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39頁


何か言いたげに顔を顰めた後、小笠原先生の手が俺から離れた。

優しいと言うか常識的な人だからこそ、俺達の非常識な行動を嗜め、引き止めてくれる。こう言う人も大事だ。


「ありがとう小笠原先生。話をするのは初めてですけど……優しくしてくれて嬉しいっす」


お礼を言って保健室を飛び出した。

ここに来た時と同じ道を今度は逆に歩いて行く、重かった足取りは非常に軽い。

階段を一段飛ばしで駆け上がり、廊下を抜けると自分のクラスの前へとやってきた。


体の不調はなんらない、そうだ。

「麗奈、ゴムを貸してくれ」

コクリと頷いて麗奈が髪を止めるゴムを貸してくれた。それを使ってセミロングの髪を一本に括った。


最近何かことを起こす時必ず髪を縛ってた気がするから、これをやると気合いが入るんだよな。

教室の扉に手を掛けた、今朝の事を思い出すと少し手が震える、下手な事を考えないように思考を停止させようと頭を振る。


俺の気持ちを察してか、俺の手に麗奈が手を重ねた。そうだ、こんなのは屁でもねえ。


「外で待っててくれ。すぐ戻る」


そして、俺は全力で扉を横にスライドして入り口を開けた。

スパーンと、大きな音をたてて開かれた扉に、授業を受けていた生徒達や教師の目が一斉にこちらを向いた。

思わぬ俺の登場に一瞬呆気に取られた教師が我に返ると俺だと認識するなり怒号を発しているが、よく顔を見てみると生活指導の教師だった。

男子達も口々に、俺の悪口をヒソヒソと言っている。


その中を一歩一歩、気にもせず堂々と軽快な足取りで抜けていく。勿論自分の席へ、カバン置きっ放しだからな。


自分の席へ着き、机の横にかけてあるはずのカバンがない。

「涼夏、俺のカバン知らないか?」


こういう時、幼馴染が隣の席だと楽だ。この絶望的な状況で他の奴なら意地悪してきそうだ。


「ゆ、悠くん……平気なの?」


朝の事もあり眉を寄せ、瞳をうるうると濡らし、不安気な表情で言った涼夏だったが俺の表情を見てそれも杞憂だったと笑った。


「はい。私が持っといたよ」

悪意のある奴にイタズラされないように持っててくれたらしい。

「いつもありがとう。助かる」


涼夏から鞄を受け取ろうと手を伸ばすと間隣に座っていた田中くんと目があった。

軽く手を上げて感謝の意を伝えると、田中くんも軽く頭を下げて返事をくれた。


「そんじゃ、今日は帰るわ」

カバンを肩に背負い、あっけらかんと帰る宣言をして踵を返すと、教室に居てさぞや肩身の狭い思いをしているであろう友人達にそれぞれ手を振って挨拶をする。


いい奴ばかりだな、美鈴に至っては「気をつけて帰りなさいよ!お菓子あげるって言われてもついてっちゃだめよ!」なんて言ってふざけて唯から「ついていかないわよ!静かにしなさい」とお叱りを受けている。


「おい貴様!止まらんか!!俺の授業を中断させておいて謝りも無しに帰るつもりか!!!」


おお、怒ってる怒ってる、ハゲ散らかした頭まで真っ赤にしてタコみたいだ。

どんな時も冷静たれ。姉ちゃんの教えでも説いてやろうか?


「すみませんした」


特に悪びれた感じも無さそうにして心底馬鹿にしたように頭を下げた。

「貴様ぁあ!!このまま退学にしてやろうか!!!」


「お言葉ですけど、職を追われたいならご自由にどうぞ」


周りの生徒たちに聴こえないくらいの声でボソリと告げた。


「き、貴様……どこまで知っている……」

ビンゴだ、喉を通って出そうになる笑いを必死に堪え出来るだけ平静を保つ。

ただただカマ掛けをしただけなのに狼狽えて馬鹿な奴。


「退学になったとしても……ただじゃすまさねえから、覚悟しろよ。内藤にも伝えておけ」


生活指導の肩に手を伸ばし、背伸びをして耳打ちをすると黙り込んだ生活指導の顔を見る事なく、開けっ放しにしていた扉から教室を出た。


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