7. 本当のはじまり
フレッドは進む。12歳とは思えない程のスピードで。
魔物の大移動の進路は選ばずに、そうではない方向を目指して。身体能力は格段に上がってはいるのだが、頭の方は12歳のままだ。
当然なのだが、あまりの脚力と体力に、ついそんな事を考えてしまう程だ。
何が要因だったのか。フレッドは既に理解していた。自分が変わったと思えた時に何をしたのかを。
歩いている途中で気が付いた。次の町まで、どれくらい掛かるのだろうかと。もしかしたら、このままのペースだと2、3日くらいじゃ到着できないのではと。
すると、何故か体が教えてくれているような。そんな気がして体中に魔力を流してみたのだ。疑いもせずに、純粋に。これも確認の為だと思ってやってみた。それだけだった。
元々、フレッドの魔力は一般の人よりも多い。同い年など比較にならない程に。
『身体強化』
というスキルが存在する世界。そうとも知らずに発動させてしまったのだ。少しでも早く次の町へ到着する為に。
だからこそ、一般の並の冒険者以上の身体能力で駆け続ける事が出来ているのだが。
いやいや。そこじゃないだろうと。そもそも何でそんなスキルを見に付けているのかと。
そう。そこがそもそもの出発点だったはず。
魔物の死骸と人間の遺体の処理。
これまでのゴミ処理で処理された物体が何処に行ったのかなんて考えられないが、特にフレッドに変化は無かったはずだ。
こんなに変化したのが分かるのだから、もし、これまでの処理した物が何かしらの影響を与えているのなら、自分はもっと凄い事になっているはずなのだが、そこでふと思った。
ゴミを処理して身体に影響するなんて。それは無い。と。
ならば、やはり死骸や遺体と考えるのが妥当だろう。もう確認する事は出来ないが、魔物の死骸なら手に入れられるかもしれない。今の自分ならばと。
それでまた楽しくなってしまったフレッドは、人気が無いのをいい事に、軽く駆け足で進むのだった。大人全速力程のスピードで。
冒険者。
この世界には冒険者と呼ばれる職業がある。
剣と魔法と魔物がいる世界なのだから必然に。それは組織として機能していた。それなりに大きな町でなければ、それをまとめる冒険者組合事務所は無いのだが。
勿論、フレッドが暮らしていた町には無かった。それ程の町でもなかったし、稼ぐ為に肉体労働を主とする冒険者にとっては、あの町はうま味が無かった。それだけの事だったのだが。
魔物を倒すと死骸が残る。そして、魔物によってはその死骸が素材となったりもする。どんな魔物にも魔石があり、それも基本的な稼ぎの1つとなっていた。
魔物の強さによっても魔石のランクが変わり、当然のように強い魔物ほど魔石も高く売れたりするのだ。
フレッドはまだ知らないが、町で処理した魔物を持ち込めば、それなりに稼げたのだが。それよりも、あの場では自身の能力値を上げた方が正解だったのだから、それは仕方のない話なのだが。何も知らなかったのだし。
フレッドにとっては、スキルの確認の為に町の外に出る事はあっても、他の町や村に行った事はない。だから、何処に何があるかも知らないし、この国の名前すら覚えていない。
特に気にせずに暮らして来られたのだから、これも仕方ないのだが、基本的な常識なんかも疎い為にそんな事すら気にならない。
これはこれで貴重なのかもしれないが、だからこそ引き起こされるトラブルなんかも出てくるのだが、フレッドにとっては何もかもが新鮮で、初めての事なのだ。
しかもあの教会の規律、心得、生活規範なんかにはがっつり縛られていたりもするのだが。それが吉と出るか凶と出るか。さあ。そろそろ何かが起こる雰囲気が。
「もう日が傾いて来てるじゃないか」
何かは起こった。フレッドが駆けるのを止め、夜営の準備を始めたのだから。これも進展だろう。
と言っても、フレッドにとっての夜営の準備など、他の一般的な準備に比べれば特殊な部類に入る。
もう何度も町の処理中にやってきている事から、大分手慣れている作業なのだが。
今では7つ使えるようになっているゴミ箱設置。これで適当な空間に安全が確保できそうな施設を作るだけなのだ。サイズを調整したゴミ箱を設置しているだけなのだが。
魔物の大移動にも耐えられた絶対障壁。これを現場に合わせてどう設置するかの問題だけだった。
流石に何も見えないのは怖いので、少しの隙間を開け、4つのゴミ箱を設置した。穴は中心に向け、自分はその中で眠る事にしているのだが。
寝言で『ゴミ処理』と言ってしまっても、当の本人は処理できない。処理困難ゴミでも、有害ゴミでもないのだから。
ただ、一部の人達からは粗大ゴミ扱いはされていたのだが。もういいだろう。本人も気にもしていない過去の話なのだから。
5m×5m×5mのブロックの壁が規則的に並んでそそり立つ異様な光景なのだが、次の町までがそれなりに遠くて助かったのだ。流石に安全の為とは言えやり過ぎだったから。
逆に目立つのではと考え付いたフレッドは、徐々にゴミ箱を低くしていった。
どうせ寝るのはカプセルホテルみたいに置いたゴミ箱の中。5mも要らないし、自分が納得できる高さにまで縮めて行った。
なんなら、ゴミ箱の開口部の前に、もう1つゴミ箱を置いてやるだけで十分だった。それもゴミ箱の蓋くらいのサイズで十分だった。寝る時だけは。
それでもやってしまった事は無かった事には出来ない。それを見付けてしまった者が居た。突如現れた5m四方の物体だ。近くに居なくても、見通しが良ければ誰でも気付いた事だろう。そう。誰でもが。
「グッギャッ!」
「グッギャグッギャッ!」
また来たか。フレッドは口に出さずに思った。魔物の大移動からは何日も経っているし、森の生態系が元に戻りつつあったとしてもおかしくなかったのだが。
当然そんな事は知らないし、一方的に攻撃を仕掛けてくる相手なのだらか、何かしらの対応は必要だった。魔物と分かってしまった今ならば、容赦する必要すらないのだが。
グギャグギャ言いながらゴミ箱の壁を棍棒らしき物で打ち付けてくる緑色の厄介な存在。本当はそれなりに臭いのだが、臭い耐性のあるフレッドには通じない。
なんなら、一緒に交ざっていても苦痛ではなかっただろう。顔も醜い為、流石のフレッドでもそんな気にはなれないのだが。そもそも人とのコミュニケーションも苦手なのだ。それは魔物といえども同じ事。
遣られたら遣り返す事は許可されているのだ。トラッシュブルクン教会の規律によって。
まあ、魔物相手に規律も何もないのだが、そこは純粋なフレッドの事だ。一応、最初だけは何もせずに様子を見ていた事もあった。
ゴミ箱とゴミ箱の隙間から。
当然、相手も直に気付く事となり、残念ながら戦う事になってしまったのだが。
完全無詠唱で発動されれゴミ箱設置。逆さまに設置されたゴミ箱の中には魔物が2体。
最早出られぬ絶対監獄。フレッドがゴミ箱を回収すれば抜けられるのだが。
勿論そんな事はしない。魔物は敵。処理すべき対象として既に認定されているのだから、フレッドには迷いはなかった。
即座にゴミ処理を発動。少し様子を見てからゴミ箱を回収。
すると、いつものようにそこには魔石が2つ残っていた。1度、手にしていた棍棒のような物が残っていたのだが、今のフレッドには短剣と短槍がある。それもゴミ対象と認定するようになってからは、綺麗さっぱり処理されるようになっていた。
それでも周りの様子を警戒してからゴミ箱施設の一角を回収し、魔石を拾ってまた元に戻す。これが対魔物用のフレッドの戦術だった。
短剣と短槍もそれなりに使えるのだが、やはり気持ちのいいものではない為か、処理できるのなら武器で戦わず、ゴミ箱で処理する事にしていた。
そんな事を数度繰り返してるうちに、フレッドのスキルには、『棍棒術』が追加されていたのだが、確認する術は無かった。まだと言っておいた方が正しいのだが。
読んで頂きありがとうございます。
6日目にして、『22』PV。ふっ。
棒グラフを見ると笑いが。
こんなものですよ。
やはりと言うやつでしょう。
私は負けませんけどね。