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玄関で靴を脱ぎ、リビングに入ると、視界に飛び込んできたのは、同居人ご自慢の大きなお尻だった。
膝を曲げて大きなそれを突き出している。
ロングスカートで隠れちゃいるが、すげぇずっしりとした重みが見て取れる。
「お姉さんのお尻にキスしなよ」
煽って来るバカは一旦放って置いて、リビングのカーテンに目をやると、夜風にゆらゆらゆれている。
カーテンの横では、千秋は盗み聞きが後ろめたいのか、気まずそうにしていた。
「お姉さんのお尻にキスしなよ」
聞こえてねえわけじゃねえよ、どうしてやろうか考えていただけだ。
何せ今日は血が滾ってる、普段ならやらないことだってできる。
つまり麗奈の申し出をご褒美として受け取り、キスしてやるのもやぶさかではない。
でも素直にキスしてやんのもなあ、せめて英語で言ってくれれば。
「Kiss My Assの意味知ってんのかよ」
「きっすまいあす」
拙い英語を喋り、チラチラと俺の顔を振り返りながら、麗奈がお尻をフリフリ、動きに合わせて揺れるスカートがとてもとても扇情的だから。
俺はそのお尻を小突く程度に蹴り上げた。
うお、足の甲が沈み込む、表現のしようがない気持ち良さ、踏んだらすっごく気持ちいいんだろうな。
「へぶっ」
手を着いて受身を取ったものの、麗奈は顔面をフローリングに打ち付けて声を上げた。
「わりぃ、Kick My Assって聞こえたわ」
「……痛いよぅ」
天井を向いたお尻に近づき、ロングスカートを捲りあげた。青い下着に包まれたお尻、肌の部分にそっとキスをする。
「ひゃん!」
麗奈は慌てて立ち上がり、お尻を手で押さえて隠した。
「ほんとにキスした」
「ふっ、お前がやれって言ったんだろ」
「スカートの上からだと思ったの」
自分がやられる側に回った途端、何を生娘みたいなことを言ってやがる。
俺だって見られながらするトイレは恥ずかしいんだぞ。
「それに……沙織にちゅーした口でお姉さんのお尻にちゅーした」
それは間接的に、沙織さんは麗奈のお尻とちゅうしたことにならんか?ならんな。
「麗奈のお尻ならご褒美だ。青い下着、眼福だったぜ、ご馳走様」
「つっ――今日の君はほんとずっこいっ」
麗奈が赤くなった顔をぷいっと背ける。
「二人の世界を作らないでくださいよ!」
千秋が飛び込んできた。文字通り。
羽のように軽い体を受け止めてやった。
「今いいところだろうが、邪魔すんなよ」
「ねえ、悠太、お姉ちゃんのお尻はどんな味でした?甘かったですか?どんな匂いでした?」
「汗の味」
車で病院行って帰ってきた上、麗奈は体質的に汗っかきだ。匂いに関しては教育に悪いからノーコメントとしておく。
許されるならば、麗奈のロングスカートの中に住みつく権利が欲しい。教育に悪いし、引かれそうだから言わないけど。
「言わないでよ」
汗っかきなことを気にしてるのが、もう可愛い。
「麗奈お姉ちゃん恥ずかしがってて可愛いです!」
「話のわかる妹は大好きだぞ、もっと言ってやれ」
「わーい!お姉ちゃん美人!お尻の女神!」
と囃し立てる千秋に、麗奈はわなわなと肩を震わせて、手を硬く握り込んで羞恥に耐える。
これでしばらくはお尻を主張してくることもないだろう。
「悠太、私にもご褒美くださいよ」
麗奈のように、俺に背中を向けて小ぶりなケツを向けてきた。
「おい、人にケツを向けるなんて失礼だぞ」
「き、キックマイアス」
「そっちかよ!」
「だってキスはしてくれないじゃないですか!」
「キックもしねえよ!?」
「麗奈お姉ちゃんにはフルセットをブレゼントしたくせに!」
「ガキにはまだはえーよ、毛が生え揃ってから出直して来やがれ」
しっしっと追い払う手振りをしてやると、千秋は得意気に口の端をあげて、胸を張った。
…………まさか。
「悠太と違って生えてますよ」
「これ以上テンションが下がる前に、美代子助けてくる」
よもやガキのこいつに、勝てる部分が年齢だけだなんて認めたくない。
だから聞かなかったこととする。
「悠太は生えてませんもんね!」
「沙織さんとのやりとりを聞いてたんだろ?麗奈、行ってきてもいいか?」
俺を小馬鹿にして愉悦に浸る千秋を無視して、麗奈に確認をとる。
落ち着け、今日の俺は魔王を楽しませるために契約した悪魔だ。
「ちょっとまってね」
俺が返事に頷くと、麗奈は何かを取りにリビングを出ていった。
「悠太は子供です!いだっ!」
尚も俺をコケ下ろそうと無邪気な千秋に、デコピンをお見舞いしてやった。
麗奈は少ししてから戻ってきた。
手にロープ、割と頑丈そうなやつ。あれで縛られたらマウンテンゴリラですら引きちぎれねえな。
「……意地でもいかせないつもりか?」
麗奈はふるふると首を横にふってから千秋にロープを手渡して、椅子に座った。
「そのロープでお姉さんを縛って」
「わかりました!」
麗奈の指示に従って、千秋が麗奈の体にロープをがっちりと巻き付けていく。あっという間に椅子と一体化した麗奈。
「お姉さんの気が変わる前に行って」
「は?」
「一緒に行きたくなっちゃうから早く行ってくださいと、お姉ちゃんは言ってます」
「はぁ、わかりました」
釈然としねえし、空気が全くしまらねえけど、許可は得た。
「ちょっくら行ってくるわ」
「悠太、琥珀をコテンパンにしてきて」
「任しとけよ」
俺は負けねえから。




