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『そうだね。1人じゃ眠れない癖に起きるのが誰よりも遅いところも可愛いよねヽ(。・ω・。)ノ胸も大きいし(*´ω`*)』
「そうだよな。麗奈もそう思うよな、唯はどう思う?」
唯は軽く小首を傾げ、少し考えてから口を開いた。
「そうね。人一倍頑張り屋さんでしっかりしてるけれど天然が入ってて可愛いわね。後胸も大きいわね」
「つまりそう言う事だ。雪兄」
「あぁ、つまり菜月の胸は大きいって事だな」
うんうんと頷いた雪兄の運転する車に揺られ、家路に向かう俺達は、後部座席で顔を見合わせニヤリと笑った。麗奈は顔文字で『(๑ ́ᄇ`๑)』と。
その後も姉ちゃんの良いところと胸を語りながら、自宅へと帰ってきた。
当然、姉ちゃんの車は我が家のガレージに鎮座している。家のカーテンの隙間から覗く光が、姉ちゃんがもう中に居ることを物語っている。
だが、俺たちはもう、姉ちゃんにビビってなどいない。
「やっと帰ってきたー!」
今日と言う1日の長さにはうんざりだ。
「よし、じゃあ俺も帰るな……お前らの無事を祈っとく」
雪兄が車の中から言ってきた。
「えっ、雪兄寄ってかないの?」
まあ待てよ。
「だってお前、これから菜月のお説教だろ……?」
「雪兄……俺達を見捨てるの?俺、お腹も空いたなぁ」
雪兄を逃がす訳にはいかない。俺は雪兄を視界の端に入れたまま、俯き、出来るだけ心細そうな表情を作りながら言った。
「かわっ……仕方ねえなあ!菜月には俺から言ってやるから今日は俺の作る飯を食って寝ろ!」
チョロい。これで俺達は助かる。
雪兄が意気揚々と姉ちゃんが待ち受けているであろう玄関のドアを開く。
俺達は雪兄の勇ましい様を3歩下がって見ている。
姉ちゃんは玄関框の向こうで腰に手を当て、眉間に皺を寄せ、つま先で床をトントン鳴らし、ここは通しませんと立ち塞がっている。
「待ってたわよ貴方達……雪人くんに庇って貰おうったってそうは行かないわよ」
温厚な人ほどキレると怖い。だから姉ちゃんは怖い。
さあ雪兄犠牲になってくれ。
「菜月、なんだ、その。今日はいいんじゃないか?」
姉ちゃんを宥めようとしどろもどろながら発言する雪兄の視線は後ろから見ても姉ちゃんの顔よりも少し下を見ている。
「いいわけないでしょ、私や雪人くんが甘やかしすぎたから悠太は危ない橋を渡り続けるんでしょ?」
「あ、危ない橋って……こいつはこいつなりに考えて」「関係ない。何か仕出かしては怪我ばかりして……て言うか雪人くん目が合わないけどどこ見てるの?」
姉ちゃんは訝しげに雪兄の視線を追った。
雪兄の視線の先に気がついた姉ちゃんは顔を見る見る赤くさせ、片腕で胸を隠すように抱き込むと右腕を振り上げた。
「あ、これは、ちがっ!」
バッチーン!!!!
「へぶっ!!!」
言い訳無用。雪兄の言い訳は無情にも最後まで言わせて貰えず、姉ちゃんのビンタで遮られた。
「胸を見ながら話すなんてさいってい……ちょっと雪人くんに用があるから貴方達はその後。ちょっと待ってなさい」
流石頼れる兄貴、ありがとう。俺達を助けてくれて。
涙目で姉ちゃんに引き摺られて行く雪兄に心の中でお礼を言いながら、俺達は2階へと上がっていくのだった。
雪兄のお説教が終わる頃には、姉ちゃんの怒りは少しでも覚めていることだろう。