38頁
約束は守る為にある。と言って実際に俺交わした約束の言葉通り俺の傍から離れようとしない麗奈が約束という言葉を口にした。
琥珀さんを止めてもらうどころか、心まで軽くされちまった。
ここまでして貰って俺が動かない理由はない。
「分かった。その代わり俺も付き合う」
「それこそ無茶よ!自分の体の状態をよく考えなさい!聞いた感じトラウマも再発してるのよね?だったら尚更あなたが絡む必要無いわよ」
小笠原先生も優しい人なんだな。葉月姉ちゃんなら這ってでも行け、自分で動かない者に勝利はない。と俺に言うだろう。
「俺……守られてるだけは嫌なんすよ」
「あのね、プライドのことを言ってるんじゃないの」
ずっと誰かに守られて生きている。そんな自分がとても小さく思えて嫌だ。
なんだかんだ言っても実家に居れば母さんが居たから衣食住を約束されていた。
多分あのクソ親父も、親としての責任と言う意味では、求めたくねえけど俺を守っていた。
蓮さん、姉ちゃんにも、養ってもらって。麗奈や涼夏、みんなに心の安寧を貰って。
その中で俺だけがガキのまんまで、無力でどうしようなく馬鹿野郎で。
「プライドなんか姉ちゃんが亡くなった日からとうにないっすよ。俺に残っていたのは虚無感と親への小さな反抗心だけ……」
自覚はあった。今までの変わろうと言う決意も中途半端ではなかった。
でも、この姉ちゃんが居なくなった以来の絶望的状況の土壇場で、俺はようやく分かった事がある。
「春日くん……」
小笠原先生が俺の名前を呟いて口ごもった。
心に反して体が後ろ向きでもいい。逆もまた然り、無理にでも俺は動く、そうすれば俺もいつかはちゃんと前を向ける。
葉月姉ちゃんの背中を追いかけていた頃……いや、それももうやめだ。
「今回だって、俺にハンデが無ければ跳ね除けられたんだ。だから、何がなんでも前を向く、葉月姉ちゃんの背中を追いかけるのももうやめる。思い出は思い出の中に置いておく、自分の足でちゃんと地面に立って歩く」
俺は、春日悠太は、柄じゃないと自分で思うけど、周りが言うにはどうやらヒーローだから。
同じ馬鹿野郎なら俺はどうしようもなくお人好しな馬鹿野郎でいたい。
胸の奥からじんわりとした熱さが込み上げ、血管から血が流れ、心臓からドクンドクンと自分の鼓動を感じる。
そうだ。俺は生きてる。
多分、この決意も大きな物にへし折られる事があるかも知れない。
それでも、俺の傍らにはいつも麗奈がいてくれる。
ならば、俺は絶対にへこたれない。トラウマがなんだ、今の俺なら克服出来そうな気がするぞ。
足に力を入れグッと立ち上がる。戦える。
保健室の出口へと歩いて行き、扉のへっこみに手を掛ける。怖くない。
「麗奈、ついてきてくれ」
後ろを振り返ると既に麗奈がいた。
お前も俺の決意をわかってくれるか、なら一緒に行こう。
どうして良いかわからず、ウズウズとしている琥珀さんにも手招きをする。
「私もいくぞ少年!!」
「助かるっす」
「待ちなさい!どこにいくの?無理しても余計に心が弱るだけよ!」
腰掛けていたデスクから立ち上がり、小笠原先生が保健室を出ようとする俺の手首を掴んで止めてきた。
「やだなぁ、忘れもんを取りに行くだけっすよ」
満面の笑みを作り笑いしているつもりだが、多分俺の顔は今相当悪そうな顔をしているだろうな。小笠原先生の顔が引き気味になっている。
「小笠原先生、離してやってください。行ってこい春日。無茶はするなよ」
「なんで助長させてるのよ!何かあったらこの子が退学になるのよ!?」
「痩せ我慢でそう言ったなら止めるさ。でも……今の春日の目は、友達を助けようと必死だった時みたいだ。だから止めなくていい。」