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「私のことは良いんだよーたまには楽しんでおいで、みよちゃんも一緒に居るんでしょー?」
「いや、そうじゃなくて……」
「なぁにぃ〜?珍しく言いずらそうにしてるけど、もしかして何かやらかしたの!?……喧嘩?」
俺をなんだと思って……いや前の家にいた時は喧嘩ばかりしてだからそれを疑われるのも仕方ないか。
「な訳無いよね。今はちゃんといい子にしてるもんねー」
ぐぬぬ、電話口でさえ思考を読まれてんのかよ。
「ほら、あのさ。姉ちゃんさえ良ければ四年ぶりに一緒に花火でも見ないか?」
なんで実の姉を祭りに誘うだけでこんな緊張してんだよ、おかしいだろ。
「ふふふっ、勿論可愛い弟に誘われたとあっちゃ行かない姉はいないよね。どうせ帰りは電車でしょ?車で行くね」
「あぁ、沙織さんの出店で待っとく。人も多いから、事故しないように気をつけてな」
「大丈夫だよー。お姉ちゃん安全運転だからじゃあすぐ出るから待っててね」
「あぁ、じゃあ位置情報だけ送っとくな」
それだけ言うと通話が切れた。
「ありがとう、これ」
ドギマギとした感情のまま、沙織さんにスマホを返す。沙織さんはそれを無言で受け取ってポケットにしまうと菩薩の如き表情で、俺を見る。
通話が終わって気づいたけど俺以外はほんわかとした空気に包まれている。
なんだよやめろよ、そんな生暖かい視線を俺に向けるなよ。
『よかったね(*'▽'*)♪』
「お、おう」
別に好きな人を誘ったわけでも無いのに照れてしまう俺がいる。
沙織さんの手が伸びてきて俺の胸に手が伸びてきて……触れた。
「なんでお姉ちゃん誘うだけなのにこんな心音早くしてるんですか〜」
そうじゃねえだろ、いきなり胸に触れられたらドキドキもするだろ!
一歩下がり胸を手で隠し、堪らず沙織さんを睨みつける。
あぁぁ!女子みたいな反応をしてしまう自分がいやだぁあ!
「はぅあ!!可愛い!!!」
「わっ!やめろ!!!」
暴走モード突入。感極まった沙織さんに正面から抱きしめられた、前が見え無い。神田さんや麗奈には無い圧力が息苦しい。
手で押し返して引き剥がそうとするも、呼吸の確保をするのがやっとだ。
「麗奈!たっけて!」
視界の端に映る麗奈に救いを求めて声を出す。
沙織さん相手だと危険だと思ったのか、麗奈が寄ってきて引き剥がそうと俺と沙織さんの間に腕を差し込んだ。
「あぁー恥ずかしがる男の娘いいですね〜!そして嫉妬する美少女も可愛い!!」
麗奈も合わせてハグ、ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。
乳圧によって歪んでいる麗奈の顔が鬱陶しそうに見えるのは、多分気のせいじゃないはずだ。
自分に無いものを羨むのは悪い事じゃ無いぞ。
この場で頼れ人はもういない。神田さんは神田さんで、「女の子同士の絡みが」とか言いながら、時折艶やかな声をあげている。ボディーガードだろうが仕事しろ。
伏見さんは沙織さんに絶対服従なので論外だ。
結局沙織さんが満足するまで、麗奈と俺は彼女の持つ欲望の餌食となった。
ツヤツヤとした表情の沙織さんとは裏腹にげっそりとして下を向く麗奈。あれを押し付けられるのは屈辱だよな。
でも涼夏と違って膨らみがある分、お前にはまだ希望があると思うぞ。
そもそも麗奈はバランスが整ってるからそのままでいてくれて一向に構わないと俺は思う。
「ふぅ、充電も完了したところで射的をやってってください〜」
貴女はそりゃ充電できたでしょうけど、俺達は元気を吸われたっての……。
「悠太の兄貴、ウチは他の店と違って重石はつけておりやせんので取り放題ですよ!!」
その割には来た時から客の入りがやけに少ないような、むしろ一人も来ていない。
「こんな良い店なのになんで客が寄り付かないんですかねぇ〜」
一つ理由があるとすれば考えられる理由はただ一つ、沙織さんの横に立ってる人物が原因だ。