第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈31〉
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サンドロバルバドスの障壁呪法陣でグラゴダダンたちの第1次攻撃をしのいだオレたちだったが、周囲に燃えさかる炎と身を焦がすような熱波で身じろぎひとつできなかった。
炎をあやつる〈ウサ耳コブタ〉のトンカプーであるところのオレは、まだ灼熱地獄への耐性があるものの、人間のアレストリーナ姫がうかつに息をすれば肺が燃えてしまいそうなほどの熱気である。パラつく雨も文字どおり、焼け石に水だ。
「ごめんっちゃアカネ。……でもウチ、みんなだけ傷つくところを見ていられなかったっちゃ」
自分の背面を〈石化〉させてアレストリーナ姫とモッケイモンキーのまりるををかばった朱音さんがアレストリーナ姫の頭へやさしく手を置いた。
「……そんなの、みんな知ってる。アレストリーナ姫は底ぬけにアホだけど、底ぬけにやさしくて、底ぬけにまっすぐだから、私たちはみんなアレストリーナ姫についてきたんだよ」
「まりるも姫好きるる」
「……アカネ、まりる」
おそらくはオレたち全員の想いを代弁した朱音さんの言葉にアレストリーナ姫が滂沱した。
ふつうの召喚獣であればまだしも、オレたち人間召喚獣はその気になれば、アレストリーナ姫や仲間をおいて逃げだすことも可能だ。アレストリーナ姫が死ぬか、金色召喚牌が破壊されるかすれば、オレたちは地球へ帰還することができる。
悪いヤツほどよく眠り、この世に悪が栄えまくっているからこそ、オレたちは正義を希求する。時に迷惑ではあっても、アレストリーナ姫の純粋さが無私の正義と信じられるから、オレたちはアホであってもアレストリーナ姫を見すてる気になれないのだ。
一方、調子に乗ってF~G級召喚獣をよせ集め、総攻撃をかけたグラゴダダンだったが、その余波が自分たちの身におよぶことは想定外だったらしい。
爆発の衝撃や熱波を避けるため、攻撃後は召喚獣たちに自分たちを守るための障壁呪法陣をはらなければならなかった。矢つぎばやに連続攻撃はできないと云うことだ。
この隙にアレストリーナ姫と朱音さんをシャイニーロプロスへ乗せて〈ゼーゼマン・ファーム〉から脱出させたいところだが、アレストリーナ姫の身動きがとれない。
シャイニーロプロスの瑞希が敵の第2次攻撃にそなえてアレストリーナ姫たちの上へおおいかぶさった。翼をひろげてドームをつくり、そのなかに少しずつ冷たい風をおくりこむ。
急激に温度を下げると気圧の関係で周囲の熱波が温度のひくいところへ流入する。そうなればアレストリーナ姫は炎にまかれてお陀仏だ。
自分たちの放った攻撃の余波にビビったグラゴダダンが灼熱地獄と化した〈ゼーゼマン・ファーム〉の闘技場に立つサンドロバルバドスに気づいた。
「アレストリーナめ。まだあの攻撃でも死なんか。次の準備をしろ! 攻撃はサンドロバルバドスの足元へ集中しろ! 次こそアレストリーナを紅蓮地獄で丸焼きにしてくれる!」
オレたちの前へ仁王立ちするサンドロバルバドスの菜々美ちゃんが肩で息をしていた。いつもの菜々美ちゃんなら反撃の一発もお見舞いしているところだが、障壁呪法陣で消耗していてそれだけのよゆうはない。
そもそも、ふつうの召喚獣戦闘で11体のF~G級召喚獣から総攻撃をうけるなんてありえないのだ。人間召喚獣の菜々美ちゃんだからこそなんとかしのげたと云えよう。
オレはサンドロバルバドスのゴツゴツとした頬へ鼻をチュッと押しあてると、サンドロバルバドスの肩へとまった。「ガンバレ、菜々美ちゃん」と云う応援のキスだ。
人間の姿をした菜々美ちゃんの頬へキスするなぞ、おそれおおくてできたものではないが(セクハラで告訴されるおそれあり)、巨大なドラゴンのゴツゴツした頬へ〈ウサ耳コブタ〉がちょっと鼻を押しあてるくらいなら色気もないし恥ずかしさもない。
この状況下で〈ウサ耳コブタ〉のB級召喚獣トンカプーにできることはない。せめて、ひとりで敵の猛攻をしのぐ菜々美ちゃんへよりそい、およばずながら彼女をはげましたいと思った。こう云う時、召喚獣同士で会話できないのがもどかしい。
……召喚獣同士で会話? ちょっと待て。なにかが心の隅にひっかかったような。
オレはこの絶望的状況下に一瞬、光明を見たような気がしたのだが、それはオレの脳裏をすりぬけて雲散霧消した。考えろ、思いだせ、オレ! まだなにか打つ手があるはず……。
「撃て! 地獄へ堕ちろ、アレストリーナ!」
グラゴダダンの号令にふたたび視界が白くそまった。
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〈ゼーゼマン・ファーム〉の城下に住むクーラウの人々はグラゴダダンの第1次攻撃で生じた轟音と衝撃波におびえて外へ顔をだした。
気をうしなったヒメアンドロ殿下を一足先にブラッフクロウで〈デルフレ・ファーム〉へおくりだしたネブラスカス皇女たちは、クーラウの人々がパニックを起こさぬよう声高にさけびつづけた。
「わらわはアルマイリス皇国第2皇女・ネブラスカスぞよ! かの地まで戦場にはならぬゆえ、みなは屋内へ避難するぞよ!」
「大丈夫なの! クーラウはなにがあってもネブラスカス姫とマルドゥガナでお守りするの!」
「おお、ネブラスカス姫だ!」
「隣国のマルドゥガナ姫まで!」
昨晩から不安をかかえていたクーラウの人々はネブラスカス皇女とマルドゥガナ姫の言葉に勇気づけられ、ふたりの名を讃えあげた。
「アル、ネブラスカス! アル、ネブラスカス!」
「アル、マルドゥガナ! アル、マルドゥガナ!」
とつぜんの大合唱にネブラスカス皇女とマルドゥガナ姫は困惑した。称賛を浴びるにやぶさかではないが、今はそんな場合ではない。




