13. 冒険者組合事務所
フレッドは冒険者組合事務所に来ていた。
門番の男からは、魔石の換金なら、冒険者組合か商業組合に行くのがいいと聞いていたのだが。
フレッドにとっては、商業組合には苦手な部類の話し好きな人が多い。旅の途中で会った人達の記憶だけで判断した。
強ち間違いではないのだが、それは人にも依ると思うのだが、それはそれ。1度着いてしまったイメージは払拭し難い。それだけの事だった。
宿の店主に渡された簡潔に道順の描かれた地図を片手に町を進む。それなりに大きな町ではあるが、地図があって迷う程でもなく、フレッドには普通に地図が読めた。
だから1度も間違える事なく着いてしまった。冒険者達が集まる冒険者組合事務所へ。
荒くれ者達の酒場。なんて事もなく。事務所というだけあって事務所だった。役場みたいな感じの。それなりに戦闘装備に身を包んだ男達も多かった所は異質だと感じるかもしれないが。
『常設依頼』は掲示板に貼ってあるものの、それ以外は受付けで管理され、組合員毎に直接提示される。そんな仕組みになっているようだ。
フレッドが緊張しながら中に入ると、やはり好奇の目で見られはしたようだが、特に話し掛けられる事もなく放っておかれた。暫くは。
フレッドがどうしていいか分からずにきょろきょろしていると、事務所の中から女がやって来た。周りの冒険者達は少し距離を取り、道を開けているようにも見えたのだが、フレッドには気付かなかった。話し掛けられるまでは。
「どうしたんだい。坊や。ここは遊び場じゃないんだが、迷子かい?」
組合事務所員の制服ではなく、町を歩く普段着のような格好の女だった。敵意はなく、脅すでもなく、そう尋ねてきた。
廃村の老婆。などを思い出していたのなら、フレッドの首は飛んでいたのかもしれないが。物理的に。
「あっ。えっと、迷子ではないです。ああ、地図を描いてもらって来ました」
質問には素直に応えるフレッド。宿の店主に渡された手描きの地図を見せていた。
「ほう。ならばここに用があって来たのだな。いいだろう。丁度時間もある事だ。ここは私が直接話を聞こうじゃないか。いいかい? 坊や」
いいも悪いもない。何も知らないのだから。なんて思う事もなく、
「は、はい」
そう言って女の後を付いて行くだけで精一杯だった。
「この坊やの担当は私だ。そこの談話室を使わせてもらうよ」
そう受付けに居た事務所員に告げ、幾つかある談話室の1つに入って行った。『未使用』から『使用中』へと札を入れ替えて。
やはり子供が1人で来るような場所ではない。何か事情があると察した所長の女は、そんな事を微塵も感じさせずに話を進めて行った。
そう。この女は、この冒険者組合事務所の所長だったのだ。決して若くも老齢でもない。細かく詮索してはいけない妙齢で繊細なお年頃。もうこれ以上はいいだろう。
先程、所長が事務所の中からやって来ただけで道が開けたのは見間違いではなく、当然の事だったのだ。相当な実力とややきつめの美貌を兼ね備えた所長。それを知っているが為に誰も近付かない。いや。近付けない。
下手をすれば何でも鉄拳制裁の対象となってしまう。例えそれが間接的な事であろうとも。全治中級聖魔法の怪我などかわいいものだったのだから。日常で。
そんな事を知るはずもないフレッドは、それでも厳つい顔やごっつい体格の男よりは話し易かったのだから、それはそれで良かったのかもしれないが。やましい事は何もないのだから。
「それで。何をしに来たんだい?」
談話室にはテーブルと椅子があり、テーブルの奥に座った所長は、特に自己紹介をするでもなく話を進めた。
フレッドは恐る恐る椅子に座り前を向くと、じっと見詰めてくる所長の目力にやられてしまった。
しつこいようだが廃村の老婆とは違うが、それなりの歴戦の猛者。そんな獲物を捉えるような眼力に緊張してしまったのだ。慣れていないのだから仕方ない。
「何だい。秘密の話でもあるのかい? 安心しな。ここは外の音を遮る魔道具が起動している。あの札がそうさね。『使用中』と書いてかあった札さ。だから話が外に漏れる事はないよ。
私にも守秘義務はある。そこは信用してもらうしかないが、私はここの所長だ。安心しな」
それが理由になるのかは分からないが、信用するしかないし、他に選択肢はない。普通の人ならば。フレッドに関して言えばそんな事すら考えてはいなかったのだが。
ただ、初めての事で、周りを確認するように目を泳がせていただけだったのだから。
少しして漸く落ち着いたのか、所長の突き刺さるような言葉の口撃が止んで、やっと話せるようになったのか。フレッドはまた、ぽつりぽつりと話し出した。
門番の男にも話した、自分の暮らしていた町で何があったのかを。ここまでやって来るのに何があったのかを。
「そ、そうだったのかい。それは大変だったんだねえ」
門番の男と同様、ここでもフレッドの辿々しい話し方を、より辛いものだったのだと拡大解釈され、その姿形からも同情を誘う結果となった。
立場が上の者だからこそ持ち合わせる余裕もあったのだろうが、やはりフレッドの純粋な目と、人と接するのが得意ではなく、言葉数も少ない態度は、より一層庇護欲をそそる結果となったのだった。
本人は全くそんな気はないのだが。早くここから解放され、目的の魔石の換金がしたいと思っていたのだが。
下手をしたら、鬼の目にも涙なんて言葉を発する者が居たのなら、物理的にぶった斬られていたかもしれないのだが、何とかそれは回避できたようだ。フレッドしか居なかったのだから。
「それで、その換金したい魔石はどこにあるんだい?」
話を前に進める事で自分の感情を抑え、フレッドに魔石の提示を促した。
「えっと、その、ここには出せないと言うか、もっと広い所じゃないと出せないと言うか、その、……」
どう説明したらいいか分からなく、ありのままの事実を告げようとしたのだが、それでもゴミ処理スキルを1から説明する必要があるのかな。どこから話せば分かってくれるのかな。
なんて考えているうちに、それを自身のスキルに関連する事だからあまり言いたくはないが、それを何とか説明しようとしているのではないか。
そんな風に良心的に捉えた所長は、更に庇護欲をそそられ、ここまで来たら最後まで自分が面倒を見てやるつもりで話を進めるのだった。秘密を守るという意味では、自分程の適任者は居ないのだから。
「安心しな。スキルについての詮索は一切しないし、話したくない事を話す必要はないよ。だが、ここでは出せないと言うのなら、出せる場所まで行けばいいのだろう? そうしないと魔石を出せないのなら、お前も困るだろう?」
「あ、は、はい。そうですね」
自分が話をしなくても話が進んで行くのなら、こんなに有り難い事はない。フレッドは、何でもお見通しのような所長の言う事に従い、早くこの場を去りたと思っていた。魔石は換金して。
所長に案内されたのは、事務所に併設された解体施設、冒険者が狩ってきた動物や魔物を解体処理する為の解体場のある『冒険者組合解体所』だった。
そこには何人もの屈強そうな男達が作業に当たっていて、独特の空気が漂っていた。流石のフレッドでも「うぅっ」となってしまう程の。
所長は流石に慣れているようで、つかつかと作業場を通り抜け、それなりに空いているスペースまでフレッド誘導した。
「ここなら大丈夫そうかい? 衝立てもあるから周りからは見えないだろうし、私の責任でここで見た事は口外させないよ。安心しな」
ここまでやってもらって、言ってもらって、いつまでも気持ち悪さからの苦しい顔はしていられない。フレッドは慣れない現場には目を背け、所長の言う通りに事を進める事にした。
あんなに沢山食べてきたのに、既に栄養を欲していた体に取り込まれていたのだろうか。込み上げて来るものには固形物は無く、酸っぱくてぴりりと痛い胃液ばかりだったのだが。それは何とか飲み込む事ができた。
読んで頂きありがとうございます。
12日目にして、『30』PV。
まさかの停滞。これも意外でした。
特に何もありません。
まだまだ続きます。




