に白い鮎の体が晒された。後はゆっくりとランディングして網で迎えてやればいいのだが、セラムの様子を見る限りそんな余裕はなさそうだ。


「竿を立てて後ろに引いてくれ」


「あ、ああ!」


 俺は腰にあるタモを持つと、セラムが引き寄せた鮎を受け入れてやった。


「どうだ!?」


「無事に網に収まったぞ」


「おお! 遂に私も鮎を釣ったぞ!」


 針を外して見せてやると、セラムが嬉しそうに鮎の入ったタモを掲げた。


「今日一番のサイズじゃねえか!?」


 海斗がこちらに寄ってきて、セラムの釣った鮎を確認する。


 セラムが釣り上げた鮎には追星という黄色い模様が浮かんでおり、とても大きかった。


 俺たちが釣り上げたサイズは十八センチから二十センチ弱だが、セラムの釣った個体は優にそれを越えている。ここらでも中々見ないほどの大きさだ。


「そうなのか? 私にはよくわからないが嬉しいな。とはいえ、釣れたのはジン殿のお陰だ。ありがとう」


「無事に釣れたようでなによりだ」


 やっぱり、釣りは魚が釣れた方が楽しいに決まっているからな。


 セラムも釣ることができたようで良かった。


「よし、この調子はドンドンと釣るぞ!」


 釣り上げた鮎をバケツに入れると、セラムは息巻いた様子で仕掛けを投げた。




 ●




「……めちゃくちゃ釣れたな」


「ああ」


 鮎釣りを開始して二時間ほど。


 俺と海斗の持ってきたバケツの中にはたくさんの鮎がいた。


 数は三十匹以上。俺や海斗もそこそこ釣り上げたのだが、半分以上はセラムが釣り上げたものだ。


 活きのいい追星の鮎を集中的に狙うという方法はセラムにとても合っていたらしく、一匹釣り上げてからはヒットの嵐。


 あっという間に俺と海斗の釣果を追い抜いたというわけだ。


「私もこれだけの数を釣ったのは初めてだ! ああ、鮎を釣り上げた時の感触が今でも手に残っている……ッ!」


 まだ釣り上げた時の興奮が残っているらしく、セラムが恍惚とした顔で言う。


 これだけ釣り上げることができたのなら無理もないな。


「ルアー釣り、結構イケるもんだな」


「ああ、友釣りもいいが、こっちも悪くない」


 セラムほどではないが、海斗と俺も十分な数の鮎を釣ることができた。


 初めての釣り方を試した割には上々の成果だろう。


「せっかく鮎を釣ったことだし、ここで焼いて食べようぜ!」


「焼くって言っても道具はあるのか?」


「こうなることを見越して持ってきておいたぜ」


 疑問をぶつけると、海斗が懐から塩、串、ライターといった小道具を取り出した。


 準備がいいな。


「おお! ならばお腹も空いたことだし、ここで食べようではないか!」


「そうするか」


 川を眺めながら食べる鮎の塩焼きはきっと美味しいに違いない。


 そんなわけで俺たちは、この場で鮎を食べることにした。







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