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沙織さんに貰った拳銃が、1発だけ玉の詰まった入った本物じゃなくてモデルガンだったら俺は今頃人質にされて親父との交渉材料にされていたかもしれない。
麗奈は………………。
大人に言われなくても分かってる。運が良かった。
天井に手の平を伸ばして、自分の腕の筋肉を見つめる。
はぁ、筋肉もねえし頼りねえな。良くこの体つきで人を助けるって言ったな。俺。
今回の件の反省点だな、俺は弱すぎる。
これでもし姉ちゃんを殺した奴と鉢合わせしたら俺は勝てるのか?また麗奈を危険な目に合わせるのか?
手の平をグッと握る。
強くなろう。もう誰にも奪わせない。姉ちゃんとの思い出が詰まった街で悪事を働くやつは俺が成敗する。
葉月姉ちゃんの顔を頭に浮かべ固く心に誓った。
グッと握った手を見て、ある事を思い出した。
あの状況で意識することは無かったけど
「麗奈の胸……柔らかかったな」
女性の胸なんて触れた事もない。
姉ちゃんや蓮さんに抱きしめられたり、顔に当たることは合ったけど、生で触るのは初めてだった。
麗奈のことは家族だと思っている。
家族愛と言う意味では愛していると言っても過言ではない。
出会ってから3ヶ月くらい。恋に落ちるには短い期間かもしれない。恋愛経験なんてないからそれが長いのか短いのかもわかんねーけど。
でも、毎日、俺の傍に居て、色んな事が起きて、麗奈と接して……。
俺、あいつの事が……好き。なのかもしれない。
別に胸を触ったから自覚したじゃない。これで劣情から恋愛感情を抱いたなんて言ったら麗奈に失礼だ。
でもなんつーか。そう。優しい麗奈に惚れたんだ。
無表情でクールに見える麗奈の心は暖かくて、声が出ない声の代わりに行動で示してくれる。
自覚すると途端に心がくすぐってぇ……もう心音聞いても落ち着かないかも知れないな。今すぐ叩き起して告白したいまである。
麗奈は俺の事をどう思っているのだろうか。真姫ちゃんの代わりじゃないとは言ってたけど……。
不意にリビングの扉が開かれる音がした。
もしや麗奈か!?と恋心を自覚した俺の心は昂り、音の方向に視線を向けた。
「……ゆぅたぁ?ねないの?」
寝ぼけ眼を擦りながら入ってきたのは姉ちゃんだった。
普段は大きな音を出しても起きないの姉ちゃんが起きてくるなんて珍しい。
大方トイレに行こうと起きた時に寝室に俺が居ないことを不審に思って降りてきたのだろう、手に持ったタオルケットが寝惚けている事を物語っている。
麗奈が来る事に期待をしていた俺と、麗奈じゃなくて良かった。と正反対の感情を抱く俺は立派な恋の病に掛かってしまったのだろうか。嫌だな。実に俺らしくない。
「ちょっと眠れなくて……」
「……いたいのぉ?」
「少しな」
「……よーし」
のそり、のそりと俺の方へ歩いてくる姉ちゃんは寝落ち寸前。
目はほぼ開いていないし、足取りもおぼつかず、頭と一緒に左右に揺れている。
「……いたいの?」
眠いなら戻ればいいのに。
姉ちゃんは俺の目の前まで来て足を止めた。これぞ弟スキーの姉ちゃんの為せる技。
無意識に弟を求める姉ちゃんは俺を軽々しく抱き上げてソファーに横になった。
「いたいのーいたいのーとんでけー」
寝惚けて間延びした声で、姉ちゃんが言って俺を抱きしめた。
逆に、患部を触られて痛いんだけど。
「姉ちゃん。抱きしめられると痛えから。離して」
そのまま寝られたら朝まで姉ちゃんに痛みを与えられ続けられる。冷や汗ものだ。
姉ちゃんの腕を優しく叩いて離すようお願いした。
「……ごめんねぇ」
「大丈夫だよ」
「ゆーたよく頑張ったねぇ…………おねえちゃ、も、がんばる」
腕の力は緩めてくれたものの、言いたいことを言って意識を手放し、すやすやと寝息をたて始めた。
背面にはソファーの背もたれがある、これでは抜け出せそうにない。
姉ちゃんはいつも俺達のために頑張ってくれてるよ。
これ以上頑張ったら倒れちまうくらいだ。
仕方ない。今日は痛みに耐えながら眠るとしよう。姉ちゃんに心配をかけた罰だ。