第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈6〉
とは云え、わからないこともある。
人間の姿をしたまりるが人間の姿のまま召喚獣フェアモンの能力を発揮できた理由、グラゴダダンが人間の姿で地球にいて召喚獣フェアモンを使役できた理由である。
オレたちが自分の意思で惑星アルマーレへいけないように、惑星アルマーレの人間も自分の意思で地球へくることはできないはずだ。
グラゴダダンが地球へくるためには、地球にグラゴダダンの召喚師がいなければならないし、召喚されたとしても動物の姿になってしまうはずだ。
さらにグラゴダダンが惑星アルマーレから召喚獣フェアモンを召喚したとすれば、まりるのように人間の姿で顕現けんげんしていなければおかしいと云うことにもなる。
「……この矛盾を解消する結論を導きだすにはピースが足りない。しかし、私の推論が正鵠せいこくを射いているとすれば、グラゴードリス皇国はなにかよからぬ陰謀をくわだてているにちがいない」
その秘密を解くカギとなるのが4本腕のモッケイモンキーまりるだ。
まりるがなにか特別な召喚獣フェアモンでなければ、グラゴダダンが地球くんだりまでやってきて、見ず知らずのオレたちへ召喚獣フェアモンをけしかけるはずもない。
「……地球時間の3日やそこらでまりるの所在を特定できたところも気にかかる」
「ここも襲撃されるってこと?」
菜々美ちゃんの質問に瑞希みずきが小さく頭かぶりをふった。
「それはあるまい。惑星アルマーレの人間は人間へ危害をくわえることを禁忌タブーとしているからな。先せんの襲撃もあくまでまりるの捕獲ほかくが目的であって、よもやかえり討うちにあうなど想定外だったはずだ」
「そう云えば、ナナミンが一番最初にマリルンのことモッケイモンキーって気づいたよね?」
いささか重苦しくなったリビングの空気をかえるかのように朱音あかねさんが菜々美ちゃんへたずねた。云われてみれば、いきなりまりるへモッケイキシキシを命じたのは菜々美ちゃんだ。
「菜々美、PC版『フェアモン・バトル』をやってた時、けっこうモッケイモンキーつかってたんです。まりるちゃんが最初のプテラノドラキュラをやっつけた時、あれってモッケイヴァルハラだ! って思って」
モッケイヴァルハラと云うのは、モッケイモンキーがかぎ爪で相手をバッテンにひき裂く必殺(基本)技である。
「あ、そうだ! カオルちゃん、ひょっとしてPC版『フェアモン・バトル』の召喚師プレイヤー名って〈灼撃しゃくげきのカオル〉?」
「……自分で〈灼撃しゃくげきの〉と名のったことはありませんけど」
いきなり図星を突かれたオレはいささか照れながら訂正した。
「そのまんまカオルってひねりなさすぎない?」
「べつにひねらにゃならん必要とかないでしょ? ……アカネさんこそ召喚師プレイヤー名はなんだったんですか?」
「人よんで〈迅雷じんらいのシュオン〉きゅん」
〈迅雷じんらいのシュオン〉。PCゲーム『フェアモン・バトル』でも十指に入るトップ召喚師プレイヤーだ。イケイケドンドンな戦術で勝っても負けても気もちのよい召喚師プレイヤーで人気もあった。なるほど、朱音あかねを音読して朱音シュオンか。
「アカネさんの召喚師プレイヤー名だってさほどひねってないじゃないですか。それにオレ、アカネさんと何度もバトってますよね? たしか5勝2敗でオレの勝ちこしですけど」
「だから名前をおぼえてたんじゃない。女のコだと思ってたからライバル視してたのに、カオルちゃんだとわかったらムカツクきゅん」
「どう云う理屈ですか!?」
名前もアバターの姿もふつうの男だったのに、どうして女のコだと思われていたのかもナゾじゃ。
「じゃあじゃあミズキュンは? ミズキュンの召喚師プレイヤー名なんだったの?」
朱音あかねさんが瑞希みずきへ水を向けると、瑞希みずきが平坦な口調でこたえた。
「アリスタルコス」
「……〈賢者アリスタルコス〉!?」
「そんなよばれ方をしたこともあったな」
瑞希みずきのアバター名に朱音あかねさんが瞠目どうもくした。
〈賢者アリスタルコス〉。PCゲーム『フェアモン・バトル』でも伝説レジェンドとよばれたトップ召喚師プレイヤーだ。最小のダメージで最大の勝利。20手先を読むと云われた華麗かれいな戦術で他の追随ついずいを許さなかった。
ちなみに、アリスタルコスと云う名前は古代ギリシアで最初に地動説をとなえた人からとったそうだ。瑞希みずきらしいと云えばらしい。
「ナナミンは?」
「え!? 菜々美ですか?」
アバター名をたずねられた菜々美ちゃんがあからさまに動揺どうようした。
「あ~、えっと菜々美は……ハッピーセブンって云ってました」
菜々美ちゃんがあさっての方向を向いたまま消え入りそうな声で云ったカワイらしい召喚師プレイヤー名にオレたちは凍りついた。
「まさか……〈鏖殺おうさつのハッピーセブン〉!?」
〈鏖殺おうさつのハッピーセブン〉またの名を〈ブラッディー・ハッピーセブン〉。PCゲーム『フェアモン・バトル』で最凶と謳うたわれるトップ召喚師プレイヤーだ。
エゲツない戦術で対戦相手を完膚かんぷなきまでにたたきのめし再起不能にすると云われた、瑞希みずきとは真逆の意味で伝説レジェンドとよばれるトップ召喚師プレイヤーである。清楚可憐せいそかれんな菜々美ちゃんからはまったく想像もつかない。
「人は見かけによらないって云うけど、あの〈鏖殺おうさつのハッピーセブン〉がナナミンだったとは意外だわ。ゲームとかだと人格かわっちゃう人だったのね~。サンドロバルバドスってのは当然だわ、うん。……悩みとかあったら相談にのるよ?」
どうやら朱音あかねさんは〈鏖殺おうさつのハッピーセブン〉の召喚獣戦闘フェアモン・バトルを見たことがあるらしく、ひとりで勝手に得心とくしんしていた。
「それは、あの、なんかウワサに尾ひれがついておおげさに吹聴ふいちょうされてしまったと云うか……、べつに悩みとかないですっ!」
菜々美ちゃんがしどろもどろに〈鏖殺おうさつのハッピーセブン〉その人であることを認めた。どんなウワサに尾ひれがつくとあれほどの悪名あくみょうになるのか気になるところではあるが、真実を知るのがコワイ。




