第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈10〉
「アカネの云う通りだ。検証の価値はある」
あさっての方向から問答無用の援護射撃が放たれた。瑞希である。オレとてできればアレストリーナ姫やまりるに差し入れしてやりたいので、不毛な追求をさけると瑞希へたずねた。
「湊斗さんはなんて?」
「寝耳に水の話で最初は当惑していたが、アルハンドロやゲートリングと云う単語で私の話を信用した。惑星アルマーレからのアクセス権を停止した」
「アレストリーナ姫と連絡とる時、どうするきゅん?」
メールやTV電話は『フェアモン・バトル』を経由しておこなわれる。それができなくなると云うことだ。
「アレストリーナ姫のアクセス権だけは生かしてある。アレストリーナ姫には〈アーデル・ファーム〉へもどったら連絡を待てとつたえてほしい」
「わかった」
「……これからどうなるのかな?」
朱音さんの言葉に瑞希が小さく頭をふった。
「わからない。相手の出方にもよるが、現段階でグラゴードリス皇国とアルマイリス皇国がジギリスタン皇国へ侵攻することはあるまい。こちらとしてはグラゴダダンの陰謀を白日の下にさらし、二度と非道がおこなわれないよう監視させれば一件落着なのだが」
「……よっしゃ! もうひとふんばりってところか。さっさとアレストリーナ姫を〈アーデル・ファーム〉へおくりとどけて、オレもとっとと地球でゆっくり眠りた……」
『召喚ッ!』
オレの頭上で声がひびき、緑色の呪法陣がうかび上がった。朱音さんがあわてておにぎりなどの入ったエコバッグをオレに手わたす。
「ほらほらカオルちゃん、このエコバッグくわえてはやく!」
「はひふひ!」
オレはエコバッグのもち手をくわえながらバタバタと異世界へ召喚された。
7
周囲が冥くて目が慣れるまで少し間があったが、オレが召喚されたのは神獣グラコロアリスドラゴンの爪の上だった。
(ほい、これで異世界からの召喚も成功。……なにをくわえている?)
(差し入れです)
もちこみ成功であった。神獣グラコロさんの爪から滑空すると、アレストリーナ姫とまりるがよってきた。朱音さんのおにぎりが入ったエコバッグをそっと地面に下ろす。
「アカネ、おにぎり、にぎってくれたるる」
まりるがオレの言葉を通訳しながらエコバッグを開けた。中にはたくさんのおにぎりと小さなペットボトルのお茶が3つ入っていた……て云うか、まりるっ!?
冥いせいもあって看過していたが、まりるは人間の姿になっていた。狼狽するオレに神獣グラコロさんが解説した。
(ゲートリングは次元干渉をうけない上に、まりるは元々惑星アルマーレ、すなわちこちらの人間だったのだろう? だったら、こちらでも人の姿になれるのではないかと思って、きさまがもどってくるまでのヒマつぶしにためしていたらできた)
「まりる、自由に姿かえられるるる~」
まりるは4本腕の人間の姿になってオレの前で1回転した。冥くてほぼほぼシルエットしか見えないからよいようなものの、まりるは全裸である。
これで周囲があかるかったら、オレはとんでもないものを見上げることになっていたはずだ。しかし、アレストリーナ姫のハダカは見ちゃだめなのに、まりるのハダカはよいのか? まりるの倫理規定がわからん。
オレたちは朱音さんのおにぎりで空腹を満たした。おにぎりの具は数種類だったが、ひきわり納豆が入っていたのにはおどろいた。なんと云うか納豆にたいして硬派である。
食事をおえたオレたちは神獣グラコロさんに奈落の上まで運び上げてもらった。
アレストリーナ姫が帰還させ忘れていたサーベルサーバルと合流し、サーベルサーバルにもおにぎりを食べさせると、ふたたび地下迷宮の帰路に就いた。
8
サーベルサーバルの背にゆられながら数時間かけてようやく〈アーデル・ファーム〉側の地下迷宮へもどってきた。地下迷宮にはマリモコウが灯されていて、かなりあかるく歩きやすい。
「だれか調教中だっちゃね。こっそりぬけだすっちゃ」
オレのガイドとサーベルサーバルの残響定位でだれともすれちがわずに地下迷宮をでた。およそ1日半ぶりの地上だが、地下迷宮の外はあいにくの豪雨だった。どこかかすかに遠雷がとどろく。
「……ちゃ!?」
アレストリーナ姫が雨に足をとられてコケた。……と思ったのだが、正しくはうしろからふたりの屈強な厩務員に組み倒されていた。
最初は雨煙にまぎれてよくわからなかったのだが、オレたちはG~F級召喚獣の群れに包囲されていた。




