18. 説明と食欲と昔話
本日3話目となります。ご注意下さい。
副所長の案内で4階の組合職員専用寮まで上がり、簡単な決まりとルールを教えてもらった。以下、副所長談を要約。
階段を上がって直ぐの廊下に掲示板があるから、これは毎日確認する事。簡単な報告事項も貼られる事もある。
共同トイレや廊下の掃除係はローテーションで回ってくる。掲示板に貼ってある当番表を確認しておく事。そのうち順番が回ってくるはずだから。
サボると食事抜き、度重なると副所長に上がり、最後は所長判断となる。お叱り、鉄拳制裁、減給の順で厳しくなる。消灯時間は無いが、遅刻も同様の処置となる。
風呂はやはり無し。あとは、鍵を失くしたら給金天引き。部屋は綺麗に使う事。異臭がするなど言語道断。抜き打ちの点検もあると思っておくように。
フレッドの場合は、就業時間は特にないが、他の人の迷惑にならないように夜は騒がない事。当然昼もだが。
これは町中でもそうだが、緊急時以外は攻撃魔法の禁止。これに反すると、場合によっては国からの刑罰が科せられる事にもなるのでくれぐれも注意を。
組合訓練所があるから、試したい事などはそこでやるように。無償で使える代わりに冒険者優先。その際には即時明け渡すように。金を払えばその限りではない。興味があるなら、その都度受付けで確認するように。
更に、日が暮れてからの許可なき外出はしない事。子供だから。一応は。あと、外出の際は、受付けの誰かにひと言告げてから出て行く事。これも念のため。
職員専用の食堂は、掲示板に書かれているメニューから選んで注文する事。配膳は全部自分でやる事。トレーごとカウターに置くだけだが。
食堂に居た職員と料理人にフレッドの紹介をして、副所長は戻って行った。所長室まで。
まだまだ打ち合わせがあるみたいだが、フレッドは気にしなくていいそうだ。端から気にもしていなかったと思うが。
単身者用の個室は、流石に宿屋の部屋より狭かったが、フレッドにとっては十分過ぎるくらいに広く、ベッドと洋服棚、物置棚だけが置いてあった。
便利収納保管箱のあるフレッドには全く問題なかったが、流石にここではゴミ箱部屋は設置できないので、更にもう1つ、ここでも設置可能なサイズの便利保管箱を作っておく事にしたのだった。
と言っても、この部屋のサイズで邪魔にならない大きさのゴミ箱に調整するだけなので直ぐに終わるのだが。
すると、
ぐう~
「は、ははっ」
すりすり
一旦落ち着いたのだからといって、食欲も落ち着いてくれるなんて有り得ない。今のフレッドにとっては当然に。
朝から色々と気を使ったし、動きもした。狭い範囲ではあったが、知らない人だらけの中をそれなりに。
だから訴えているのだ。そろそろいいだろう。ずっと我慢していたのだから我がまま言わせてもらうぞと。
気疲れなんて関係ない。それはそれ。腹は腹。やはり体からの要求は強かった。これもフレッドの為なのだが。
早くレベルアップによる身体能力を遺憾なく発揮してやろう。まだまだ全然足りてないんだぞと。
体からの有り難いお知らせによって、やはり食欲を満たしたくなったフレッドは、
「よいしょ。じゃあ、お昼を食べる事にしようかな」
なんて可愛い台詞を吐きながらも、全然可愛くない食欲を見せるのだった。初めての職員専用食堂で。
これまでは特に昼食を摂ってきていなかったのだ。成長期の体が要求するのも分かるだろう。もっとエネルギーを寄越せと唸るのも。ぐう~なんて可愛い唸り声なだけで。
いくら食べてもタダだから、もりもりモリモリと昼食を摂った。料理人や他の職員に驚かれながらも。まだまだ絶賛成長期。
そう優しく解釈するようなレベルではなく、大食いチャレンジャーを見ているような好奇の目で見られながらも、我関せずというでもなく料理しか見ていないフレッドは、それなりの量を平らげてから部屋に戻るのだった。
これも体からの要求を満たす為に。お昼寝する為に。しっかりクリーンを掛けるのは忘れずに。
一方、所長室では。
悪魔の老夫婦が狩り場にしていた所が、フレッドの足で2、3日の距離ならば、比較的近くにあった事になる。普通なら。実際には大人でも2、3日以上は掛かったであろう距離なのだが。
フレッドだからこそこの日数で移動できたのだ。手荷物はないし、身体強化を使って駆け抜けて来たのだから。道なき道も進んでいたし。
だが、そんな事は関係ない。脅威は脅威として対処していかなければならない。それが人食悪魔であったのだから尚更に。それが立場のある者としての考えだ。
『廃墟徹底浄化作戦』
今後、廃村等を見付け次第報告を入れさせるようにする事。なんなら最初の情報提供者には報酬を出す事にする。
そして、報告を受け次第、廃墟を徹底的に片付けてしまう事。同じ過ちを繰り返さないように。
なんなら依頼にしてもいいし、こちらで出来るのなら職員だけで対処してもいい。それは規模と場所とを考慮して要検討。そう決まった。
悪魔の老夫婦の居た廃村跡は、既にフレッドのゴミ処理によって綺麗さっぱり跡形も無くなっているのだから、これはフレッドの功績になるのだろうか。
それも含めてのステータスリングの値引きと言われるかもしれないが。後付けで。
『魔人族と魔角』
魔力貯蔵器にもなっている魔角なだけに、これが大きい程、大きな魔力を有し、その個体は脅威となる。
勿論、魔力が全てではないが、個体差もあるし、個体の性格による所もある。悪魔だけでなく善魔にも適用されるのだから、これも使い様という事だ。
角の数によって、一角魔人、二角魔人、三角魔人と呼ばれる事もある。
角が多ければ脅威という事でもないが、多属性魔法を容易に使いこなせるという特性を持つ傾向がある事から、やはり個体によってはかなりの脅威になってしまうのだが。
人間族とも、獣人族とも異なる種族。一般的には、獣人よりもかなり身体能力に優れ、人間よりもかなり膨大な魔力を持っている種族。それが魔人族なのだから。
フレッドはその昔、孤児院で生活している当時は、それなりにモテていたりもした。寡黙な男の子として。ではなかったのだが。
顔は良くもなく悪くもない。どこにでも居る部類の普通の男の子だったのだが、身体的にも特に優れているのでもなく、運動神経は並の部類に入っていた。
良く言えば普通。悪意を持って言えば、無口以外の特徴のない男の子だった。
ただ、1点だけはずば抜けていた能力があった。それは、人の話をよく聞いた事。嫌な顔も出来ずにただ聞いていただけなのだが。
相槌も決して上手いものでもなく、ただ時折疲れたように頭を上下に動かしていただけなのだが。
それが年頃の女の子にウケた。受け入れられた。
この男の子は私の話を真剣に聞いてくれていると。他の男の子達は落ち着きがなくて直ぐに何処かに行ってしまうか、自分の話をしたがるのに。フレッドだけは違ったのだ。
ただ大人し過ぎただけなのだが。本当はそれなりに嫌がっていたのだが。そんな事までは分かるはずもなく、それがウケたのだ。あの町では。
中には、『18歳までの自由恋愛の禁止』は知っているものの、将来はフレッドのお嫁さんになる。そう言って将来の愛を誓っていた女の子も居たくらいだ。
当然若気の至り以前の問題の幼き頃の笑い話。人によっては黒歴史。
それも、フレッドのスキルを知った途端に無かった事にされた。将来性がないから。
それだけの理由ではなかったのかもしれないが、結果としてフレッドの近くには誰も寄って来なくなった。子供心に残酷だと思うのだが、フレッドにとっては半分以上は有り難かったのだが。
それでもフレッドも人の子だ。傷付く心もあれば、どうしてだろうと疑問に思う気持ちもあった。だから、今でもフレッドには友達が居たという記憶はない。
居たのかもしれないけど、居なかったかもしれない。フレッドが友達だと思っていても、直接相手から友達だなんて呼ばないでって言われてしまったのだから。やはり友達ではなかったのだと、そう理解しているようだ。
男の子以上に女の子は難しいと。あれだけ仲も良かったはずなのに。将来はお嫁さんになってくれるって言ってたはずなのに。フレッドのスキルを知っただけで、そう言われてしまったのだから。
だから自分は1人で生きて行くしかないと。そう信じて思い込み、強く逞しく育つ切っ掛けともなったのだった。1つの要素として。
お荷物扱いでゴミ扱い。『ゴミ処理』スキルの有用性が直ぐに見出だせなかった事によって、それは加速された。
だが、フレッドは思った。誰も知らなかった僕だけの特殊能力のスキル。みんなはバカにするけど、これも神様から授けてもらったスキルだ。僕を育ててくれた教会の為にも、きっと何か役に立てるはずだ。と。
そこからフレッドの可哀相過ぎて言葉にならない程の地道で地味でつまらない生活が始まったのだが、それはもういいだろう。
ここからは、本当の意味での第2の人生が始まるのだ。定職に就いた半社会人としての。それは明日からなのだが。




