第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈16〉
地下2階はT字路になっていた。通路の途中に左へ曲がる道があり、正面つきあたりにぼんやりと扉が見えた。
RPGとかだとどっちから先に調べるかが重要だったりする。奥の部屋でアイテムを手にしないと手前の部屋でモンスターとかゾンビにやられてしまうパターンもある。
とにかく目先のことからかたづけないと気が済まないシンプルな足し算思考のアレストリーナ姫が左の通路を調べようとしたが、アルキメヒト殿下がそれを制した。
「待つぜよ。とりあえず奥からぜよ」
奥の扉の向こうにあるのが部屋なのか通路なのか見きわめようと云うのだろう。当然のことながらアルキメヒト殿下の方がアレストリーナ姫より複雑な思考回路をおもちのようだ。
アルキメヒト殿下の提案をうけ入れたアレストリーナ姫が奥の扉を開けると、心なしか異臭のただよう空間が開けた。
思わず手で口元をおおったアレストリーナ姫の目にとびこんできたのは、通路の両側にならぶまがまがしい鉄格子の小部屋だった。扉わきの壁には7本のカギがかけられており、看守用と思しき小さな机もある。
「これは……牢獄だっちゃ?」
おそるおそる通路へ足を踏み入れると、うしろからアルキメヒト殿下が云った。
「アレストリーナ、その部屋の奥になにかあるぜよ」
「え、どれだっちゃ?」
アレストリーナ姫が冥い牢獄をのぞきこむと、いきなり背中を突きとばされた。
「痛ったあ! なにするっちゃ、中兄さま!?」
もんどりうって倒れたアレストリーナ姫がアルキメヒト殿下へ向きなおると、牢獄の扉がガチャン! と重い音をたてて閉まった。
「中兄さま!? こんなところで冗談ポイのすけだっちゃ! さっさと扉を開けるっちゃ!」
牢獄へ閉じこめられたアレストリーナ姫が絵に描いたような囚人みたいに鉄格子をゆらすも、アルキメヒト殿下はその光景をしずかに睥睨していた。
「まっこと、とんだアバズレ天使ぜよ。おんし、ワシにウソばつきよったぜよ?」
まりるがアレストリーナ姫を牢獄へ閉じこめたアルキメヒト殿下へおそいかかろうとしたのをすんでのところで制止すると、オレは天井からようすをうかがった。
「なに云ってるっちゃ!? ウチが中兄さまにウソなんてつくはずないっちゃ!」
「ふむ……なるほどウソではないぜよ。ただ、かくしていることはあるぜよ?」
「……かくしていること?」
すでにオレたちの尾行がバレてる!? アルキメヒト殿下の言葉に緊張したが、彼が口にしたのは別のことだった。
「地球でのモッケイモンキーは人間の姿で召喚獣の能力を発現したそうぜよ?」
「中兄さま、どうしてそのことを知ってるっちゃ!?」
「グラゴダダン殿下はもう少しで自分までおそわれるところだったと心底肝を冷やしておったぜよ」
「中兄さま、まさか……」
アレストリーナ姫が腰へ手をのばすが、召喚牌を入れた革製のポシェットはアルキメヒト殿下の部屋へ置いてきた。脱獄しようにも召喚獣を召喚できないことをアルキメヒト殿下へ印象づける名演技だ。相手を油断させて情報をひきだそうとしているのだろう。ああ見えてアレストリーナ姫もなかなかの策士だ。
「ワシのカワイイ天使よ。いずれ時がくれば、おんしにもきちんと話をしてワシらの力になってもらおうと思っていたきに」
「……ワシらの力? 中兄さま、グラゴダダンと組んでなにをたくらんでるっちゃ?」
「ワシはただ、アルマイリス皇国を召喚獣戦闘の実力に見あった皇国にしたいとのぞんでいるだけぜよ」
「召喚獣戦闘の実力に見あった皇国?」
「アレストリーナ、おんしはアルマイリス皇国がキルリーク大陸でもっとも領土の小さな皇国であることに屈辱を感じないがか? 今や召喚獣戦闘で三国一とも称されるワシらが小国に甘んじていることに屈辱を感じないがか? と、きいていおるぜよ」
「屈辱? そんなの感じないっちゃ。ウチは小さなアルマイリス皇国がかわいらしくて大好きだっちゃ。小国なのに召喚獣戦闘で三国一と称されるなんて名誉なことだっちゃ。むしろ、かっこよくないっちゃ?」
「……やはり、おんしは女ぜよ。皇女と云うめぐまれた地位で蝶よ花よと育てられたおんしには物事の本質がちっとものみこめておらんきに」
「中兄さまはウチを愚弄する気け!?」
柳眉を逆立てるアレストリーナ姫にかまわずアルキメヒト殿下がまくしたてた。
「強大な召喚師には広大な領地と莫大な富がなくてはならんぜよ。たくさんの強大な召喚獣を保持するためには広大な牧場が必要じゃし、莫大な富がなくてはたくさんの召喚獣を保持することすらかなわんぜよ」
「だからなんだっちゃ?」
「ワシらのような小国では優秀な召喚師にあたえられる爵位も牧場もかぎられるぜよ。そうなればいずれ優秀な召喚師は広大な領地と莫大な富をもとめて大国へ流出するぜよ。とどのつまりは大国に優秀な召喚師がつどい、小国は零落していくことになるきに」
アルキメヒト殿下の云い分にも理はある。とは云え、優秀な召喚師全員が富や権力に固執しているわけではなかろう。アレストリーナ姫のように誇りと名誉を重んじる召喚師もいる。
「召喚獣戦闘の力量におとる小国であればそれでもよいぜよ。しかし、ワシらのアルマイリス皇国はちがうぜよ。だからワシらはひそかにグラゴードリス皇国の手を借りて凡庸なジギリスタン皇国を侵略することにしたぜよ」
「ジギリスタン皇国を侵略!? ワシらって皇帝アルマロドス2世……父さまや議会はご承知なのけ!?」
「すべては皇帝アルマロドス2世の御意思ぜよ! ……ワシらが動きだせば議会など屁でもないわ!」
「父さまの……? 正気の沙汰じゃないっちゃ! バカなことを云ってないでグラゴダダンとは手を切るっちゃ!」




