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2人に触れられた事で逆に意識が現実に帰ってきたのかも知れない、涼夏の眉がピクリと動いた。


「ふざけんなよ。悠くんが……」

ぽそりと呟いて言葉を切ると一度瞬きをした。能面を貼り付けたような表情と瞳には憎悪と殺意が垣間見える。


「悠くんが何したって言うんだよおおおおお!!!ぁああ!!!?」

自分を拘束する2人を振り解こうとがむしゃらに涼夏が暴れる。

相手が意中の女子である事を忘れ、田中と山田は涼夏にしがみついて離さまいと奮闘している。

今まで調子に乗っていた男子生徒達は、自分達の意図しない所からの爆発と、ただならぬ雰囲気に飲まれ、石のように固まっていた。


「離せよ!!」

「いでっ!駄目だ麻波!!!抑えろ!」

乱暴に振った涼夏の腕が山田に直撃した。

痛みに顔をこわばらせるも、踏ん張って涼夏の脚にしがみついて止めた。


もう1人、誰か。お願いだ。出来れば力のある奴……。


「何よ朝から騒がしいわねー」

「誰か喧嘩をしているのかしら?」

登校してきた美鈴、唯と目があった。力があって、涼夏を止められそうな奴。

美鈴と唯が自身の吐瀉物に汚れ、座り込んでいる俺を見て駆け寄ってきた。

「悠太!何があったの……?平気?」

「み、すず。俺の事はいいから。涼夏を……」


未だ暴れ続ける涼夏を指差す。美鈴は俺の頭をポンと撫でると力強く立ち上がった。

「任せなさい。唯は悠太を保健室に!」


そして、唯に命令して真っ直ぐ涼夏の元へと飛んでいった。


唯は制服の上着を脱いで放ると、自分のブラウスが汚れるのも厭わず俺の腋に手を差し込んで立たせた。

「悠太くん。いきましょ」

心なしか、唯の表情も怒気を孕んでいる。

「……わ、るい」

「いいのよ。ねえ、そこの貴方、そう、濱田くん。悠太くんの前に立ったまま何もしなかったみたいだけど、貴方が加害者かしら?」


濱田と名前を呼ばれた悪魔が、頷いた。


「覚悟しておいてくれるかしら。」


私怒ってるから、と付け足し言い捨てると唯は足取りのおぼつかない俺を連れ立って教室を後にした。


「……唯、ごめん」


情けない自分の姿に涙が止まらない。

「いいの。気にしないで。少し電話するけれど、良いかしら」

いいぞ、と頷いて返すと、唯は歩きながらスマホを取り出して電話をし始めた。


「おはようございます。琥珀先輩、もう学校に来てますか?……ならよかったです。麗奈さんに今すぐ保健室に来るように伝えてください。ええ、緊急です。急ぐので、それでは」


足早に通話を終わらせると唯は俺に向かって悲しげに微笑んだ。


「今の悠太くんには最高の特効薬でしょう?私では悲しいけれど、そこまで癒してあげられないから……」


そんな事は無いって言ってやりたいけど、言葉が喉の奥につっかえてうまく出てこない。


「大丈夫。まだまだこれからなのだから気にしないでくれるかしら。貴方にまで悲しい表情をされたら勝手に振られた気分になるわね」


「…………」


「そう。今は何も考えず私に身を委ねて入れば良いの。涼夏の事はあのゴリラがなんとかするわ、あれだけ騒げばそろそろあの酔っぱらい教師もくるでしょうし。何も心配しなくても良いのよ」


「唯……」


「私の名前を呼んでくれて嬉しいわね。でも無理して話さなくていいの」



唯と保健室の前へとやって来ると麗奈と琥珀さんが既に保健室の前に立っていた。

今朝とは変わり果てたようすの俺を見るなり麗奈が俺の体を抱きしめた。


あぁ、やっぱり、こいつに抱きしめられると落ち着く……。


「教室で吐いたばかりだから汚ぇぞ……」







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