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106頁


「あらあなたったら親御さんの前で嫌だわっ」


唯の顔を覗き見る。顔を真っ赤にして下を向いている。

そりゃそうだ、夫婦のいちゃつきを目の前で見せられた上にそれを友達の前でやられたのだ。

唯の受ける羞恥心は尋常じゃないだろう。


この人達はイチャつきばかりで休日家に居ても唯の事をちゃんと見てあげられているのだろうか、と少し不安に思ったりもする。


「私、この子達の姉で春日菜月と申します」

姉ちゃんが夫婦の間に割って入るようにして堂々と話を遮った。



社長秘書たるもの、こう言う面倒臭そうな相手を前にしても物怖じしない事が大事なんだな。

家では天然な姉ちゃんも仕事場ではしっかりしてるんだな、きっと。


「どうりでお若いと思ったらお姉さんだったのね。そう言えばこないだのお電話でもご両親とは別居中って言っていたものね」


あらやだと手を振る仕草こそ年相応の行動だけど、見た目的には姉ちゃんと同年代と言われてもなんの疑いもねえな。

うちの母ちゃんと同じタイプだ、あの人も何故か歳を取らないんだよな、姉ちゃんと並んで歩くと姉妹と間違えられるくらい。


「そうなんです。ちょっとした家庭の事情で両親とは別居していて……」

「お聞きしても?」

「母さん。そこは踏み込まない方がいいんじゃ無いか?ここで変に踏み込んで気まずくしてしまっては唯が可哀想だろう」


聞きたがりの母親とは対照的に冷静な目線で自分の奥さんわ嗜める父親、唯は見た目こそ母親に似たものの性格は父親に似たのだろう。


唯の事も良く見てるみたいだし、これなら安心だな。


「それより君が由奈ちゃんかい?唯からよく話は聞いているよ、お人形さんみたいで可愛いってね。本当絵本から飛び出して来たお人形さんみたいだ」


人形、可愛い、と言われて悪い気しかしない。だが建前上ここは反論してはいけない。

出来るだけ笑顔を作り軽く会釈をする。

「初めまして、春日由奈です。可愛いなんて褒めてもらってありがとうございます」


そう、今の俺は春日由奈なのだ。

変にボロをだしてバレてはいけない、今の口調に変な所はないだろうか、むしろ心配になる。


「わああ!可愛いわねえ!声もお顔も!唯と一緒にうちの娘にしたいわあ!」

ぎゅむっと唯の母に抱きしめられた、唯もでかいがもっとでかいものに鼻を押し潰されて呼吸ができない、何とは言わないが。


呼吸困難で意識が遠のく俺を誰かが後ろから引っ張り助け出した。麗奈だ。


俺を抱くようにしたまま、スマホに文字を打ち込むと某黄門様のようにスマホを唯母に見せつけた。


『この子はうちのです。絶対にあげません』

文体からもわかるように麗奈から滲み出る雰囲気には怒気が孕んでいる。


「悠太くんのお姉さん!?三姉妹揃って可愛いのねえ!ウチの子に……」


「麗奈さん、悠太くん、菜月さんうちの両親がごめんなさいね。本当もうやめて。お母さん、恥ずかしいわ」


美人な麗奈を見て更に興奮度を上げた唯母が更にヒートアップしそうなところを唯が止めた。

冷ややかな目で自分の母親を見ている。


「あらやだ、年甲斐もなく興奮しちゃったみたい……唯ちゃんごめんなさいね」


「謝る相手が違うのではなくて?」


「うぅ、3人ともごめんなさいね。おばさん可愛いものには目がなくて……唯ちゃんもね?可愛いのよ。特に由奈ちゃんの……」「お母さん?」


流石娘といったところだろうか。一言で自分の母親の暴走を鎮め切った。


「うちの家内がすまないね。唯も悪かった……じゃああまり長話をしても悪いし、そろそろ帰ろうか」

「ええ、そうね」

唯父が言うと、唯が反応した。


「その、由奈ちゃんと、お姉さん?」

『麗奈です』

あくまでいつまた暴走し始めるかわからない唯母に警戒を緩めない麗奈。

「麗奈ちゃん。綺麗なお名前ね。麗奈ちゃんと菜月ちゃんも。いつも唯のことをありがとうね。今度お休みが合えばうちでゆっくりご飯でも食べながらお話ししましょ?」



「ええ、せっかくなのでお邪魔させていただきます。由奈も麗奈もいいでしょ?」


麗奈は俺の出方を伺っているようで、じっと俺を見つめている、まあそれくらいならいいか。


「うん。喜んで。楽しみにしてますね」

俺が返事を返すと麗奈も頷いたので、それを見るとニコリと微笑んで唯母は軽く頭を下げた。


「それでは今日はここで」「また今度、会おう」

唯母と唯父が踵を返して去っていく。

その後ろを追いかけようと唯が歩いていくので

「おやすみ、唯」

と声をかけた、最後に声を出さずに口を『と』で止めて。


「ええ、おやすみなさい。由奈」


返事をして今度こそ唯も去って行った。

はぁ、緊張して損をした。唯が丁寧口調だから両親もお堅い感じで現れるものだと思っていたから拍子抜けだ。



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