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「悠太。もう言い逃れは出来ないんじゃないか?」
俺の行動パターンの全てを把握し尽くしている麗奈には嘘を重ねるだけ無駄か。
寧ろ選択肢を削られてジワジワ追い詰められているだけ、海の言う通り打ち明けた方が楽だ。
「別に、お前を騙そうって思って嘘をついたわけじゃないのは分かってくれるか?」
『うん、悠太は自分の為の嘘を吐いたりはしないよ(´∀`*)』
よくお分かりで。
俺は麗奈に今日あった事の全てを打ち明けた。
「という事だ。絶対向こうから俺に何かをしかけてくるから、わざわざこっちから何かをする必要は無い」
あくまでそれが学校なら教師に泣きついた上で然るべき処罰を受けてもらい、校外なら遠慮なくぶっ潰させてもらうと俺の意向を付け足して説明した。
『悠太らしくないね。そんなの拳で解決しそうなのに』
「涼夏達にも言ったけど、ああいうタイプは追い詰めると何しでかすか分からねえからな」
『そうなったらお姉さんに危険が及ぶから何もしないの?』
「おう」
麗奈の為、と本人から聞かれたら答えるのは恥ずかしい。
短く一言で返答して麗奈の瞳から目を逸らした。
下駄箱に着き、学年違いの麗奈とは一旦別れて、自分の靴箱の前に立つ。
上履きを半脱ぎの状態で扉を開けた。
「……早速かよクソ野郎」
「どうした?」
はぁーっと大きなため息を吐いた。
浅井と春日で比較的出席番号の近い海が恨み言を呟いた俺を見て足早に靴を履き替えると、不思議そうに俺の靴箱を覗き込んだ。
「今日は裸足で来たのか?」
そんな訳あるか。俺の足裏の皮膚はそこまで硬くない。
「ついこの間まで杖をついて学校まで来てたんだから裸足で登校できるわけないだろ」
1回でもそんなことをしようものなら俺の歩いた後にはホラー映画よろしく、血の足跡が残るに違いない。
「俺がおんぶして家まで送ってやろうか?」
「トラウマが再発しちまうから上履きで帰るわ」
トラウマ抜きにしても男の背中に乗って家まで送られるのは、俺の外見を加味して考えてみて欲しい。
女扱いをされているようで不愉快だ。
海は優しいやつだけど、俺に気を使う節がある、この点だけは気に入らない。
「そうか……」
まだあの時の事を気にしているようで、海の表情が暗く沈む。
別に俺は気にしてない、いつまでも気に病んで暗い表情をされる方が疲れる。
この際だから単刀直入に言ってやるとしよう。
「いつまで俺に気を使うんだよ」
若干のイラつきを孕んだ俺の声に、海は目を見開いて、反論しようと口を開いた。
「そ、そんなことは無い、困ってる時は助け合う、友達ってそういうものだろ?」
「なら吃るなよ。動揺してるのがバレバレだぞ?」
「だって……俺の所為で怪我したのに……なんにも力になれてないじゃん」
ここまで掘り下げてようやく海の本音が出てきた。
「ばっか、そもそも俺に男友達なんて居なかったからさ。こうやって一緒に馬鹿やってくれるだけで俺は充分満足してる……それに」
1度言葉を区切り息を吸う。ここまで素直な気持ちをぶつけたから、少しふざけてもいいだろ。
「俺は寸分も、なーんにも、全く気にしてねえからさ。お前もあの件のことは気にすんなよ」
だから笑顔で言ってやった。
少しでもこいつの気持ちが軽くなるように。
「悠太……」
海が俯いたまま俺の名前を呟いた。
「だからその態度やめ」「俺は一生お前について行くぞ!!友達としてお前を尊敬してる!だから俺に出来ることは俺に頼ってくれ!!………………じゃあまた明日な!!」
バッと顔を上げた海が俺の両肩を掴んだ。
大声を張り上げたそいつは1呼吸で臭いセリフを言い終えると、俺を残して走り去っていった。
男にやられても、ときめかないシチュエーションだ。