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第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈23〉

挿絵(By みてみん)


     18



 とりあえず南へ向けてとびたったシャイニーロプロスこと瑞希(みずき)ではあるが、瑞希(みずき)はあてもなくとんでいた。


 アレストリーナ姫奪還のあとはゲートのかくし場所まで移動すればおわりだと思っているはずだが、まだゲートのかくし場所も聞かされていないし、ゲートで地球へ帰還(リターン)する前にもうひとつクエストがつけたされたことも聞かされていない。


シャイニーロプロスは雨と敵の目をやりすごすべく高度を上げた。


 実のところ、シャイニーロプロスは音速(マッハ)で飛翔しているのだが、シャイニーロプロスの周囲は魔力でガードされているため、シャイニーロプロスの背に乗るおれたちも風圧を感じることもなければ雨にぬれる心配もない。


 わざわざ雨をやりすごすために高度をあげたのは視界を確保するためだ。雨中の音速(マッハ)飛行では視界がホワイトアウトする。豪雨の中、高速道路を走る車のフロントガラスのもっとスゴイ感じ、とでも云えば少しは雰囲気がつたわるだろうか?


 シャイニーロプロスがあつくたなびく雲の上へでると、頭上にはプラネタリウムよりもウソっぽいくらい美しい満天の星空がひろがり、眼下の雲海は月の光に照らしだされてどこまでも白く茫洋(ぼうよう)とかがやいていた。


 これほど幻想的で美しい光景を(なま)で見るのは生まれてはじめてだった。天国へつづく道があるとすればこんな感じかもしれない。全員がこの光景に魅了され、思わず息を呑み、歓声をあげた。


 おそらく一番この光景に感動していたのは瑞希(みずき)だ。これまで惑星アルマーレの夜空をながめる機会はあっただろうが、ここまで近く星空を感じたことはなかっただろうし、異世界異次元の宇宙にあらためて神秘を感じていたはずだ。


 そんな瑞希(みずき)ことシャイニーロプロスへ、朱音(あかね)さんが無粋と知りつつ状況を説明した。目ざすはアルマイリス皇国南西、3国の国境にほど近い〈ゼーゼマン・ファーム〉である。


「とりあえずノイエルム山脈にそって南下するっちゃ」


 アレストリーナ姫がアホなことを云いだしたので、


「目印の星、ないるる?」


 オレの言葉をまりるが通訳した。白くかがやく雲海で下界の光景なぞ見えないっつーの。


「ああ、そうだっちゃね。ミズキ。あの左っかわに見える赤い星。しばらくはあれを目指してとぶっちゃ」


 アレストリーナ姫の言葉にシャイニーロプロスがぐんと舵をきった。


「アレストリーナ姫。あの星、名前とかあるんですか?」


 朱音(あかね)さんの質問にアレストリーナ姫がこたえた。


「狛犬座のコマコル。別名・嘆きの星だっちゃ」


「へえ。惑星アルマーレにも星座とかあるんだ?」


「もちろんだっちゃ。狛犬座には哀しい伝説があって……」


「ミズキが惑星アルマーレの星図ほしい、云ってるるる」


 まりるがシャイニーロプロスの気もちを通訳した。


「ミズキは星が好きなのけ? わかったっちゃ。いずれ陰陽博士の書庫をまるっとプレゼントするっちゃ」


 今のままでは皇女の身分すら剥奪(はくだつ)されかねないアレストリーナ姫がぬけぬけと大言壮語した。まったくあてにならない約束だが、オレたちを乗せたシャイニーロプロスの背中はうれしそうだった。



     19



 どれほど長い時間フライトしていたのかさだかではないが、いつの間にか眼下の雲海がうすれはじめ、東の空が白みはじめた。


 水平線から朝日がのぼると(しゃ)のようにひろくかすむ雲海から大きな虹のアーチがうかび上がった。太陽の光が雲や大気中の湿気に反射しているのだ。


 間近で見上げる虹の柱のとてつもない太さと美しさに圧倒された。これは異世界ならではの特別な光景ではない。条件さえそろえば地球でも見られる壮大な自然美だ。


 おのれの矮小(わいしょう)さを実感し、こんなに美しく広大な世界で人はなにをちまちま争っているのだろう? などと謙虚(けんきょ)な気もちになったりもする。


 シャイニーロプロスがおぼろに光る虹のアーチへ突っこんでゆっくりと高度を下げた。雲の下はあかるい陽射しの中、まだ小雨霧雨がパラついていた。狐の嫁入りと云うヤツだ。


 右手に峻厳(しゅんげん)なノイエルム山脈とそれに併走(へいそう)する大きな川が見えた。


「ヨハンナ川だっちゃ。この川が〈ゼーゼマン・ファーム〉のところでアルマイリス皇国とジギリスタン皇国の国境となるアルーム川に合流するっちゃ」


「てことは、この川を目印にすすんでいけば〈ゼーゼマン・ファーム〉に着くってわけね。……ちょっと、あれなに!?」


 アレストリーナ姫の地形解説にうなづきかけた朱音(あかね)さんがヘルゴルゴートの瞳で前方を凝視した。森の奥に広大な田園風景と小さな都市が見えた。あれが〈ゼーゼマン・ファーム〉のある街クーラウであるらしい。


 そんなクーラウのはずれ、ヨハンナ川べりに建つひときわ大きな城の裏手からもうもうと白煙が上がっていた。


「〈ゼーゼマン・ファーム〉が燃えてるっちゃ!?」


 朱音(あかね)さんが動揺するアレストリーナ姫を落ちつかせようとしずかな口調で告げた。


「あれだけ煙が白いってことは鎮火してる証拠。三角城みたいに焼け落ちたわけじゃないみたいだけど……」


 あからさまにようすがおかしい。アレストリーナ姫がシャイニーロプロスへ命令した。


「ミズキ、計画変更だっちゃ! このまま〈ゼーゼマン・ファーム〉へ突っこむっちゃ!」

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