第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈8〉
(ではアレストリーナ。われとの神獣契約儀式へ移ろう。服を脱げ)
「わかったっちゃ。……まりる、よろしくだっちゃ」
アレストリーナ姫が神獣グラコロさんへうなづくと、まりるへなにか指示した。まりるがオレの背中へとび乗ると、2本の手でオレの目をふさいだ。
「カオル、儀式見ない。姫のハダカ見る。だめるる」
いやいや、なにを云ってるのかな、まりるさん? オレはただ純粋な気もちで貴重な神獣契約儀式を見ておきたいと思うわけで、そんなアレストリーナ姫のハダカとかハダカとかハダカとかに興味は……オレは抵抗をあきらめた。いろんな意味でざんねん。
一糸まとわぬ姿になったアレストリーナ姫は召喚牌を手に神獣グラコロさんの前へ立った。
(アレストリーナ、きさまも知っているとは思うが、神獣契約とは主従が逆だ。神獣が人に仕えるのではない。人が神獣に仕えるのだ)
アレストリーナ姫は神妙な面もちでうなづくと召喚牌を神獣グラコロさんへかざして契約呪文を詠唱した。
「グラゴードリス・ラ・フラ・グラコロアリス・ドラゴン! モハ・フィリーナ・エスト・リリス・アレストリーナ・メラ・イスハ!」
アレストリーナ姫と神獣グラコロさんの足元に赤黒く光る巨大な呪法陣がまるくひろがると、召喚牌に刻まれたアレストリーナ姫の呪印が神獣グラコロさんの胸に転写された。
神獣グラコロさんの胸に転写されたアレストリーナ姫の呪印から放たれた銀色の光が召喚牌へ流れこみ、召喚牌を通してアレストリーナ姫の身体にもひろがっていく。
「うぐっ!」
苦悶するアレストリーナ姫の全身にも赤い呪印がうかび上がってきた。
「ぴぎいっ!」
それと同時に(と云っても、オレには見えていなかったわけだが)召喚牌が消滅し、オレの全身にも激痛が走った。まりるがびっくりしてオレからとびのくと、オレの全身にも赤い呪印がうかび上がった。
アレストリーナ姫とオレの全身を呪印がおおいつくすと、呪印は金色にかがやいて体表を這うように収縮していった。アレストリーナ姫と神獣グラコロさんの足元にひろがっていた巨大な呪法陣も消えた。
アレストリーナ姫の背中には複雑な紋様の黒々とした呪印がのこり、オレの右尻の呪印もちょっと紋様が変化したらしかった。
アレストリーナ姫は脱力してその場にへたりこんだ。いきなりの激痛に泡をふき、失神寸前のオレをモッケイモンキーのまりるがあわてて介抱する。
「……成功したっちゃ?」
(うむ。ただ少し順番をまちがえたようだ)
「……順番をまちがえた?」
不吉な言葉にアレストリーナ姫が眉をひそめ、神獣グラコロさんが申しわけなさそうに云った。
(アレストリーナと神獣契約をむすんでからトンカプーと契約しておけば問題はなかったのだが、トンカプーと先に契約したせいでトンカプーの方にも神獣契約の影響がでた)
「それでどうなるっちゃ?」
(わからん)
(なにが「わからん」じゃ、このすっとこ神獣! 危うく死にかけたではない……か)
正気をとりもどし、神獣グラコロさんへ喰ってかかるオレの目にとびこんできたのは、うす冥い空間にぼんやりと照らしだされたアレストリーナ姫の白い裸身だった。一瞬、文句を云うのも忘れて目が釘づけになる。
「……このエロブタ、なに見てるっちゃ!」
アレストリーナ姫に投げつけられた石がみごとにヒットして、オレはふたたび気をうしなった。
5
気がつくと、アレストリーナ姫が着衣をおえたところだった。オレはそれほど長く気絶していなかったらしい。どうして戦闘不能できないのかなぞじゃ。
「ウチらはどれくらいここにいたっちゃ?」
アレストリーナ姫の問いに神獣グラコロさんがこたえた。
(ほぼ1日と云うところかな?)
オレたちが地下迷宮へもぐったのは夜明け前。断崖の回廊まで2時間かかったとして地上はもう朝か。オレとまりるが召喚されて2日目と云うことになる。
……あ、そうだ。夏期講習最終日。〈アーデル・ファーム〉へもどってから地球へ帰還すればギリギリ間にあうかどうか……って、今そんなこと考えてる場合じゃないよな。われながらよくこの状況で思いだしたものだ。
(アレストリーナ。トンカプーが一度帰還させてほしいと云っている。ミナトさんにPCゲーム『フェアモン・バトル』のアクセス停止をたのんでくるとかどうとか……)
オレの言葉を神獣グラコロさんに通訳してもらうと、アレストリーナ姫がうなづいた。
「1時間後にふたたび召喚でよいっちゃ?」
惑星アルマーレの1時間と云うことは地球で20分。余裕はないがなんとかなるだろう。オレもアレストリーナ姫へうなづきかえすと、アレストリーナ姫が金色召喚牌でオレを帰還させた。




