第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈12〉
「ちょっと待て。グラゴダダンたちの陰謀を告発されたくないのはアルマイリス皇国もおなじじゃないのか?」
アレストリーナ姫の口から金色召喚牌や人間召喚獣の話がもれれば、召喚獣戦闘不正問題に発展しかねない。国際的な信用の失墜や皇族への不信から国家存亡の危機におちいる可能性すらありうる。
もはやアルマイリス皇国にアレストリーナ姫の味方はいないと云うことだ。絵に描いたような四面楚歌である。虞や虞やなんじをいかんせん?
「ピ~ンポ~ン」
緊張感を殺ぐようなドアホンが鳴ってオレの思考をさえぎった。まったくだれだ、こんな時に? と思ったら瑞希が席を立った。
「きたか」
瑞希がでむかえたのは、マッシュルームカットに丸メガネ、アロハシャツに短パンと云う夏らしいラフな風体の、しかし、よく知るおじさまだった。
「湊斗さん!?」
瑞希の父・水啼鳥湊斗さんである。
「こんにちはカオルくん。すべて聞いたよ。ボクはショックだ。これやゲートリングが無辜な子どもたちの命でつくられていたなんて。ボクはただ友好的な異次元間交流をしたかっただけなのに」
そう云いながら湊斗さんは小脇にかかえていた直径50cmほどの丸い石板をオレへさしだした。うすくてかたくてそこそこ重い。
「これは?」
「ゲートだ。ボクの事務所からもってきた。そして、これがゲートリング」
アロハシャツの胸ポケットから翡翠の指輪をふたつとりだすと瑞希へ手わたした。
「移動時の呪文は、ラ・クラ・ムサハ・エラ・セクト。これで向こうのゲートの風景が見える。マオと云う呪文を唱えれば行き先の変更ができる。そして決定呪文がマヤ。ラ・クラ・ムサハ・エラ・セクト・マオ・マヤ! で異次元を行き来することができる」
「瑞希、これはいったい?」
「アレストリーナ姫救出作戦の要だ」
最悪の状況にそなえて、オレが惑星アルマーレ(あっち)へ召喚されている間に段どりをつけていたらしい。さすがはPCゲーム『フェアモン・バトル』内で20手先を読むと云われた〈賢者アリスタルコス〉である、……ではなく。
「どうしてゲートリングがふたつもあるんですか? たしか、この世に存在するゲートリングは3つだって……」
アルキメヒトとグラゴダダンのゲートリングは、まりるとアレストリーナ姫が所持している。そして、最後のひとつを所持しているのが湊斗さんと云う話だったのだが、
「そうなのきゅん?」
と朱音さんが首をかしげた。
「さっき説明したろ?」
「忘れた」
「いや、ここ重要だよ!? テストにでるとこだよ!?」
ゲートリングひとつにつき、30人の子どもの命がうばわれているのだ。冗談では済まされない。
「ああ。もうひとつはアルマイリス皇国第1皇子・アルハンドロ殿下のものだよ」
「アルハンドロ殿下もゲートリングを所持していたんですか? でも、どうしてアルハンドロ殿下のゲートリングを湊斗さんが?」
湊斗さんがオレの疑問に屈託のない笑顔でこたえた。
「ほら、あの人、探究心旺盛だろう? 彼ってゲートリングをはずすと、地球ではヒヨリガモの姿になるんだ。自分の目と翼で自由に世界を見てみたいってとびたったのが一昨年の冬。去年の冬は帰ってこなかったけど、今年の冬は帰ってくるんじゃない?」
……どおりで、アルキメヒトの話の途中からアルハンドロ殿下の名前がでてこなかったわけだ。アルハンドロ殿下は別大陸へ海外留学中って聞いてたけど、それって行方不明をかくすための方便だったんじゃねえの?
「ヒヨリガモはわたり鳥だから夏に帰ってくることもないだろうし、ちょっと借りても問題はないだろう」
1年以上音信不通なのにまったく心配するそぶりを見せない湊斗さんもなかなかどうして肝のすわった人だといろんな意味で感心する。
「ミナトさん、お疲れさまです。はい、これお茶」
「ああ、ありがとう、アカネくん」
朱音さんのさしだした冷茶を湊斗さんがうけとった。
「アカネさん、湊斗さんと顔見知りだったんですか?」
「まっさか。カオルちゃんが召喚されたあとでミズキュンがここへおよびしたのよ」
冷茶を一口飲んだ湊斗さんがこともなげに云った。
「いや~、まさかミズキくんが生徒議会の合宿と偽って、となりのカオルくんの家でイチャイチャ外泊してたとは気づかなかった。〈リア獣〉のリア充だねえ。カオルくん、これからもミズキくんのことを末永くよろしくたのむよ」
「ちょちょちょちょっとなに云ってんですか、湊斗さん!? イチャイチャ外泊とかそ~ゆ~んじゃなくてですねえ……」
「そうなんですよお、おじさま。カオルちゃんたら夜はアッチの方が激しくて、ミズキュンと私のふたりを相手にあんなことやこんなことを……」
「ちょっと待てい! あんたなに云ってんの!? 自分まで当事者みたいな顔してなに云ってんの!? あんたもかなりのダメージ負うよ!?」
朱音さんの誤解をまねくような意図的発言に、オレは必死でツッコんだ(だからこれはあくまでゲームの話だってば!)。




