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2人が真剣そうに悩んでいるところ悪いがこれだけは言える、例え美人な沙織さんが店先に立っていたとしても、その隣に、そんなあからさまなヤの付く職業をした人物が店頭に立っていて客が寄り付くわけがない。
せめて浴衣でもと思うが、この人の場合浴衣を着てもそれはそれで絵になってしまいそうだ。
少し試してみるか。
「伏見さん、ちょっとおつかいお願いしてもいいっすか?」
年上をパシリにするようで悪いけど、おつかいを頼んで店から離すことで客が来るか試す作戦だ。
「悠太の兄貴の頼みなら何なりと!!この伏見!命に変えても遂行させていただきやす!!!」
伏見さんがビシッと姿勢を正して、ハキハキと返事をした。立ち姿も話し方もそれなんだよなぁ。
「命賭ける程のものじゃ無いっすから、姉ちゃんが来るんで多分飯食ってないと思うんすよね」
姉ちゃんは自分で飯の用意は出来ないから蓮さんが近くに居ないと言うことは多分何も口にしていない。
原因を探るついでに、おつかいを頼もうと言う算段だ。
「菜月の姐御のお食事ですか、三つ星レストランのディナーでよろしいですか?」
「そんなん祭りの雰囲気ぶち壊しでしょうが!」
スマホでレストランに電話をしようとする伏見さんを慌てて静止した。
姉ちゃんもこんなとこでレストランの料理を持ってこられたら恐縮しちゃうだろ。
「雰囲気ですか、悠太の兄貴……それは盲点でした」
貴方は脳みそまで筋肉が詰まってるんですかねえ。
出会った時は見た目のインパクトでインテリヤクザだと思ってたのに度重なるホモっ気や、アホっぽい所を見せてくるお陰か、今やただの変わり者にしか見えない。
多分3ヶ月前みたいに凄まれても、もう怖くないまである。
「これから祭りで花火を見るのに祭りの雰囲気を一切感じないんじゃあ風情がないでしょ。て事で祭りの出店の食い物でお願いします」
これなら変に高級な物を買ってくることはないだろう。
「分かりやした!この伏見にお任せくだせえ!」
「伏見さん。たこ焼きと焼きそばとお好み焼きはどれかひとつでいいっすからね。姉ちゃんそんなに食わないんで。分かってましたよね?」
雄々しく人混みに向けて歩き出した伏見さんに一言声をかけた。
女性の食べる量くらいは把握してるよな、流石に。
「……は、はいもちも、もちろん馬鹿にしないでくだせえ!」
5秒たって帰ってきた返答は、しどろもどろで噛みっ噛みの返答だった。
先に聞いといてよかった、これから花火を見るというのに手荷物が増えるとこだった。
さて、射的をやらせてもらうかね、とは言ったものの、並んでいる景品はライターやカードゲーム、ぬいぐるみ、目玉のゲーム機などが並んでいるが俺の興味のある物はない。
ここは無難にぬいぐるみでも狙うか。
「沙織さん1回いくらすか?」
「今日初めてのお客さんだから無料でいいですよ〜悠太くんですし〜麗奈ちゃんと美代子さんもやります〜」
「やるやる!私射的得意だから任せて!」
はしゃぐ神田さんと麗奈が首を縦に振った。
「それじゃぁ」「わー!可愛い!お店番ですかー!」
沙織さんから玉を受け取って射的を始めようとした所だった、浴衣を着た女子高生らしき3人が話しかけて来た。沙織さんではなく、俺に。
「そうですよ〜。この子はウチの看板娘なんです〜」
まじまじと女子高生達が顔を覗き込んでくる。
バレる心配はないと思うけど人に見られるのはぶっちゃけ恥ずかしい。
「へぇ〜お人形さんみたいで可愛いですね〜小学生ですか??」
悪気はないんだろうけど今のはカチンときた。
誰が小学生だよ。と言い返そうとするが沙織さんと手が後ろから伸びてきて口を塞がれた。
顔を上に向けて沙織さんの顔を見ると、黙っていろと目で訴えかけてきている。