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存外先程よりはイラつきが無くなったから、心の中だけでお礼を言っておくとしよう。ありがとう。末永く爆発しろ。
弁当をつつく。やっぱ飯は至高の時間だ。
見る見るうちに弁当箱の中身が胃袋へと納まっていく。
食べ終わる頃には昼休みに起きた出来事なんて忘れるくらいには俺の機嫌は回復してきた。
流石雪兄に並ぶくらい料理の上手い蓮さんだ。
作ってきた年数が違う、これを本人に言ったらしこたま怒られる。経験済みだ。
機嫌が直ったと告げに涼夏達の所に向かおうと立ち上がったがそこで昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴った。
わらわらと自分の席へと戻るクラスメイト達をよそに、俺も肩透かしを食らった気分でそのまま着席した。
ちくしょう。人生の中で二番目に時間を無駄にした。
そう思うとまたイライラが再燃してくる。
あいつ次あったら絶対容赦しない。
葉月姉ちゃんから受けた英才教育を今も続けているので授業は退屈だ。
大体のところは家で勉強してあるから眠たくなるのは必然のことで、ついうとうとと眠りそうになってしまう。
だからと言って寝てしまうと悪目立ちするから絶対寝るわけにはいかない。
眠たい授業に耐えながら放課後を迎えた。
バイトに行った静香以外は教室に残り俺を取り囲むようにして立っている。こんな事しなくても別に逃げないけどな。
「珍しくあんなに不機嫌だったけど何があったの?」
「麗奈に近づくなって言われただけだ」
涼夏の質問に事実のみを述べるとその場に居る全員が顔を顰めた。
「どういう事?」
「麗奈に憧れてるんだと。だから俺が麗奈の隣に居るのが気に食わないらしい」
「でも……あの人確か隣のクラスの人だよね……麗奈さんと話してるとこ見かけた事ないけど……」
隣のクラスの奴だったのか。何かされる前に先手打たないと……教科書とか、上履きとか。あの様子だと陰湿なこともしてきそうだ。
そもそも麗奈は男子生徒と会話する事すら無いからな。
「それどころか接点すらないってんだから驚きだ、俺と麗奈を引き離して変わりに麗奈の事を癒すらしいぜ?」
「悠太と秋山さんを……許せん!俺が文句言ってきてやる!」
「やめておけ。空手やってるらしいぞ」
優しい友人、海が正義感を掲げて教室を出ようとしたところを止める。
気持ちは嬉しいが、曲がりなりにも空手有段者だからこいつが文句言いに行ったところで相手が逆上したら海が怪我をするだけだ。
「なんでだよ!そんな言われっぱなしで良いのかよ!お前秋山さんと約束したんじゃないのかよ!」
「言われっぱなしで帰ってくるわけねえだろ」
「おお!ちゃんと言い返してやったのか!それでこそ俺の友!それで?なんて言ってやった??」
「いや、言ってることが意味不明すぎてムカついたから殴った、そしたら気絶したから放置して帰ってきた」
海は俺の武勇伝を聞いて喜び、涼夏があちゃーと言って額に手を当てため息をついた。
美鈴は、悠太くんから麗奈さんを奪ったら涼夏のメンタルに負担がかかる。って事はそいつは消さないといけないわね、と言って海に代わって教室を出ようとしている。
唯は、山本さんに遺体処理をお願いしないといけないわね、と言って携帯を取り出して何処かに電話をかけようとしている。
殴って帰ってきた俺が言うのもなんだが、涼夏以外まとも感性を持ち合わせた人間はいないのか。
「おいおい、人1人消す算段を取るな。あの程度のクソに何かできるとは思えない。ほっとくのが吉だ」
本人の戦闘力が低すぎる、何かしてくるまではこちらから手を出すまでもない。
それに思い込みが強いタイプを中途半端に刺激すると何を仕出かすかわからない。俺ならなんとでもなる、それでも他の人間がターゲットになったらと思うと不安が残る。