第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈17〉
「ミナトさんの情報によると、ここは〈メアルミノス・ファーム〉の5階で書庫の奥がアルハンドロ殿下の研究室ってことになるらしいんだけど……」
「ゲートを研究室にかくせないですかね?」
これまたぺったんこのバックパックからとりだした細めのロープでゲートの石板をしばり、プラスチックのとっ手をつけながらたずねてみたが、朱音さんににべもなく一蹴された。
「あのね、私たちこれから北のはずれの〈アーデル・ファーム〉までいかなきゃなんないのよ。〈アーデル・ファーム〉で助けたおたずね者のアレストリーナ姫と一緒に皇都の中央までもどってこられるわけないきゅん」
オレたちの任務はアレストリーナ姫を救出してゲートで地球へ帰還することだ。そのため、ゲートを〈メアルミノス・ファーム〉からもちだす必要があった。
最悪、帰還後にゲートが敵の手にわたることになってもしかたないが、できればだれにも見つからないようなところへゲートをかくして、今後も地球と惑星アルマーレを行き来できるようにしておきたい。
とは云え、ゲートはそこそこ重くてもち運びしにくい。そのため、少しでもラクがしたいと思ったのだが、世の中そんなに甘くはなかった。
「なんか、外さわがしいるる」
書庫をさぐるように跳ねまわっていたまりるがオレたちのところへ駆けもどってきた。朱音さんが赤色灯を消してカーテンのすきまから窓の外をうかがうと、滝のような雨が激しく窓をたたいていた。
眼下に目を転じるとマリモコウのかがり火が灯されていた。あわただしげに右往左往する人影もかいま見える。
「ありゃりゃ。こりゃ厳戒態勢って感じだね」
「千年ちかく戦争なんてしてないんですよね? 昨日の今日でいきなり攻めこまれることもないでしょうに」
あきれるオレを朱音さんが諭した。
「千年ちかくしてないから逆に勝手がわかんないんでしょ? それより問題はどうやってここを突破するかだよ」
たしかにそうだ。ここは敵陣・ド・まん中なのだ。
「さすがに、この格好で城内をうろついてたら怪しまれますよね?」
「雨は考慮してなかったけど、水着は正解だったかもね」
オレと朱音さんは地球・日本の海水浴にきた高校生カップル的な服装をしていた。
オレはハーフパンツの海パンにTシャツに半そでのパーカー。朱音さんはセパレートのミニスカートタイプの水着の下にブラカップつきのタンクトップ。その上からウインドブレーカーを羽織っている。
これは脱ぎやすさを考慮した結果である。
今、オレと朱音さんはゲートリングで人間の姿をたもっているが、本来、惑星アルマーレ(こっち)では召喚獣なのだ。
オレはともかく朱音さんがいきなり召喚獣へ変化したら朱音さんの服はビリビリのボロボロである。
そうなると、朱音さんが人の姿へもどった時、着られる服がなくなってしまう。オレとしてはのぞむところだが、異世界とは云え、全裸で動きまわるほど朱音さんの羞恥心は鈍化していない。
冗談はさておき、オレたちが召喚獣へ変化する前には服を脱がねばならないし、人の姿にもどったら服を着る必要がある。
男のオレはまだしも、朱音さんが召喚獣へ変化するたびにブラをはずしショーツを脱ぎ、人へもどるたびにブラをつけショーツをはくなんて、まどろっこしくてやっていられない。一気に脱げて一気にはける服、と云うことで、オレと朱音さんは水着の下をはいているのだ。
警備兵(厩務員)あるいは召喚師、あるいはメイドの衣装を調達する必要があるな、などと考えていたら、頭の中で声がひびいた。
(トンカプー。今、召喚獣戦闘中か?)
この声は神獣グラコロさんではないか。オレが惑星アルマーレにいる気配を呪印で感じているらしい。
(いいえ。そうじゃないっすけど……)
オレが頭の中でこたえると、神獣グラコロさんが軽いノリで云った。
(では、ちょっとこちらへよっていくがよい。召喚ッ!)
ええええっ!? いや、ちょっと待って、今それどころぢゃ……! とかえす間もなく、オレの頭上に緑色の呪法陣があらわれた。
「カオルちゃん!?」
突然の呪法陣出現に朱音さんがおどろくと、まりるが朱音さんをオレへ向かってつきとばすように抱きついた。
「アカネ、カオルにくっつくるる!」
「え? なに、なんなの……!?」
オレはゲートを手にしたまま、朱音さんに押し倒されるかたちでコケると、そのまま呪法陣へ吸いこまれた。
13
ノイエルム山脈の地下迷宮にぽっかりとあいた奈落の底――。
神獣グラコロアリスドラゴンの爪の上に召喚されたオレたちふたりと1匹は勢いあまってそのまま宙へ転がり落ちた。
「きゃあああああっ!」
いきなり虚空へ投げだされた朱音さんがオレの頭にしがみついたまま悲鳴をあげると、神獣グラコロさんがすかさずもう片方の手でオレたちをキャッチした。
「るる~!」
朱音さんの背中でモッケイモンキーのまりるが状況に似つかわしくないほどあかるく親しげな声をあげた。
「ちょっと、ここどこ? 一体なにがどうなって……きゃあっ!」
ぼんやりあかるい暗闇の中で朱音さんが顔を上げると、神獣グラコロアリスドラゴンが金色にかがやく巨大な瞳でオレたちをまじまじとながめていた。
(……声が大きい。なるほど。召喚牌の気配がせなんだのはゲートを通じてこちらへきたためであったか)
「声が頭の中へひびく……。まさか、あなたがアレストリーナ姫と契約した神獣!?」
(ほう、賢い娘じゃな)
一瞬で状況を把握した朱音さんに神獣グラコロさんが感心した。




