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麗奈に提案したところで、リビングのカーテンの隙間からオレンジ色の光が差し込んできた。
姉ちゃんが帰ってきたか。起きる為に作ったコーヒーが無駄になったな。これを飲んだらあと1時間は眠れなくなるだろう。
疲れてる上に寝不足と来たら不測の事態に差し支える。これは明日の朝飲むとしよう。
『帰ってきたね(o´艸`)』
「あぁ、そうだ、涼夏を起こしてやるか」
隣で眠る幼なじみの肩を揺する。んんぅ、と小さく唸って俺の手は弾かれた。
別に寝たままでもいいんだけどね、蓮さんなら涼夏くらい担いで帰るだろうし、なんなら横に寝かしておくのも手だ。
うちのソファーはそんな固い物じゃないから1晩くらいここで寝ても体を痛めることはないだろう。
「おーい、涼夏ー。おきろー、2人とも帰ってきたぞー」
リビングの外で玄関の鍵の開く音が聞こえた、もう間もなく2人とも入ってくるだろう。
そこで涼夏の目がパチッと開いた。ぎょろっと大きな瞳を動かして一言。
「寝てないよ」
「開口一番に嘘をつくな」
あれで寝てないなら、授業中に意識を失いそうになり下を向いた瞬間、立花先生に「男は俺の授業で寝るな」と怒られていた山本くんは、お目目パッチリすぎて前日から、そしてそのつまらない授業も寝てないレベルだ。
「気を失ってただけだよ。いやーいいパンチ貰っちゃったかなー」
どんな言い訳だよ。紛うことなき1発KOだっただろうが、審判ですらカウント取らないぞ。
リビングの扉が開き、姉ちゃんと蓮さんが入ってきた。
げっそりと疲れた表情の姉ちゃんとその後ろに立つ蓮さんは余裕綽々と言ったご様子。
「たっだいまー……つっかれたーーー悠太ーおいでー」
姉ちゃんに呼ばれて近寄るとぎゅっと抱きしめられた。
麗奈とは違って柔けぇ、そしてでけぇ、何がとは言わないけど。
「悠太成分を補給しました。これでお姉ちゃんは明日も戦えます」
姉ちゃんの手が離れた。まさかこの為だけに起こされてたのか俺達は。
後ろから肩を叩かれて振り向く、麗奈がスマホを印籠のように掲げて立っていた。
『私の胸が小さくてごめんね( º言º)』
ズイズイズイとスマホが近づいてきて顔面へと押し当てられる。スマホの頭がゴリゴリ骨に当たって痛い。
かなりご立腹の様子だけど、口に出してないのに何故……。
この子日に日にエスパーレベルを上げてると思うの。
「麗奈ちゃん成分も補給しまーす」
姉ちゃんが怒る麗奈の後ろに回ると、抱きしめた、それでも怒りが冷めやらぬ麗奈の手は伸びたままスマホを俺の顔に押し付けるのを止めない。俺は一歩下がって回避した。
どうだ、これで届くまい。とドヤ顔をしてやる。
「なるほど、悠太成分ねえ」
隙だらけの俺を蓮さんが抱きしめ、捕獲してきた。
貴方の場合誰にも相手にされてなくてちょっぴり寂しそうな娘さんがそこにいるでしょうが!
「涼夏ぁ、助けてくれえ!」
「お母さん!悠くんが困ってるでしょー!」
「いいじゃないのぉ、たまには!」
涼夏が自分の母親を俺と引きはがそうとするが、ものすごい力で抱きしめてくる蓮さんの腕はびくともしない。
圧に殺される!呼吸が!
涼夏の助けを借りて必死に抵抗をする最中、チラッと麗奈のスマホが目に入った。
『ざまぁみろ。胸を笑った者が胸で死ぬなんて滑稽だね(o´艸`)』
正直すまんかった。
蓮さんが満足するまで俺は抱きしめ続けられ、開放された時には俺はげっそりとしていた。帰ってきた時の姉ちゃんみたいに。
ダイニングのテーブルにみんなが座り姉ちゃんと蓮さんに晩飯を出して席に着く、今日は俺お手製のチーズハンバーグだ。
「いただきまーす……おいひー!」
姉ちゃんが1口大にハンバーグを箸で切り分けると、口へ運び、頬に手を当てて喜びの声を上げた。
俺が作った飯を美味そうに食ってくれるのは作り手としても嬉しくなるよな。




