第二章 召喚獣のざわわな夏休み。〈12〉
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「アリバイ……? ミズキュンいったいなんのこと?」
瑞希の言葉をいぶかしむ杏條センパイが訊ねた。
「今朝、私が起床したのは午前8時42分。洗顔のため部屋をでると、朝のゴミだしからもどってきたミナヨが云った」
美奈代と云うのは瑞希のお母さんである。
「今、1階のエレベーターホールでカオルくんに会ったわ。夏期講習大変ね、と」
なるほど云われて思いだした。たしかにオレは今朝、1階のエレベーターホールで美奈代さんとばったり会って挨拶をかわしている。
「逆算するとミナヨとカオルがエレベーターホールで顔をあわせたのは午前8時40分頃。カオルが家をでたのは、夏期講習へ間にあうギリギリの時間だ」
「そうそう」
とオレは瑞希の言葉にうなづいた。教室へ着いたのは始業5分前である。
「始業時にカオルが教室へいたことは英語担当のナラハシ先生にも確認してきた。ギリギリの登校時間で童女を拉致し、学校まで運ぶのは不可能だ。よしんば、カオルが童女を拉致できたとしても、人目につかず校門をまたぐには周囲の目がありすぎる」
その時刻はすでに校庭で運動部の生徒たちがウォーミングアップをはじめていたし、もちろん通学路にも人通りはある。オレが童女をかついでいたら目にとまらないはずがない。
「そ、それじゃ昨晩あるいは早朝にあのコを拉致して校内の人目につかないところへかくし、なに食わぬ顔でふたたびギリギリ登校したとか?」
「その可能性がないこともない。しかし、ネットで確認したが、この近辺で行方不明童女の捜索願いはでていない。カオルが童女を拉致したとして一体どこへ監禁した?」
「それはこれからさがしてみないと……」
「今、教室を調べてきたが、教室から童女の衣服は見つからなかった。掃除用具入れなど童女をかくせそうな場所もさがしてみたが、監禁した形跡はない」
さっきはどこへ消えたかといぶかしんだが、瑞希はオレの潔白を証明すべく動いてくれたらしい。いやはや、お手洗いかと疑ってすまなかった。もつべきものは幼なじみの超絶天才美少女である。
「カオルが校内のどこぞへ童女を監禁したとすれば、カオルはそこで童女の衣服をはぎとり、全裸の童女をかかえて教室へもどったことになる。いかにカオルがマヌケといえども、さすがにそれでは無謀がすぎよう」
「……たしかにそうだね」
杏條センパイが瑞希の言葉に自説をひるがえしはじめた。どうでもよいけど、オレがマヌケと云う点はくつがえらんのか。
「カオルの机の上は開いたままのノートや教科書、筆記具がかたづけられず、そのままの状態だった。いかにカオルが圧倒的性欲に突き動かされていたとは云え、机の上もかたづけず、監禁した童女のもとへ走っていれば、だれかが不審や違和感をおぼえぬはずはない」
そもそもオレはその間、惑星アルマーレへ召喚されていて地球にいなかったのだから、だれかに見とがめられるはずもない。
「しかし、カオルおよび不審者の目撃証言はえられなかった」
「瑞希……」
この短時間でオレの無実を証明すべく校内を奔走してくれたであろう瑞希の尽力にオレは胸が熱くなった。
「まったく。決定的な証拠をつかんでつるし上げようと思っていたのに、ここまでなにもでないとは思わなかった」
ちょっと待て!? 瑞希おまえ、オレの無実を証明しようとしたんじゃなくて、オレの有罪を確実なものとするために動いていたってこと!? 自分で云うのもなんだけど、あの場合、状況証拠だけでもまちがいなくアウトだ。そこへさらにとどめを刺そうとするって、どんだけ鬼畜だ!?
「……それじゃ、このコはなんであんな格好でカオルくんのところへ?」
童女のかたわらへ座す菜々美ちゃんが瑞希へたずねた。理路整然と説明がつくのか?
「オカルトで云うところの〈神かくし〉であろう」
「神かくし?」
これはまた大胆なご高説を。
「現行の宇宙論では、私たちの宇宙は10ないし11次元で構成されており、そのうちの6~7次元の空間は私たちが気づかぬほど小さくまるまっていると考えられている」
瑞希が突然、オレたちへ背を向けると、学生議会室の黒板に意味不明の数式を書きはじめた。オレたちへ自説を証明するためではなく、自身の内でなにかを納得させ根拠づけようとする儀式のようなものであろう。
いきなり晦渋な宇宙論をきりだされたオレたちはすでに瑞希の話についていけてない。瑞希はそんなオレたちに気づかぬまま、背中でさくさく話をすすめていく。




