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ラインの位置情報を確認した結果、呆気なく速やかに、みよは見つかった。
なんと15メートル圏内にいた、もうほんと目と鼻の先。
道の端っこで何処かのお店の壁に背中を預け、文字通りしょんぼりと肩を落としてしくしくと泣いていた。
いい歳した年上の女性が化粧が崩れた状態で泣き腫らしている所を目撃して、俺は声を掛ける前から父親モードがなりを潜め急に覚めている。
神田さんがパッと顔を上げ、俺を見つけると腕を広げて駆け寄ってきて俺を抱きしめた。
俺の方が身長が低いので顔面を胸に押し付けられる形で。
「うぅー……怖かったよぉぉお!」
暖かい涙の粒が俺の額を伝って落ちる。
変態で、身体能力が高いから勝手に頼りになる女性だと思っていたが、神田さんは誰よりも弱く繊細な人なんだろう。
そっか、普段のキャラで忘れてたけど、この人も複雑な事情があったんだもんな、お母さんと生きてく為にこの華奢な体一つで頑張って来たんだもんな。
ふと姉ちゃんの顔を思い出した。姉ちゃんもいつも俺と麗奈の為に仕事を頑張ってくれている。
神田さんの背中に手を回して抱き返す。体は恐怖か緊張からか小刻みに震えていた。
「俺達が居るからもう大丈夫だぞ」
子供をあやすように背中をトントン叩いてやると神田さんは俺の頭に顔を押し付けて静かに泣き始めた。
「……ごめんね。取り乱しちゃって」
しばらく抱きしめていると、ようやく落ち着いて来たようで、頭に当たる柔らかい感触が離れた、ヨダレ、鼻水、涙で俺の髪も、神田さんの頭も大変な事になっているだろう。
正直きたねえ、とは思うが口には出さない。
「気にする事はないっすよ。俺もこういう時、麗奈に抱きしめて貰うと落ち着くんすよね」
「確かに、安心するね。これは」
神田さんの抱き締めてくる力が強くなる。
「でしょー、それより化粧とか平気っすか?」
肝心の麗奈は興味無しなのか、はたまた買い物が出来なかった事が気に触ったのか、無表情にふよふよと視線だけを泳がせてボーッとしている。
「沢山泣いたからね……多分ぐっちゃぐちゃ。折角お祭り来たのにごめんね」
「時間ならまだある。少しくらいなら遅くなっても良いでしょ、保護者もいるし。顔、見ないようにしますから、麗奈と何処かで化粧を直してきてください」
泣いた後の顔を見られるのは嫌だし、一人で化粧直しに行ってまた迷子になるのも怖いだろう。
なら俺は黙ってこの場で待っていてやるのが男らしいってもんだろう。
こう言った点で、俺は雪兄よりデリカシーに満ち溢れていると自画自賛してみたり。
「悠太くんも……一緒に行こ」
「な、何言ってんの!?俺が女性用トイレになんて入ったら捕まるでしょ!逮捕っすよ!逮捕!」
『一人でここに居て男の人に声かけられたらどうするの?』
そう言われてみればそうか、さっきみたいにナンパされないとも限らない、なんたって俺は今、姉ちゃん達そっくりの顔に仕上げられてるからな……。
「けど、バレたら……」
未成年だから新聞やニュースに載らないとは思うが、名前が名前だ、万が一捕まったりしたら
『資産家で有名な春日家の長男が夏祭りで女装をして女性用トイレにて逮捕』
なんて書かれたりして……。
折角親父に下げたくも無い頭を下げて調査に協力をして貰ってんのに不意になる、それだけは避けなくては。
「じゃあトイレの前まではついてくから、外で待っとく」
流石にトイレ待ちっぽく立ってる女性をナンパするような男は居ないだろう。
「今の悠太くんならどう見てもバレようが無いんだけどね……私より女の子女の子してるし」
うるせえ。誰がなんと言おうと俺は男だ。
「んじゃ、離れてもらえます?このままだと歩けないんで」
神田さんに離れるように促すが、抱きしめられたまま、離れようとしない、むしろ体重が掛かってるような気がする。