表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/95

第二章 召喚獣のざわわな夏休み。〈7〉

挿絵(By みてみん)


「トンカプー! そこの細い道を探索するっちゃ!」


 アレストリーナ姫がオレへモッケイモンキーとランスリカオンのでてきた路地をさぐれと指示した。


 なれない地下迷宮(ダンジョン)でアレストリーナ姫もいささかテンパっていたのであろう。なにかがものかげにひそんでいればサーベルサーバルが警戒するはずだ。もう少し召喚獣(フェアモン)の機微に目配りできなければ一流召喚師への道は遠い。


 オレはなんの警戒もせず、悠然(ゆうぜん)と細い路地の前へ歩みでた。ここにはだれもいませんよ。そんな余裕を見せたつもりだったが、いきなり路地からでてきただれかなにかがオレの小さな身体につまづいてもんどりうった。


「ぴぎいっ!」


 痛ってえ! なかば蹴とばされたオレもかたい石の床を転がる。


 見ると黒いフードつきのマントを羽織った不審者が腰砕けの体勢で壁にキスしていた。ひらたく云うと、こけてよろけて顔面から向かいの壁へ激突していた。


「あの~、だいじょうぶけ?」


 突如としてあらわれた不審者のぶざまな姿を哀れんだアレストリーナ姫がおずおずと声をかけた。


 その声でわれにかえった黒の不審者がフードを目深(まぶか)にひき下ろしながらアレストリーナ姫へ向きなおった。


「……だ、だ~っはっはっは! 女! その召喚獣(フェアモン)をこちらへわたせ! すなおにわたせば悪いようにはいたさん!」


 黒の不審者が両手にかがやくキンキラキンの指輪と両腕のブレスレットをガチャガチャいわせながら指さしたのは、アレストリーナ姫の抱くモッケイモンキーだった。


 と云うことは必然的にこうなる。


「おまえ、グラゴードリスのグラゴダダンだっちゃね? おまえこそウチの皇国(シマ)でなにしてるっちゃ?」


「……ウチの皇国(シマ)? はっ!? もしやキサマはアルマイリス皇国第3皇女アレストリーナ姫!?」


「そう! ウチこそ〈ヴァーデルンの屈辱(くつじょく)〉で大陸中にその名を()せた〈ウンコたれのおねえちゃん〉ことアレストリーナ……ってなにを云わせるっちゃ!?」


 ……いやいや。ぜんぶ自分で勝手に云ってたし。て云うか、すっげ~自覚あったのね。


 アレストリーナ姫が気をとりなおして黒衣のグラゴードリス皇国第2皇子グラゴダダン(仮)を問いつめた。


「ど~ゆ~了見だっちゃ、グラゴダダン殿下? 不法入国で召喚獣(フェアモン)を使役し、あまつさえ他国で未登録の召喚獣(フェアモン)狩りをおこなうなんて、完璧な国際法違反だっちゃ!」


「グ、グラゴダダン? だれのことだそれは? 私がそんな高貴なお方であるはずは……」


「とぼけるんじゃないっちゃ! さっき、この仔を追ってきた召喚獣(フェアモン)たちにおまえの呪印(じゅいん)があったっちゃ!」


「じゅ、じゅじゅじゅ呪印(じゅいん)? なにを云う? ランスリカオンどもに私の呪印(じゅいん)など刻印(こくいん)されていたわけが……」


「……どうしてこの仔を追ってきた召喚獣(フェアモン)がランスリカオンだと知っていたっちゃ?」


「ぎっくう!」


「語るにおちるとはまさにこのこと。観念するっちゃ、グラゴダダン殿下」


 居丈高に勝ちほこるアレストリーナ姫であったが、低レベルな会話の応酬にオレはヤレヤレと嘆息(たんそく)した。


 召喚師はおちこちを旅して召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)するのが仕事だが、召喚獣(フェアモン)は一応、武器武装とみなされる。


 国境をこえる時は、手もちの召喚牌(カルタ)の数と保持(キープ)する召喚獣(フェアモン)の頭数(場合によっては保持(キープ)する召喚獣(フェアモン)の種類まで)申請しなければ入国許可が下りない。


 また、召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)関連施設以外でD級以上の召喚獣(フェアモン)をひきつれて歩くことも禁じられている。許可されるのはA~B級召喚獣(フェアモン)なら2体まで、騎乗用C級召喚獣(フェアモン)1体までときびしく制限される。


 街中でE級召喚獣(フェアモン)をつれて歩くと云うことは、アサルトライフルやロケットランチャーをかついで街を歩きまわるようなものだ。銃社会のアメリカにおいても危険人物とみなされよう。


 さらに、召喚獣(フェアモン)の素体となる動物の狩猟も事前申請・事後報告が必要となる。


 強い召喚獣(フェアモン)の素体となる動物は商品として高値で取引されるし、固有種や絶滅危惧種などの乱獲をふせぐためでもある。


 ここ〈アーデル・ファーム〉も召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)関連施設ではあれど、不審者が自由に召喚獣(フェアモン)をつれまわしてよいところではない。


 ようするに、グラゴードリス皇国第2皇子グラゴダダンは召喚獣(フェアモン)で武装して〈アーデル・ファーム〉を襲撃にきたようなものだ。グラゴードリス皇国によるアルマイリス皇国への奇襲および宣戦布告ともうけとられかねない状況である。


 だからこそ、グラゴダダン(確定)は正体をかくしてあらわれた。召喚獣(フェアモン)呪印(じゅいん)で即座に正体が看破されると云う初歩的かつ致命的なミスに気がつかぬまま。


「ア、アレストリーナ姫。私に敵意はない。その召喚獣(フェアモン)をわたしてくれればすぐに帰る。たかがB級召喚獣(フェアモン)の1匹や2匹、姫にはどうでもよいことであろうが?」


「……たかがB級召喚獣(フェアモン)なら、どうしておまえはこの仔にこだわるっちゃ? キルリーク大陸最大の国土をほこるグラゴードリスの皇子なら、B級召喚獣(フェアモン)なんてよりどりみどりじゃないのけ?」


「し、しかし、それは私の召喚獣(フェアモン)だ! 私が私の召喚獣(フェアモン)をかえせと云ってなにが悪い!?」


「グラゴードリスからノイエルム山脈をへだてたこのアルマイリスまでD級召喚獣(フェアモン)に騎乗しても2日はかかる難所だっちゃ。こんなか弱いB級召喚獣(フェアモン)がランスリカオンの追撃を避けながら自力でグラゴードリスからアルマイリスまで逃げてくることができるとは思えないっちゃ」


 アレストリーナ姫が真綿で首をしめるような正論でじわじわとグラゴダダンを追いつめる。


「この仔がおまえの召喚獣(フェアモン)だと云うのなら、呪印(じゅいん)のない理由と、この仔がどうやってここまで逃げてきたのか納得のゆく説明をしてみせるっちゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ