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「誰が渡すの?」
静香が雪兄を下から睨みつけ質問をぶつけた。
ほら、呆れを通り越して怒りが増してんじゃねえか、俺知らねえぞ?
「俺がだ!」
そんな静香の怒りも露知らず、雪兄はイケメンスマイルで言い切った。
静香は何も言わずに雪兄の横を通り過ぎると俺と麗奈の手を取って店の方へと歩き出した。
「悠太、麗奈さん行こう。この馬鹿を相手にしてると焼きそばが冷める」
「なんでだ……俺の何が悪いんだ」
今日の所は全部、としか言いようがないな。
ああ、ナンパから助けてくれたか、そこだけは評価してやろう。
店の前に着くとソースの香ばしい香りが食欲を誘うが、肝心の焼きそばは鉄板の上には存在しない。
「出来立てを作ってあげる。冷めたのは美味しくないからね」
お前が作ったやつなら冷めてても美味そうだ、と口にしそうになるが、これは海のセリフ、もしくは同性が言うセリフなので心にしまっておくとしよう。
最近静香はまた一段と料理の腕を上げた。
店のバイトが遅くなった日などは、うちに来て料理を作ってくれるのでよく分かる。
雪兄を紹介して良かった、お陰で晩飯が美味い。
「また悪そうな顔してるね。恩人だから言わないようにしてるけど、良くないよ」
「恩を売ったつもりはねえよ」
焼きそばを作りながら静香が小言とお礼を同時に言ってくる。
俺の目的に静香の両親が邪魔だっただけだ、美味い飯を沢山食いたいっていうな。
いやー飯の為に消されたんだから静香の両親にとっちゃー災難だったな。
「はいはい、素直じゃないね。折角お礼を言ってるんだから素直に受け取っておけば可愛げがあるのに」
「何度も言うけど俺は男だからな、可愛いと言われても嬉しかねえよ」
冗談じゃなくて本当に嬉しく無い、嬉しく無いんだ俺は……。
男ならカッコいいとか、強そうとか言われたいもんだ。
可愛い、守ってあげたいなんて年頃の男が言われるには少し……いや大分屈辱的だ。
「素直じゃないなー、ねえ麗奈さん。顔に嬉しいって書いてありますよね」
『うん、内心もめちゃ喜んでるよ(o´艸`)』
そんなわけねえだろうが、そんなわけ……ない。
俺ほど素直な人間はいねえだろ、むしろ素直すぎてすぐ行動に移すまである。
今も麗奈の頭に最速でチョップをかませと右手が疼くレベルで素直だ。
「男はいつだってかっこよくありたいもんなんだよ、
なあ雪兄!」
「…………」
唯一この場で俺の話を分かってくれそうな雪兄に話を振ってみたが、頼れる兄貴は下を向いたまま道の端っこで膝を抱えて地面にのの字を書いている。
なんだコイツ、かっこわりい……。
静香の言葉の暴力で撃沈された雪兄に頼った俺が馬鹿だった。
「頼る相手を間違えたようだね、もう認めた方が楽になるよ」
「大事な何かを失いそうだからぜってー嫌だ」
『もー、本当に素直じゃない、そこも可愛いけど(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑』
「あまり言いすぎるとそろそろ怒りそうだから。はい、できたよ」
今まさに怒りだそうとした瞬間にパック詰めして差し出された焼きそばを見た瞬間俺の苛立ちは吹き飛んだ。
料理が出来て命拾いしたな、この焼きそばが無かったら俺はブチ切れだった。
静香から焼きそばを受け取って箸を握る。
「いただきます」
これを言わなかったら葉月姉ちゃんに死ぬ程どつき回される。
箸を口で咥えて片手で器用に割り、1口食らう。美味い、看板に400円と書いてあるのが嘘だと疑いたくなる。
まず具材が沢山入ってる、祭りの焼きそばと言えばキャベツとペラッペラの豚肉が少し入ってるのがセオリーだが、これは違う。
まずは人参、ピーマン、こいつらが茶色い焼きそばに視覚的な彩りを加えてくれる。
それからエビ、イカといった海鮮系文句無しに美味い。
焼きそばもゴムみたいな食感ではなく、ちゃんと焼きそばをしてくれている。
文句無しの100点だ、ここでこんな焼きそば出されたんじゃ他の店は商売上がったりじゃないか?