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なんて心の中で強がって出てきたは良いが、実力差は明確、捨て身になれば勝てねえこともねえけど、やっぱり、麗奈の顔がチラつく。
そっか、菜月姉ちゃんはそれでも俺達のことを。
「くっくっ」
俺は……狂気には染まりきれねえな。
だけどそれでいい、俺は中間をいく。
まずは、そうだな。
俺は隣の麻波さん家のインターフォンを押した。
『あ、悠くん!!今出るからちょっと待ってね!』
ややあって幼なじみの声がインターフォン越しに響いた。
来たのが俺だとわかると、直ぐにインターフォンが切れて、家の中からドタバタと足音が聞こえてきた。
玄関ドアがバン!と開き、寝間着の上からコートを羽織った涼夏が出てきた。
茶色のアホ毛が夜風に揺れている。
「おっまたせー!雪人さん元気だった!?」
そう言えば報告してなかったや。
「思ったよりも元気そうだったぞ、それよりも緊急なんだけどさ――」
美代子が置かれている状況について、簡潔に説明した。
「なるほどね、沙織さんに相談しに行ってたんだ」
「ん、知ってたのか」
「うん、お母さんに会いに来てね。悠くんがコテンパンにされたって聞いたら無表情になって、今日は帰りますって」
「おいおい、それならとめてくれよ」
「まさか仇討ちに行くなんて思わないじゃん!」
涼夏の言う通り、琥珀さん相手に仇討ちなんて普通は考えねえよな。
それだけ美代子は愛情深いってことか。
「忠犬というかなんというか……なんにせよ、急ぐか」
沙織さんから聞いた場所へと走り出す。だが、涼夏が着いてこない。
なぜだか尋ねようと振り向くと、涼夏はコートを握りしめ、俯いていた。
「美代子さんのこと助けていいの?」
「なんでだよ、俺たちが行かねえと最悪雪兄みたいになっちまうかもしれねえだろ」
「でもさ、悠くんが美代子さんなら助けて貰いたい?」
俺なら……助けて欲しくはねえな。
格上相手、しかも向かうところ敵無しの琥珀さん、怪我する覚悟くらいはしてる。
俺が美代子を助けに行けば、美代子の刺し違えてやるくらいの気持ちに水を差すことになる。
「それでも助ける」
一歩を踏み出す。目的地に向かって、俺が歩き出すと、数歩遅れて涼夏の足音も聞こえた。
だって、俺のために怒ってくれてるわけだし。傷付いて欲しくねえし。負けて欲しくねえし。
俺が無謀なことした時も、助けてくれたのは涼夏達だから。
「そか、私が美代子さんでも、悠くん来てくれたら嬉しいと思うよ」
背後から涼夏の熱が篭った声が聞こえる。
「なんだそりゃ、言ってることが矛盾してるぞ」
「だってさだってさ?好きな男の子が体を張って助けに来てくれるんだよ?女の子なら嬉しくなっちゃうにゃん」
「気持ちはわかる」
危機的状況に陥ることが多いからこそわかるよ。
ドアをぶち破ってババンと登場した琥珀さんの頼もしいこと。
「悠くんて女の子なの?」
「馬鹿言うなよ、絶体絶命の場面で助けが来るなんて頼もしいだろ。ヒーロー物みたいで」
涼夏は「そういうんじゃないんだけどなぁ」と呆れ気味に、たははと笑った。
やはり女心ってやつは、いくら察しようとしても理解できない。
「努力はしてるんだけど中々理解が追いつかなくてごめんな」
涼夏は口をポカンとあけて、目を開いた。
「悠くんが!?乙女心理解しようとしてるの?」
「俺だってお前の気持ち、わかるようになりてぇの」
こう言われるのが好きとか、些細なことだけど。
「急にチャラ男みたいなこというじゃん……でも、そっかぁ、嬉しいなぁ」
パタパタとアスファルトを蹴る音が聞こえ、左肩の方から涼夏が顔を覗き込んできた。
いつもの天真爛漫な笑顔だ。
「今の涼夏ちゃんの気持ちを述べよ」
「国語の授業かよ」
「ふっふーん、涼夏ちゃんの複雑な乙女心が悠くんに理解できるかなぁ?」
「どうせ腹減ったとかだろ?」
「あーっ!馬鹿にしたなあ!ぶっころす!」




