第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈30〉
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「召喚ッ!」
背中に城門と跳ね橋が閉じる音を聞きながら、アレストリーナ姫が菜々美ちゃんすなわちF級召喚獣サンドロバルバドスを召喚した。サンドロバルバドスはとべないドラゴンだが、敵の攻撃を跳ねかえす障壁呪法陣をもっている。多少の時間かせぎはできよう。
城門の開閉装置を作動させてもどってきたオレと朱音さんへアレストリーナ姫が安堵の吐息をもらした。
「無事だったちゃね、カオル!」
オレはアレストリーナ姫の豊満な胸へダイブせず、脳みそのかわりにワラのつまったマヌケな頭をぺしっ! と小さな前足ではたいた。
「ちゃはっ!? せっかく心配してたっちゃのに、なにするっちゃ、このエロブタ!」
想定外の反応に怒りまくるアレストリーナ姫へ、朱音さんがオレの想いを代弁した。
「あのねえ、アレストリーナ姫。あんたまでこっちもどってきちゃってどうすんの? 召喚獣の私たちだけで逃げるのと、アレストリーナ姫を守りながら逃げるのとではどっちがリスキーだと思……!?」
云ってるそばからグラゴダダンたちの総攻撃がはじまった。F~G級召喚獣の高出力レーザー攻撃にE級召喚獣ドアラゴリラのスローイングボム(通称・ウンコ爆弾)、D級召喚獣メガデスカンクのブレイクウインド(通称・毒ガス)が一斉にたたきこまれた。
サンドロバルバドスの菜々美ちゃんが最大出力の障壁呪法陣を展開するが、視界が白くそまり轟音が耳をつんざく。衝撃波が〈ゼーゼマン・ファーム〉と大気をビリビリとふるわせ、朱音さんがアレストリーナ姫をかばうように地面へ伏せた。
〈ゼーゼマン・ファーム〉から天に向かってすさまじい爆炎がふき上がった。
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「……ここから一番近いファームはどこなの?」
〈ゼーゼマン・ファーム〉から脱出した馬車の荷台でマルドゥガナ姫がガッケライノへたずねた。
「ここからですと〈デルフレ・ファーム〉になりますが、距離にして50クンテ。ジギリスタン皇国大使館まで260クンテ。……ジギリスタン皇国へもどれば12クンテで〈クフルト・ファーム〉へ着くのですが」
「国境をこえられるの?」
「マデラ酒の運搬と身分を偽って入国していますからね。しかも乗っている病人がアルマイリス皇国の皇子としれれば、問題はさらに紛糾するかと……」
「はがゆいけど〈デルフレ・ファーム〉へ向かうしかないの」
「ハイ! よろこんで! ……ガッケライア、〈デルフレ・ファーム〉へ向かえ!」
「ハイ! よろこんでですわ、兄さま!」
ガッケライノの言葉に御者台のガッケライアがこたえた。
「……ん!?」
御者台を見上げたガッケライノの視界に、空をとぶ召喚獣の姿が入った。D級召喚獣ブラッフクロウの編隊である。マルドゥガナ姫の記憶がたしかなら、アルマイリス皇国でD級召喚獣ブラッフクロウへ騎乗するのは、アルマイリス皇国第2皇女・ネブラスカスだ。
「ガッケライノ、信号弾! ガッケライア、馬車をとめて!」
「「ハイ! よろこんで!」」
ガッケライノが携帯していた信号弾をブラッフクロウの手前へ向けて放つと、ブラッフクロウの編隊が眼下の馬車に気づいた。
「ネブラスカス姫、こっちなの!」
馬車の荷台で大きく手をふる銀髪の皇女の前へブラッフクロウの編隊が舞い下りた。
「マルドゥガナ姫!? そちは一体こんなところでなにをしておいでじゃ?」
ブラッフクロウの背から下りたネブラスカス皇女の困惑をさえぎるようにマルドゥガナ姫が早口でまくしたてた。
「アレちゃんからヒメちゃんを託されたの。ヒメちゃんすごい熱なの。はやくお医者さんに診せるの」
「マルドゥガナ姫、そちもヒメアンドロ救出にご助力いただいたと云うのか!? 心より感謝申しあげるぞよ。子細をうかがいたいゆえ、わらわとともにブラッフクロウへご同乗いただけぬか?」
「もちろんなの。……だれかヒメアンドロ殿下をていねいにお移しするの」
ネブラスカス皇女の言葉にうなづいたマルドゥガナ姫がネブラスカス皇女につきしたがう召喚師たちへ命じた。
馬車を見知らぬ軒先へとめ置き、マルドゥガナ姫一行がネブラスカス皇女一行のブラッフクロウへ乗り移った矢先に〈ゼーゼマン・ファーム〉ではげしい爆発が起こった。




