第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈15〉
「ウチも自分がおそわれるまで信じられなかったっちゃ。グラゴダダンは〈シュピーリ・ファーム〉のどこかで人をおそうことのできる召喚獣の研究をしているはずだっちゃ。なにかよからぬことをたくらんでいるにちがいないっちゃ」
「……その話だれかにしたがか?」
アルキメヒト殿下の問いかけにアレストリーナ姫が頭をふった。
「まだだっちゃ。その証拠をつかむための隠密行動だっちゃ。中兄さまをたよってきたっちゃ」
「なるほど。賢明ぜよ。……くわしいことを聞かせてほしいぜよ」
アレストリーナ姫は真実を半分だけアルキメヒト殿下へ語った。
まりるが人をおそうことのできる召喚獣であることは出がけに判明したわけだが、まりるがオレと一緒に地球へ帰還する直前にかすりキズを負わされたことにした。
地球でのまりるが人の姿だったことも、人の姿で召喚獣の能力が発現したこともだまっていた。アルキメヒト殿下には危険な召喚獣を地球で保護していることにしておいた。
「敵をあざむくにはまず味方から」と云うが、アレストリーナ姫の場合は、きちんと説明するのをめんどうくさがっただけの話だ。
アレストリーナ姫の話を身じろぎもせずに聞いていたアルキメヒト殿下が沈思黙考し、ややあっておもむろに口を開いた。
「……そう云えば、三角城を案内された時、地下のワイン倉の奥に不自然な扉を見た記憶があるぜよ。今はつかっていない物置だと云っていたが、違和感がのこったのも事実じゃきに。ひょっとすると、あそこが秘密の研究所につながっているかもしれんぜよ」
「きっとそうだっちゃ! そこを調べてみるっちゃ。中兄さま、案内してほしいっちゃ」
アレストリーナ姫が足元に置いたバックパックへ手をかけるとアルキメヒト殿下がそれを制した。
「まずはようす見ぜよ。よけいなものは置いていくぜよ」
「なるほど。そうだっちゃね」
「召喚牌は?」
「ここに入ってるっちゃ」
腰にゆわえられた革製のポシェットをポンと軽く手でたたくと、
「それもバックパックへしまっておくぜよ。万が一の時、そんなものをもっていたら攻撃の意思ありと難クセつけられるのがオチじゃきに」
今のアレストリーナ姫は、前回〈アーデル・ファーム〉へ無断で潜入したグラゴダダンとおなじ立場にある。アレストリーナ姫はすなおにアルキメヒト殿下の言葉にしたがった。
すでにオレとまりると云う頼りがいある召喚獣を2体もひそませているのだから、召喚牌なしでも最悪の状況は避けられるはずだ。
マリモコウのランプを手にこっそり部屋をぬけだしたアルキメヒト殿下とアレストリーナ姫のあとをオレとまりるもはるか頭上からしずかに追った。
9
1階の食堂から地下へ下りると通路の左右に大きな扉がいくつもならんでいた。いずれも食料貯蔵庫であるらしい。
「……そう云えば、お腹へったっちゃ」
〈アーデル・ファーム〉をでてからなにも食べていないアレストリーナ姫のつぶやきにアルキメヒト殿下が微苦笑した。
「こんな時でも食い気とは、まっこと肝のすわったオテンバ天使ぜよ」
通路の奥に大きなひき戸があった。ワイン倉であるらしい。小さくひき戸を開いてアルキメヒト殿下とアレストリーナ姫、その頭上をオレとまりるがもぐりこんだ。
カビくさい室内にワイン樽がところせましと横倒しにつまれていた。アルキメヒト殿下の云った通り、ワイン倉の奥に扉があり、その扉をさえぎるようにワイン樽がいくつも立てられていた。オレは未成年なのでワインをたしなむ趣味はないが、いいかげんオレものどがかわいた。腹がへった。
「この奥だっちゃね」
アレストリーナ姫がワイン樽を動かそうとするが重くてビクともしない。
「中兄さま」
「ちょっと下がるぜよ」
アレストリーナ姫をしりぞかせたアルキメヒト殿下が樽の周囲を注意深くさぐった。樽の側へしゃがみこんだアルキメヒト殿下がひとりごちた。
「これぜよ」
ワイン樽をしめる鉄の箍に小さな鉄の輪がついていた。アルキメヒト殿下がその輪をひっぱると中から鎖がのびた。
アルキメヒト殿下が鉄の輪から手をはなすとならんでいたワイン樽が横へスライドして扉が開いた。
「すごいっちゃ、中兄さま!」
「ほたえな、アレストリーナ」
はしゃぐアレストリーナ姫を小声でいさめると扉を背で押さえたままアレストリーナ姫を先へうながした。
アルキメヒト殿下が扉から背をはなすと、扉が閉まるのと同時にワイン樽の列も元へもどった。オレとまりるもギリギリで中へすべりこむ。
せまい石段がさらに地下へとつづいていた。アレストリーナ姫の背後からアルキメヒト殿下がマリモコウのランプでアレストリーナ姫の足元を照らす。アレストリーナ姫とアルキメヒト殿下のカツカツと云うブーツの音だけが小さくひびく。




