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本当、ろくな事にならない。
目の前に苦しんでる人がいたら助けなさい。俺が信じている姉ちゃんの教えは間違っているのだろうか。
目の前で二度と、姉ちゃんの時見たいな凄惨な事件が起こらないようにと行動する俺は間違っているのだろうか。
「何暗い顔をしてるのよ」
唯が俺の顔を覗き込んでから言った。口調にはトゲがあり、表情からも苛立ちが伺える。
「そうだぞ少年!これからヒーローになる男がなんでそんな暗い顔をしてるんだ!」
……ヒーローになる?
「俺は……ヒーローになんかなれないっすよ。」
「かっこわる」
「ゆ、唯!?何もそこまで言わなくても!」
自分の両手を胸の前に持っていき手の平を見つめる。
唯の言う通りだ。俺は大事な人1人守れない弱いやつだ。
「伏見さん。ここで停めてくれるかしら?」
「お嬢、どうします?」
「停めてあげてください」
分かりやした。といって伏見さんが車を停車させた。
麗奈を助けに行かなきゃ行けないって時にどういうつもりだ?
「降りなさい」
言われるとも思わなかった一言に動揺を隠せず、唯を見たが、真剣な表情をしている。冗談を言っている訳では無さそうだ。
「は?麗奈を助けに」「弱気な人なんて居ても足を引っ張るだけよ。雪人さんと菜月さんに連絡だけ入れてあなたは帰りなさい」
何も言い返せず口吃り、唯と目を合わせられず、下を向いた。
唯が黙ったまま動こうとしない俺側のドアノブに手を伸ばし、車のドアを開けようとしている。
「ああ、シートベルトをしてたら降りられないわね」
シートベルトも外され、後はただ降りるだけとなった。
「最後よ。申し開きがあるなら聞くだけ聞いてあげるわ。何故暗い顔をしてたの?」
「俺のやってる事は間違ってるんじゃないかって……」
「あのね。みんな貴方の選択を信用して貴方を中心に動いてるの。その貴方が今更自信を無くしたなんて言われて不安にならないと思う?」
「でも……俺のせいで麗奈が……」
「1度くらいの失敗が何よ、何かある度に卑屈になって。まずこっちを見なさい!!」
頬を両手で挟まれ、無理やり唯の方を向かされた。
「いい?何かあったら麗奈さんや涼夏は慰めてくれるかもしれない。でも本当にトラウマから脱却して前を向きたいならすぐに卑屈な考えになる癖を止めなさい。悲劇のヒロインぶるのは見苦しいわよ」
唯は俺を見放した訳でも突き放そうとしているわけでも無い。そうじゃないんだ。
本当は言いたくないことを言わせているんだ。弱い俺が。
「何回も、ごめん」
言い切って瞳を1度閉じる。悲観的に考えていた事、卑屈な考えが映像として、脳裏に映し出される。
唯の手を握り、俺の頬から離すと、自分の両手で、全力で両頬を張った。
ジンジンといた痛みが駆け抜け、張った部分が熱く熱を持っている。だけど、映像も見えなくなった。
ゆっくりと瞳を開く、開けた視界には色がついて見える。
いける、大丈夫、やれる。
「俺って弱点だらけだな。ありがとう」
開かれたドアを閉め、シートベルトをかけ直す。
「あら?まだ連れていくとは言ってないのだけれど?」
「もうブレないから頼むよ。連れてってくれ、そんで麗奈をサクッと助けて帰ろうぜ。伏見さん沙織さんすみません、車だしてください」
「悠太くん〜唯ちゃんの言ったことは心にしっかりとめて置いてくださいね〜。次は私が怒りますよ?」
「うっす」
怖いよ、この人を怒らせるのだけはマジで怖い。
……もう大丈夫だ。自分を卑下したりはしない。悪いのは全部、自分が悪いと思わず、弱者に理不尽を奮う悪党だ。そんな奴らに鉄槌を下す。
「悠太の兄貴。自信を持ってください。この伏見が認めた男何ですから」
「もう大丈夫そうね、いい顔してるわよ。まったく……しっかりして欲しいものだわ」
「少年がしっかりしたら可愛くなくなるだろう!少しはへこたれてもいいんだよ。私の胸で慰めてやろう」
貴女は俺に弄られる人なので、そう言うのは求めてないです。
「あ、そう言うのは間に合ってます。ちょっと電話入れていいすか?姉ちゃんと雪兄に連絡したいんで」