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麗奈と唯も仲が良いんだから心配になって当然だ。
本来ならダメージの薄い自分が先頭立って麗奈を助けに行きたいのだろう。
それを我慢してジッと俺を宥めている。
ちくしょう、頭に血が上りすぎた。
「あなた本当に冷静さを欠きすぎよ。あなたがそんな感じだと大事な局面で失敗するわ。だから本当に冷静になって」
「……悪い」
「気にしないで、麗奈さんは大切な人だもの」
「……ありがとう。お陰で頭が冷えた」
「仕方がないわ。麗奈さんが攫われたのだから……この場面で貴方がする最善手は何?」
唯の手が俺の頬に触れ、親指で俺の目の下を拭った。
俺、泣いてたのか。自分の事に気付かないほど冷静さを欠いて喚いていた。そんなことは今する事じゃない。
「先ずは助けを呼ぼう。車がある人がいいな、雪兄か山本さんか、後、神田さんか琥珀さんが居てくれると戦力としては申し分ない!」
名前を上げた誰もが俺より強い。だが乗り込んだ先がさっきのやつ1人とは限らねえし、むしろ同じような強さの人がもう1人いる可能性がある。そうなった時、もう1人腕っ節の強い人が必要だ。
この時間予定が空いてそうなのは、琥珀さんと、沙織さんか。
スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込む。
見覚えのある車が俺たちの前で停車し、窓が開く。
いや、まだ連絡してないよ?
「ふふふ〜私と伏見にお任せあれですよ〜」
「私も居るぞ少年!さっさと麗奈を救い出しに行くぞ」
「……は?え?」
「麗奈さんと逃げてる時に連絡しておいたわよ。話の隙をついて麗奈さんには逃げられてしまったのだけれど……ごめんなさい」
窓から覗く顔ぶれは最強のメンバーが揃い踏みしていた。
「悠太の兄貴。麗奈さんを攫った奴をぶち殺しに行きやしょう兄貴の大切な人は伏見の大切な人です」
「いや、いい。唯、むしろ助かったよ……このメンバーなら百人力だよ……」
沙織さん、琥珀さん、伏見さんの3人が乗っていた。
肺の中の空気を全て吐き出すくらい、息を吐き出し、ガードレールに体を預けた。
「伏見。何をでしゃばってるんですか〜?脳みそぶちまけたいんですか〜?」
助手席に乗る沙織さんがこちらを見ながら黒光りする何かを伏見さんに向けた。早速1人減りそうになっている。
「すいませんお嬢」
「よろしいです〜。それじゃ、取り敢えず乗ってください〜。伏見」
「はい、お嬢」
伏見さんが降りてきて、後部座席のドアを開けてくれた。
「悠太くん、肩を貸すわね」
「ありがとう唯」
唯の肩を借りて車に乗り込んだ。
「麗奈さんの居場所はわかりますか〜?」
沙織さんが間延びした声で言った。
ポケットからスマホを取り出してGPSのアプリを立ち上げると、麗奈を乗せた車は既に市内を抜けて隣町を走っているようだ。
このまま行くと行先は、人気の少ない港、もしくはさらに隣の市にある内藤ホールディングスの会社。
「これ、GPSを持たせてあるんで、これを見ながら追ってください」
「へぇ〜こんな便利なものがあるんですねえ〜。伏見、車を出しなさい。特急よ。多少なら信号無視も見逃します。友人を救うために死力を尽くします」
「分かりやした……みなさん、何処かに捕まっててください。飛ばしますよ」
伏見さんがハンドルを持ち、姿勢を正した。
サイドブレーキを外しアクセルを深く踏み込むと、タイヤが地面擦り摩耗する音が数秒鳴り響き、車は走り出した。
そうだ。姉ちゃんに連絡しねえと。雪兄にも電話してみるか、あの人呼ばないと拗ねるし。
全く……命の危険のある場所に好んで飛び込んでくるとか変わった人だな。
その点で言えば俺もそうか。神田さんの事に首を突っ込んだ事で怪我をするわ、大事な人も攫われるわ。